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第58話 思わぬ横槍

 魔女狩りを一極に集中投入する。

 それが、衝突から一時間と六分後、魔女狩りと共に待機するフーゴに届いた伝令だった。



 城から見て南西の地点で魔女の先行攻撃を防いでいる軍は、包囲に要する時間を稼ぐことに成功している。

 と言うのも、魔女の最初の部隊は戦いにおいては素人そのものだった。

 始めは圧倒的な攻撃力に気圧されたものの、やはり軍人の目は誤魔化されない。先陣を切った彼女らがただ闇雲に突撃を行っているだけだと看破した指揮担当は、何重にも及ぶ波状防御で敵の攻めをマットのように受け止めた。

 崩しても崩しても前線を貫けず、むしろ包囲の危機に陥るばかりの魔女の軍団は、巧妙な足止めによって停滞を余儀なくされているというわけだ。

 魔女の足は車両を上回るほど異常に速く、貫通能力は高い。しかし、単にそれだけでは勝てないと言う事だ。彼女たちは、数的不利を抱えている。

 犠牲を払うやり方ではあるが、重層防御の効果は大きく、今の状態は早々にやって来たチャンスと言える。

 司令部は、魔女狩りの一斉投入を決断した。



 報せを聞き終えると同時に立ち上がった三人の魔女狩り( 特別戦力 )。彼らは、シャッツカマー内の要塞に座していた。

 とうとうこの腕を振るう時が来たものだと、喜々とした横顔さえ窺わせるローズマリー。まったく綺麗に纏まった様子の、呼吸ひとつ乱さないリコ。

 そしてもう一人は、誰よりも足取りの重いフーゴだ。

 ローズマリーが、薄暗い通路で振り返る。

 彼女は例によって、男に覚悟のほどを問いただすものと思われた。


「……行くぜ、ベンソン」


 意外な対応に、フーゴは少し間を置いてから頷いた。

 その後の表情と構えを見る限り、彼の心は虚ろな揺らぎを跳ねのけたようだ。

 三人は雪を踏みしめ、迎えの車両に乗り込んだ。



 車内で、彼らは作戦を聞かされた。

 その内容は、最初に衝突した南西の敵軍団を迂回して、それを側面から叩くというシンプルなもの。彼らは、そのための部隊に編入される。

 南西敵軍殲滅の後には、塹壕や砲撃によって増援の足止めを行っている西北西、南南東の味方軍と合流。先導し、後退しつつ前線を縮小。それぞれの前線の統合を狙ったおびき寄せを行う。

 そうしてアーテム外円の第四区市街地に差し掛かったところで、街に設けられた多数の砲兵陣地やトーチカ( ※1 )の支援を受け反撃に出る。これが、司令部の打ち出した最新の手立てだ。

 これらは、最前線部隊に対してあらかじめ用意されていた後退戦術のひとつだった。


 彼らの動員には、単純な攻撃力の他に、魔女狩りの存在を敵にアピールし積極的に追わせる、または撤退させる狙いがあった。

 それほどの働きを期待されて緊張しない者は珍しいはずだが、魔女狩りの三人は実に冷静だった。

 声も漏らさずに作戦を聞き続ける三人に、迎えの佐官は困惑さえしていた。

 そして最後に、うち一人にとっては特に重要となることを付け加える。


「南西軍筆頭は、ハイラントフリートのカミラ・エルンストと思われます。リストでの評価( ※2 )は優。ご注意願いたい」


 フーゴは、身体が反応を示さないように細心の注意を払った。

 彼の家族に対する思いがいかなるものかを知る人間はここに居ないが、それは十分に想像し得ることだった。

 しかし、まだ青年が甘い考えでいるものだとは思われなかった。

 死と、殺戮と向き合う覚悟を十分に有した寝返りだと、誰もがその前提を疑ってはいなかった。





 更に一時間と三十分が経過し、彼らは車両の軍団と共に第四区に差し掛かろうとしていた。

 すると、車は急停車する。

 適当に搔かれた雪に足を取られそうになりながら、周りの全ての車が一斉に止まる。

 あまりに唐突な出来事だった。

 道路に何かが飛び出したとしても、隊全体がここまでの異様さを(かも)すことはないだろう。


「どうした!? 何だおい!」


 状況が分からないローズマリーがわめく。

 慌てて車両から飛び出し、運転席に回る。

 すると、運転手の若い兵は青ざめて言った。


「無線が……臨時命令です! 共和派の武装集団が、二区に!」


「あんだと――?」


 ローズマリーが怪訝(けげん)そうな顔をするのも無理はなかった。

 共和派は、主に暴動を起こしていた過激なグループの指導者をほとんど逮捕されており、既に組織力を失っていると思われていた。

 王による直接指揮の作戦だったために、その摘発は確実であるはずだった。


「憲兵が事に当たっていますが、まだ状況が……とにかく、魔女狩りが対応するようにと」


 あとから降りて来たリコが、敵の規模を問うも不明。

 思わぬ、そして未知数の脅威が再燃したことを受け、司令部は魔女狩りのUターンを命じていたのだった。

 ローズマリーは思わず舌打ちをする。


「まあ仕方ねえ。私が一人で片付ける。お前らは急いで――」


 一刻も早く仲間を敵本勢力への対応に向かわせるため、任務をひとりで請け負おうとした彼女をリコが咎める。


「待たれよ。貴女の気遣いも最もだが、命に背くは重罪。それのみならまだしも、今は紛争中です。駒の制御が利かないと言う事は、あまりにも恐ろしいリスクとなる」


 リコは、共和派パルチザン( ※3 )の規模が未知数であることを挙げ、全員でかかる必要有りと下した司令部の意図を汲むよう説いた。

 彼らと同様に様子を見に出て来ていたフーゴは、早々に荷台に戻り、状況を察しているようだ。

 ローズマリーも渋々ではあるが納得し、隊は再び移動の道につく。

 敵勢力が二区南方で拡大しているとの続報は、彼らを急がせた。



※1トーチカ……鉄筋コンクリート製の防御陣地。そこから覗いて銃撃したりする。

※2リスト……筆者が別編として投稿している設定資料です! ぜひこの機会に!(悪質なキャッチ)

※3パルチザン……非正規の軍事活動、破壊活動を行う集団。占領軍への抵抗や、内戦、革命など。

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