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魔女は復讐戦争で破滅する  作者: かわかみさん
魔女が立つ戦争の章
32/81

第29話 第一次バウムヨハン・ウェイセンフェルト攻勢

 アリー達四十一(・・・)人の魔女は、その全てがバウムヨハン線西端の要塞、ウェイセンフェルトの突破に用いられる。


 内部に逃げ込んだ残存勢力を追い立て、悠々自適の包囲状態にあるバルトブルクは、補給切れを待ち構え、特に突破の容易そうな平地にあるウェイセンフェルト要塞に狙いを定めた。

 無論その事に勘づかれ強化されては困るので、撹乱(かくらん)の手を用意している。

 バルトブルク軍は事前の戦略どおり、南部、東部、西部へ通常戦力による攻勢を仕掛けておいた。

 魔女の投入を読むことのできない敵軍は、八方にまんべんなく、そして大量の戦力を展開し維持しなければならなくなり、案の定にらみ合いの様相に。

 海での輸送船攻撃、そして外交上のベルネブット包囲に伴う禁輸、資源の枯渇(こかつ)

 バルトブルクはまさに、死にかけに追いやったベルネブットに止めを刺そうとしていた。

 戦略決定の会議から再び四週間。ずいぶんと悠長にもったいぶったバルトブルクは、翠眼(すいがん)の魔女の号令と共に、ついに決定打を投入した。





 アリーは事前に計画していた通り、全ハイラントフリートを従えてウェイセンフェルトを取り囲む。

 戦車、戦闘機、あらゆる最新兵器が入念に準備された。

 ここでの攻撃に成功すれば、バルトブルクの勝利は完全な物となり戦争は決着する。

 その後はこの戦で築いた名誉を基礎に、不幸な魔女たちの解放は実現される。

 二度と自分たちのような屈辱を、悲しみを味わう者が、この歴史からなくなるのだ。

 その決意と確信の元、魔女たちは迷いなく跳び出した。



 砦までたどり着く以前にも塹壕が敷かれており、まずはそこでの前哨戦(ぜんしょうせん)に勝利しなければならない。

 土や氷の壁を駆使して、そして相変わらずの速度を活かして、銃を手にした魔女たちは苛烈に攻める。

 魔女がやって来たと分かり、ハズレくじを引かされた思いの敵兵は、慌てて銃口を集中させる。

 しかし前例通り、弾は当たらず、超常的な威力の炎や水や風に巻き込まれ、通常戦力はなすすべを持たない。

 後援の戦車や火砲が追い風となり、鮮やかに平原を走り抜ける金色の風。

 あと一歩で要塞に刃が届き、その壁を粉砕せしめる決定の一打が放たれようとしたその時だった。





 たちまち、敵の目の前で炎がさく裂した。

 相当な広範囲においてそれは連続し、先攻した機甲師団と魔女だけでなく、後方の歩兵にまで被害は及んだ。

 それだけならまだ良かった。

 彼女たちが一瞬立ち止まるだけなら、前進は続行されたはずだ。

 だが、退却命令は響き渡った。

 それは、少女アリーの腕をみるみるうちに焼き崩していくおぞましい光景に起因していた。

 幸いにも聡明だった彼女は、激痛の原因を敵方から放たれた白い煙(・・・)に見出す。

 風の能力が彼女を救い、周囲一帯にばら撒かれた煙をいっきに吹き払う。

 視界が良くなったことで敵に狙われたアリーは榴弾を剣で弾き、急いで後退。

 目に留まる限りの煙を払いのけながら、仲間たちを塹壕まで引きずった。



 繰り返される後退の怒号の中で、血まみれのアリーはいつか一度だけ目にした地雷の火を思い出した。

 煙の正体はわからなかったが、足元から受けた衝撃の正体だけは確信できた。

 その後、どういうわけか自陣にまで及んでいた地雷原と、次々に放たれる煙弾を何とか潜り抜け、バルトブルク軍は後退に成功するために多大な犠牲を払った。

 第一次ウェイセンフェルト攻勢は、直後の推計のみでも戦死者数六千人に及ぶバルトブルクの大敗に帰結した。



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