第43話 告別
ドロノフは独り、白い石の前に立っていた。
良く晴れた日だ。快晴だ。
冬に差し掛かろうという時期で、気温も良い。
出かけ日和の心地よい午前に、彼は白いカーネーションを握ってここに居た。
「葬式もしてやれなくてごめんな。ああ、何しろよ、お前が居ないんじゃ盛り上がんねえから」
彼女の遺体は戻らなかった。
戦死者の葬儀は、アリーの多忙によって正式には執り行われていない。
「まあなんだ。お前も俺もしんみりしたのは好きじゃない。話でもしようや」
ドロノフは、その場に腰を下ろして石に花をたむけた。
「見つけたよ、東の国の髪飾り。まさか今頃になって出てくるとはなぁ」
大男がポケットから取り出したのは、カンザシと呼ばれる遠い国の装飾品だった。
彼女が最後の誕生日に欲しがったもの。
それを、彼はつい最近になって市で見つけることができたのだった。
「おしゃれなんて二の次なお前が欲しがるのもわかるぜ。こりゃ確かに綺麗だ。似合うよ、お前に」
その言葉を口にしたとたん、男は急に涙を堪えきれなくなった。
ぼろぼろと落ちる大粒の涙を短い草が受け止める。
悔し泣きだった。
自罰の涙だった。
今更、彼女が居なくなって初めて恋人らしい口を利く自分が、その無意味さが、彼に涙を流させた。
彼は夕方まで泣き続けると、そのまま眠ってしまった。
とても心地よさそうに、まったく起きる気配も無く。
野ざらしの、同様の石ばかりが立ち並ぶ悲しみの集い場において、彼はなによりも安心した様子で眠った。
墓の前で座ったまま、男は朝を迎える。