表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/81

第43話 告別

 ドロノフは独り、白い石の前に立っていた。

 良く晴れた日だ。快晴だ。

 冬に差し掛かろうという時期で、気温も良い。

 出かけ日和の心地よい午前に、彼は白いカーネーションを握ってここに居た。


「葬式もしてやれなくてごめんな。ああ、何しろよ、お前が居ないんじゃ盛り上がんねえから」


 彼女の遺体は戻らなかった。

 戦死者の葬儀は、アリーの多忙によって正式には執り行われていない。


「まあなんだ。お前も俺もしんみりしたのは好きじゃない。話でもしようや」


 ドロノフは、その場に腰を下ろして石に花をたむけた。


「見つけたよ、東の国の髪飾り。まさか今頃になって出てくるとはなぁ」


 大男がポケットから取り出したのは、カンザシと呼ばれる遠い国の装飾品だった。

 彼女が最後の誕生日に欲しがったもの。

 それを、彼はつい最近になって(いち)で見つけることができたのだった。


「おしゃれなんて二の次なお前が欲しがるのもわかるぜ。こりゃ確かに綺麗だ。似合うよ、お前に」


 その言葉を口にしたとたん、男は急に涙を堪えきれなくなった。

 ぼろぼろと落ちる大粒の涙を短い草が受け止める。

 悔し泣きだった。

 自罰の涙だった。

 今更、彼女が居なくなって初めて恋人らしい口を利く自分が、その無意味さが、彼に涙を流させた。

 彼は夕方まで泣き続けると、そのまま眠ってしまった。

 とても心地よさそうに、まったく起きる気配も無く。

 野ざらしの、同様の石ばかりが立ち並ぶ悲しみの集い場において、彼はなによりも安心した様子で眠った。

 墓の前で座ったまま、男は朝を迎える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ