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16 夏の日記、または木戸遥の捜索レポート。

 夏の日記、または木戸遥の捜索レポート。 


 どうしてだろう? 彼女はいつも私からとても遠い場所にいる。(メモの隅っこにある走り書き)


 木戸遥は世界的な有名人だった。遥の個人としての価値はどれくらいのものなんだろう? とりあえず人類の上位一%くらいには入るのだろうか? あるいはもっと上かもしれない。彼女は七歳のときに、既にいくつかの分野で特許を取っていたようだ。遥にとってはおもちゃのような技術。どれもすごい発明だが遥はそれらを遊びの中から学び創造した。木戸遥という原石がどの分野で宝石になるのか、水面下で才能の獲得競争が始まる。遥だけではなく天才を幼少時から囲い込むことはどこの国でもどの企業でも普通にやっていることだった。価値とはつまり希少性だ。天才の時間は有限なのだ。その希少性が、有限の人生が、才能の価値を天文学的数字まで跳ね上げる。

 現在の遥が取り組んでいるのは遺伝子工学。一般には人工進化と呼ばれる研究分野だ。遥はもともとプログラミングの天才であり、その中でもとくに人工知能の分野に興味をもっていたようで、かなりの成果をごく短期間のうちにあげている。調べてみるとある時期まで本人も周囲の人々も、彼女が将来人工知能プログラミングの世界に進むことで合意をしていたようだ。本来、木戸遥はこちらの分野の専門研究者になる予定だったのだ。そのシナリオもかなり細部まで計画されていた。遥の設計思想を元にして製作された人工知能は世界を一変させるほどの力を秘めていたようだが、本人がプロジェクトを離れてしまったため、研究自体がまとめて凍結されたままになっている。夏はどちらかというと人工進化分野よりも人工知能分野の研究内容に興味があった。今や人工知能やアンドロイドは世界中至るところで活躍している。ここ数十年でもっとも進歩した技術だ。そこに木戸遥というプログラミングの天才児が生まれた。天才が空想する世界を見てみたい。実際に形になった製品を所有したいと考えたユーザーも世界中に大勢いたはずだ。遥が専門を変えたことで、その価値のある製品に私たちは出会うことができないかもしれないのだ。それはとても悲しいことだった。

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