51 12月25日 真夜中 …………。
12月25日 真夜中 …………。
この世界は全部が全部偽物なの。
じゃあさ、全部が偽物の世界の中で、私たちだけが本物だね。
遥は困っていた。夏が眠ってしまったのだ。夏は今遥の膝の上で眠っている。幸せそうな寝顔だ。きっと休まないで動き回っていたんだ。スイッチが入りっぱなし。夏にはそういうところがある。
はぁーと遥はため息をつく。かわいいんだけど、危なっかしい。さて、どうしようか? 遥は空を見上げる。ドームの外では雪が降り続いている。雪は明日も降り続く予定だ。ドームの内側は外側よりも寒くはないけれど、このまま外で眠れるほど暖かいわけではない。
雪の降るホワイトクリスマス。一年中、遥はずっと地下にいる。地底に潜って仕事をする。昨日も今日も明日も同じ。だけど夏が訪ねてきたせいで遥は地上に這い出てしまった。まだ成熟もしてないというのに。まださなぎから成虫になる準備もできていないというのに。無理やり地上に連れ出されてしまった。
もし今夜ここに夏が居なかったら、遥は今日も地上に出ることもなく地下に籠もりっきりだっただろう。雪を見ることもなく、冬を感じることもない。季節を忘れて生きていただろう。そんなことを考えて遥はちょっとだけ笑った。胸の奥がなんだか少し暖かくなった。
それは不思議な感覚だった。忘れていた感情。誰かを思う気持ち。誰かに思われる気持ち。一緒にいて楽しいと思うこと。嬉しいこと。優しいこと。いろんな気持ちが溢れてくる。心に色彩が蘇ってくる。こんな経験本当に久しぶりだ。記念にこの感情を描いて一枚の絵にでもしてしまいたいくらいだった。この気持ちは今まで私の中のどこに隠れていたのだろう? 遥は考える。もしかして夏が運んできてくれたのかな? 遥は夏の鼻を人差し指で何回か押してみた。夏はくすぐったそうにして顔を動かすが、起きる気配はまったくない。だから遥は今のうちに自分のやるべきことをやってしまうことにした。




