九
今回バトルもの感が出てしまっています。苦手な方、求めてない方は、ご了承ください。
「では、圭二にはこれから力の使いこなしをしてもらう!」
「はい!」
「返事は押忍だ!」
「お、押忍!」
「声が小さい!」
「押忍!!」
「もっと出るだろう!!」
「押忍!!!」
「うるさい!!!」
「........」
あまりの壱の理不尽さに、ただただ黙るしかなかった圭二であった。
そんな壱と圭二の奇妙な挨拶を遠くから見ていた雄二は、
「なぁにやってんだ?あの二人」
不思議なものを見る目で、庭の掃除をしていた。
今日は日曜、世間の人たちはお休みでもちろん学生も休み。
そんなわけで、前に圭二がうまく使いこなせていなかった、『壱から貰った力を使いこなせるようにしようレッスン』をするらしい。
「えーと、具体的に何をするのでしょう?」
「とりあえず、跳んでみせよ?」
「分かりました」
圭二は足にグッと力を込めて、ジャンプしてみた。
すると、今まで高校のバスケットゴールのネットを触るくらいしか出来なかった圭二のジャンプは、地上45mほどまでアップしていた。
「うぉ...!」
この間助走をつけて跳んだので今回は低かったとはいえ、それでもだいぶ高い。
この後の着地が無事で済むのか不安になる圭二。
すると下から壱が、
「身体能力とともに、体の丈夫さも向上している!例えしくじって頭から落ちても少し気絶するくらいだぞ〜!」
「それってだいぶ駄目じゃないですかねぇ!?」
滞空時間も終わり、下に落ちながら嫌な解説を聞いてしまって更に焦る圭二。
「むんっ!」
ドスンっと大きな音を立てて、土埃を上げて着地した。
「ふぅ...良かったぁ」
「ほうほう、まぁそんな感じで今後着地していけば良い」
「あ、はい」
「はい、次〜」
次は竹林がある場所まで連れて来られた。
足場は枯葉などで埋め尽くされている。
「先ほど高く跳んで貰ったが、その跳躍力はもちろん他の事に使える」
「はぁ...」
「それは、並外れたスピードでの移動だ」
「移動?」
「ああ、まずは走って見せよ思いっきりな」
「はい」
圭二はいつもの様に脚に力を入れて地面を強く蹴って走ってみた。
すると今までと比べ物にならないくらいの速さを肌で感じた。
(体が軽い、風邪を切るように走るってこういうことを言うのかな...)
しばらく走っていると、遥か後ろにいるはずの壱が目の前にいた。
慌てて急ブレーキをする。枯葉がブワッと舞い散って、壱の方にかかってしまう。
「あ、ごめんなさい壱様」
「気にするでない。して、どうじゃ?走ってみた感想は?」
「すごく速かったですね、でも壱様もしかして、先回りしました?」
「ああ、あまりに遠くに行くのでな、声が届かなくてなってしまうと思ってな」
「すみません、あんなに早く走ったの初めてで...興奮してしまいました」
「ふふふ、分からなくはない。さてでは今の速さと、先ほどの跳躍力を合わせるとどうなると思う?」
「...おそらく、特大ジャンプが出来る。屋根から屋根の移動も可能ですね。下手すれば車よりも速いかも...」
「そうだな、あの鉄の塊の車よりも速い。これでとりあえず何処へでも自分の足で楽にいける」
「なるほど!これで壱様とどこへでも行けるのですね!?」
「ああ、まぁな」
「あっはは〜!やったぁ〜!!」
「...そんな喜ぶことか?」
自分があそこまで速く走れること以上に、これで壱と一緒にどこかへ行けることの方に喜んだので、壱は嬉しさと照れの半々の笑顔を見せた。
「では次行くぞ」
「押忍!」
次に連れて来られたのは、離れにある少し小さめの道場だった。何故あるかというと圭二は雄二に合気道を教わっていたから、じゃあ建てちゃおうくらいのノリで建ててしまったらしい。
「ここでは武術を学んでもらう」
「武術...」
「では来い」
「え、いいんですか?」
構えもしない隙だらけの壱に少し遠慮してしまう圭二。
実は圭二は小さい頃から空手、柔道、合気道などの護身術を雄二から教わったり、道場に通っていたりしたのだ。
全くの初心者ではないので、余裕たっぷりで無防備な壱を前に少々気後れしてしまう。
「どうした?来んのか?」
「いえ、実は僕、武術初心者じゃないんですよ。だから壱様に...」
言いかけて壱が言葉を挟んできた。
「ほう?ではそなたは妾に手傷を負わせる程、実力を持っている...というわけだな?」
「え...」
壱が一歩踏み出した途端に、圭二はこれまでにない悪寒を感じさせた。
これまでいくつもの大会で優勝してきた実績のある圭二だが、相手にしてきた者たちが足元にも及ばないほどの圧を感じる。久しぶりの感覚、壱と初めて現実の世界であったあの圧力。
(まずい...本気でいかないとこっちがヤられる...!)
「構えろ」
「...っ!」
「構えをとくなよ。集中しろ」
言った瞬間、強い風と共に壱の拳が目の前に現れた。
「くっ...!」
「よく避けた!」
すんでのところで避けて、間合いを取ろうとさっきの脚力を使って、一気に後ろに跳ぶ。
「間合いなんぞ意味を持たんぞ!」
また一瞬のうちに間合いを詰められ壱が目の前に現れる。
手を伸ばし圭二の顔を掴もうとする。
「ふっ!」
圭二はその手を体を反らして避けて、そのまま両手を床について反動で蹴りを入れる。
「甘いな」
伸ばした腕を曲げて肘でその蹴りを止める。
「あっ」
「ふふふ」
防がれて、まずいと思って足を引っ込めようとしたが、もう遅かった。
足を掴まれそのまま振り回され投げ飛ばされる。
「ぐあっ!!」
床に転がり回りながらも何とか体制を立て直し、立ち上がろうとしたところで、
「隙ありっ」
「わぁ!」
突然壱が圭二に抱きついた。
当然追撃が来ると思っていた圭二は、壱の突然の行動に対応出来ず、そのまま床に倒れこんでしまった。
「んふふ〜、隙だらけだなっ?」
「まだやれます!」
「ダメ〜もうやりませ〜ん」
「何故です!?」
「今日は、な?また明日、その次の日も、少しずつ行こう」
「...はい」
(正直、自信があった。勝てずとも、歯が立たないことは無いと、いい勝負、駆け引きが出来るくらいだと、でもそんな考えは浅はかだった)
今のところ、二人は重なり合って倒れこんだまま。
「全然ダメだ...こんなんじゃ、壱様を守れない...」
「妾がいつそなたに守って欲しいと言った?」
「え?」
「妾はそなた“に守ってもらいたい„のではなく、そなた“と共に戦いたい„のだ」
「僕と...一緒に?」
「ああ」
「今のままじゃ、まだ程遠いですね...」
「圭二ならやれる。妾は信じるぞ?」
「ありがとう...ございます」
あまりにも自信たっぷりに言ってくれる壱に、少しだけでも希望を見出す圭二だった。
やたら動いて汗をかいて気持ちが悪いので、シャワーを浴びて、ご飯を食べて二人は寝てしまった。
今日の修行は終わり、今日はゆっくり寝たそうな。
なんかすごくバトルもの感が出てしまったのですが、ちょっとずつこんな感じの展開も書いていきたいなと思っています。
お付き合い、よろしくお願いいたします。
基本は、二人のイチャコラお惚気話を書いていきますし、どんどん新キャラも出していきたいなと思ってます。