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 なんの形も持っていない。水槽の中に浮かぶ、ただの白い塊には、それでも確かに命の反応があった。そこには意識があり、それはやがて、慎重に誘導してやると、確かに人に似た形を取り始めた。遥は驚愕した。何度も吐いたし、何度も研究所を去ろうと思った。だけどできなかった。遥がいなくなれば、このか弱い命はやがて死んでしまうからだ。

 照子はやがて真っ白な赤ん坊になった。当初の予測通りに常人とのコミュニケーションは取れなかった。言葉も喋らない。自分から動くこともない。泣いたりもしない。

 それでも人間を作り出したことには変わりがなく、世界初の実験成功に雨森研究所のみんなはまるでその日のクリスマスを祝うパーティーに参加した子供たちのように喜んでいた。

 やっぱりなにかを作ることは楽しい。照子の異変に気がついたのはおそらく遥だけだった。

 照子は極端に体が弱い。生まれてからずっと無菌室の中でデータを取り続けた。数値がおかしかった。予測とはかけ離れた数字が印刷された真っ白な紙の上には並んでいた。遥がこれほど自分の予測と違う出来事に遭遇したことは生まれて初めてだった。遥の予測値がこれほど外れたことは一度もなかった。遥はその日から照子に夢中になった。原因がわからなかったからだ。わからないという感覚は遥にとってとても新鮮で、まるで初恋のように魅力的な感情だった。

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