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 神話の中に描かれるバベルの塔のお話のように神様に破壊されたり罰を受けたりする心配もない。神様はもう人類の側からいなくなってしまったからだ。人類を怒ってくれる存在はもういないのだ。(……だから安心して、人は罪を犯すことができる)

「私は澪のことも、好きだよ。友達だもんね」夏は言う。

 すると澪は照れたのか、画面の中でとても嬉しそうにはしゃいでいる。

「僕ももちろん、夏のことも大好きだよ。友達だもんね」そう言いながら、顔を赤くして、澪はへへっと恥ずかしそうに笑う。そんな澪を見て、可愛いやつだ、と夏は思う。だからもっと可愛がってやろう。

 誰かを幸せにする嘘なら、それはもう嘘ではない。真実はいつだって人間の心の中にある。夏の心の中にもたくさんある。夏の心の中には、(そこはまるで巨大な倉庫のような場所だ)たくさんの嘘とたくさんの真実が四角い箱の中に入って、積み重なるようにして、倉庫の中に乱雑に置かれている。そこにはラベルも貼っていないたくさんの箱がある。それは混ざり合うように無秩序に、倉庫の中に運び込まれた順に、つまり夏の記憶の順に並べられ、床の上に積み重ねるようにして置かれている。(それは次第に量を増していき、やがて巨大な壁のようになり、倉庫のスペースを占領し、圧迫している)

 その量があまりにも多すぎて、たくさん箱がありすぎて、もうどれが嘘でどれが真実の入った箱なのか、倉庫の管理者である夏自身にも、それがわからないくらいだった。

 そんな空想をして、風の中で夏は笑う。

 そんな夏に風は、同じようににっこりと、まるで夏の罪を許してくれるかのように、笑いかけてくれる。

 それはきっと人工の風が夏についた、世界でもっとも新しい、出来立ての、一つの優しい嘘だった。

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