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「夏、もしかして怒ってるの?」
「怒ってる!! 当たり前でしょ!? なんであんたは私になんにも言わないで突然いなくなるかな? おかしいでしょ? 私たちはさ、……その、なんていうかさ、……友達でしょ?」
恥ずかしかったけど怒っていたので言い切ってやった。どうだ。
遥は不思議そうな顔をしている。
「友達?」
「そうよ、違うの?」
友達。そう私と遥は友達なんだ。
「夏。もしかして私に会いにここまできたの?」
「そうよ」
夏は胸を張って言った。
遥は棒付き飴をなめるのをやめて目を丸くした。そして少しの間をおいて、珍しく大きな声で笑い出す。
「なに笑ってんのよ!!」
「ふふ、ごめん、ちょっとまって、止まんない」
夏の顔はだんだん赤くなっていく。でも嘘じゃないし、とても大事なことだ。
「夏。あなたはなんていうか、……昔から、ちょっとかわってるよね」
その瞬間、夏の顔は真っ赤になった。
「あ、あんたにだけはいわれたくないわよ!!」
夏は怒鳴る。だけど遥の顔はにやけている。
「顔洗ってくる! 洗えるところ、ある!?」
遥が反対側を指差すと勝手にドアが開いた。夏はなにも言わずにそちらに向かって歩いて行った。
夏が見えなくなって、遥は棒付き飴を口に咥え直すと、椅子の上で膝を抱えて丸くなった。
……そうだね、夏。あなたは私の友達。世界でたった一人の私の本当の友達。
遥は目をつぶり、口の中の棒付き飴をゆっくりと噛み砕いて、咀嚼した。
その光景をガラスの壁の向こう側から、白い女の子がじっと静かに見つめていた。




