失恋の後にはもっと素敵な出逢いが待っている
「きっとね、その女の子はいつか、とても素敵な人に巡り合えると思う」
私がようやく落ち着き、つぐみちゃんの胸から離れると、彼女は夢見る乙女の純心と、傷を負って痛みを知った少女の艶を織り交ぜた笑みを浮かべて、迷える子羊を諭す女神のように優しく言った。
「だといいな」
「そう信じよう? 実はね、私も中学のとき、似たようなフラれかたをしたの」
「うえっ!?」
「え」
突然のカミングアウトに私とまどかちゃんはビックリして目を丸めた。
「い、いつ!?」
「3年生の3月。別の学校に進むから、思いきって告白してみたの。でもダメだった。それどころか心がズタズタにされて、あんなに傷付けられたことはなかったなぁ」
「えっ、えええ!? ちょっ、ちょちょちょっ、そそ相談してくれれば良かったのに」
「そうだよ、私らそんなに頼りない?」
「ううん、そうじゃないの。誰かを好きになったのはそれが初めてで、周りの人に伝えるのが恥ずかし過ぎて……」
「そっかぁ、うんうん、つらかったね」
私はさっきとは逆に自分の胸につぐみちゃんを抱き寄せ、頭を撫で撫でした。
わーあ、髪ツヤツヤでいい香り!
「ふふっ、沙希ちゃん、フルーツのいい香り」
「やばっ、部活の後シャワー浴びてきたんだけどな」
私とつぐみちゃんの応酬を陸は直視できないようで、わざと視線を反らしてはチラチラとこちらを見ている。
して欲しかったら、陸にもハグするんだけどな。
体臭を発している自分が恥ずかしいのと申し訳なさで、私はつぐみちゃんを解放した。
「でもね、もういいの。素敵な出逢いがあったから」
「うん、そっか。それは良かった」
純心な彼女のホクホクした笑みに、自ずと表情筋が緩む。
「おーうすまん、遅くなった!」
「ほら、つぐみちゃん」
私は耳元で囁いた。
「うん」
大好きな彼の登場に、つぐみちゃんの頬は桜色。まだ実ってはいないようだけど、こちらの二人も冬の間に大会で何度か顔を合わせたり、この6人で遊びに行ったりで距離は縮まっている。
「武道遅い! 罰として香川屋で揚げ物奢れ!」
ここに来て結構な時間が経過している。お店の前に屯われては迷惑だろう。
「すまん沙希、みんなも。すぐそこのラーメン屋にいたんだけどな」
私は武道にお金を渡すも待たせたからいいと返し、彼は店内に入った。出てきたときに持っていたのは、バナナアイスだった。




