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私たちは青春に飢えている  作者: おじぃ
動きだす恋愛模様

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22/32

すんごいムラムラしてる!

「っていうことがあってね、ほんともうすんごいムラムラしてる! だから脳の栄養補給も兼ねてアイスでクールダウンしたかったの!」


 私は翔馬の名は伏せて、四人に昼間の出来事を話した。あぁもう思い出すだけではらわた煮えくり返る。アイツのはらわた煮てモツ鍋にしてやりたい。


「沙希、ムラムラしてるの?」


 まどかちゃんの問いに、つぐみちゃんは少し恥ずかしそうに頬を膨らませ、目を点にして斜め下を向いている。陸と自由電子くんはノーリアクション。


 そう言われて見ると……。


「ムラムラじゃない! えーと、なんだっけ?」


 正しいワードを思い出せない夢のような女子。最下級クラスの15組。国語は唯一それなりに点数を稼げるのに、言葉を正しく使えないようじゃいよいよ本当にヤバいかもしれない。


「メラメラだろ?」


「そうメラメラ!」


 そう、それだよそれそれ! メラメラ!


「さすが陸! 私より頭の回転いいね!」


「まだ根に持ってんのか?」


「何が?」


 はて、なんのことやら。


「忘れてるならいい」


「酉と戌のバトンタッチ」


「覚えてるじゃねぇか」


「えっへん! そう簡単には忘れないさ」


 昨年大晦日の夕方、陸といっしょにヘッドランドビーチの砂浜を歩いているときに見つけた鳥と犬の足跡。二つが並行していて、まるでリレーのバトンタッチをした痕跡のようだった。


 私と陸の意味深な会話に、まどかちゃんは何か納得したようにじっとこちらを見た。自由電子くんは立ち上がって自販機で微糖の缶コーヒーを買い、まどかちゃんの座る隣にちょこんと戻った。いっしょにいてもあまり会話のない二人だけど、昨年末の記録会を境に少しずつ距離が縮まっているのがわかる。がんばれ二人とも、ゴールは近いぞ。


 そのとき、夕方5時を知らせるチャイム、童謡『赤とんぼ』が、まだ青空が広がり陽の高い茅ヶ崎の空に鳴り響いた。かつて茅ヶ崎には『赤とんぼ』を作った作曲家が住んでいて、東京へ向かう東海道線の車中で曲が浮かんだという。


 風が少し、涼しくなってきた。


 海のほうからサーフボード用のラックを取り付けた自転車が続けざまに走って来て、茅ヶ崎の一日は夜のステージへと向かっている。


「二人とも、沙希ちゃんの知ってる人なの?」


 つぐみちゃんに問われた。陸と見知らぬ女の子の話題に戻った。


「男は知ってるけど、女の子は知らない」


「そうなんだ、知らない人のために腹を立てられるなんて、沙希ちゃんはやさしい人なんだね」


 やさしい、私が、やさしい……!


「つ、つぐみちゃん……うおおおおおお!!」


 目が、目が滝のようにティアドロップを噴出している!


 やさしいなんて、やさしいなんて、お父さんにも言われたことないのに!!


 感激だ、私はいま、猛烈に感激している!!


 あぁ、今度はメラメラじゃなくてムラムラしてきた! 私をやさしいと称えてくれた目の前のウサギちゃんに抱き着きたくて、激烈にムラムラしている!!


 ぎゅっ!


 辛抱堪らなくなった私はつぐみちゃんの胸に飛び込み、「うおおおおお! つぐみちゃん、つぐみちゃーあああん!」と盛大に泣きじゃくった。


 つぐみちゃんは「よしよし」と私の頭を優しく撫で、泣き止むまでそれを続けてくれた。


 いい子、つぐみちゃん本当にいい子!


 早く武道と幸せになってくれよな!

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