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「クリスマスになにか予定があるの?」 

 もしかしたらボーイフレンドがいるのかもしれない。そんなことは絶対ないと知っているのに、夏はつい、そんな空想をしてしまう。それは嫉妬と呼ばれる感情なのかもしれない。

 遥はまったく男性に興味を示さないが信じられないくらいに綺麗なので、とてももてる。男性にももてたが、女性にももてる。学園でも遥に憧れていたお嬢様たちがたくさんいた。夏もその中の一人だった。

 遥はいわゆる世間から隔離された学園という孤島に咲いた一輪の高嶺の花で、学園にいたときには(非公式の)ファンクラブのような団体も結成されていたほどだ。表向きの理由では世間から身を隠すシェルターとして学園を利用していた遥は、そこでもまた周囲の好奇の目にさらされることになった。夏と遥の通う学園は超有名なお嬢様学校で、その学園に通う無知で無垢な世間知らずの、まだ蕾のような美しい少女たちが、綺麗な花の蜜を吸いにきた蝶のようにたくさん遥の周囲に群がった。だけど、遥には気軽に話しかけることのできない雰囲気があるので、ほとんどのファンは実際には遠くから見ているだけだった。そんな中で夏は唯一、遥と並んで学園を歩くことができた。自慢だったし、嬉しかった。

「照子の誕生日」遥は言う。意外と普通の答えだ。やっぱり恋愛は遥にはまだ早いのかな?

「ケーキとか食べるの?」

「食べない。年齢の確認をして軽い健康診断をするだけ。あとはとくになにもしない」遥は作業をしながら答えてくれる。

 遥は決して、連絡もなしにいきなり極秘の研究所を訪ねてきた無礼者の夏を無視しない。遥は優しいのだ。それは初めてあったときから知っている。

「照子はずっとあの部屋にいるの?」

「照子は一人では動けないの」

 遥は照子をとても可愛がっている。お人形さんみたいに可愛いことは認めるけど、夏には照子の価値がいまいちよくわからない。だけど、遥を夢中にさせるなにかが照子にはある。それは間違いない。

 遥だけが気がついた照子の魅力。照子の特別な力。それはいったいどんな才能なのか? 木戸遥は一言で言うのならカリスマだ。その内側の頭脳と外側の容姿。経歴や実績から、遥を神様のように崇めている人もいる。木戸照子がそのさらに上をいく才能だとしたら、一般人の夏ではもう理解なんて絶対にできない。

「ちょっとさ、探検してきてもいい?」夏がそう言うと遥は手を止めて、椅子ごとくるりと半回転して夏のほうを向いた。

「面白い物なんてここにはないよ」遥は椅子の上で体育座りをする。

「面白い物しかないから、遥はここに籠ってるんでしょ?」夏は遥に反論した。

 この論争は珍しく夏が勝った。一瞬だけ体の動きを止めた遥は、夏を見ながら、あきれたような顔をした。

「いいよ」

 そう言うと遥はくるりと半回転して、また作業に戻った。

 夏は椅子から立ち上がると一人で歩いて遥の部屋を出て行った。

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