五十三
圭二を連れて、大国主達は出雲大社へと向かう。
「圭二、武甕槌の時、ごめん」
「なにが?」
「もっと手伝えたらって...」
「いい、加勢された方が迷惑だった。俺一人でやってこそだったしな」
「うん...それでも、ごめん。友達として」
「........」
「なに?」
「いや、俺らって友達だったんだなって」
「圭二はそう思ってなかったの?」
「いや、まぁそうだな。お前との付き合いも大分だし、そうだな、俺らは友達かもな」
圭二と紅がそんな話をしている間に出雲大社に到着した。
「今から黄泉の国に行くぞ」
「は...?黄泉の国...ですか?」
「圭二を黄泉の国に一生閉じ込めておく。誰にも殺されない様に」
出雲大社から移動して、黄泉の国の入口と言われている、『黄泉比良坂』に到着した。
「こっから先は黄泉の国だ、醜女が食べ物やら色々誘惑して来るけど、何があってもそれは受け取るな、いいな?」
「なぜです?」
「黄泉の国のものを食べると醜女達と同じになっちまうからだ、んじゃ行くぜ」
大国主を先頭にして、圭二と紅の二人は横並びで歩いて行く。
中は暗くジメジメしていて、快適とは程遠い場所だった。女の啜り泣く声、怒号、奇声などが聞こえたり、常に何かに見られている様な感覚が続く。
(これから一生こんな所に閉じ込められるのか...。確かに死んだ方が楽かも分からないな)
圭二は周りを見渡してそう思った。
どんどん奥へ入って行くと、ある建物が見えてきた。
大国主はその建物に入って行き、誰かと話し始めた。
「誰と話してるんだ?」
「伊邪那美様」
「伊邪那美って、三貴子を生んだっていう、あの伊邪那美?」
「うん、黄泉の国を統括してるから、とりあえず挨拶」
大国主が出てきて、圭二達を招いた。
圭二達は建物の中に入ると、伊邪那美が座ってこちらを見ていた。
「へぇ、いい男じゃないか。壱神もいい神使を選んだねぇ」
「........」
「武甕槌を殺したんだって?凄いじゃないか、大したもんだ」
「どうも」
「ま、後は好きにやりな」
「んじゃお前ら行くぞ」
大国主はまた二人を連れて、更に奥へと進んで行く。
醜女達の視線も声も聞こえない完全な闇が三人を包み込んだところで、三人の前に何の変哲も無い襖が現れた。
「この奥が、お前が一生閉じ込められる場所だ」
「........」
「入れ」
圭二は襖を開けて入って行く。
中は外とは裏腹にとても明るく、暗闇に慣れてきていた目を、あまりの眩しさに閉じてしまう。
「........!何だ...ここ...」
中は壮大な草原が広がり、山、川、海が奥の方に見える。
花々が咲き誇り、心地よい風が吹き、太陽はこれでもかと言うくらい圭二を照らしてくる。
「黄泉の国には、思えないな...」
「当たり前だろ、ここは黄泉の国に造られただけで、黄泉の国じゃねぇ」
「なぜ、ここに俺を...?」
「これからは、ずっと二人きりにしてやりてぇって思ったんだよ。誰も触れることの出来ない、二人だけの世界で」
「どういう...」
圭二は大国主の言葉の意味が分からず困惑していると、後ろから風が吹いてきた。そしてその風と共に、懐かしい香りがした。
その香りにつられて圭二は、ふと後ろを振り返る。
振り返ったその視線の先には、とても穏やかな笑みを浮かべて圭二を見ている、壱が立っていた。
「待ちわびたぞ、圭二?」
「壱...様...?」
圭二はゆっくりと、辿々しく壱の元へと歩きながら、手を伸ばす。
壱も圭二の手に自分の手を重ねて、握りしめる。まるで、ちゃんとここにいるという事を明確にするかの様に。
「ほんとに...壱様...なのですか...?」
「ああ、久しいのぅ圭二。元気だったか?」
「あ...あぁ...壱様、壱様だ...本物の...幻じゃない...」
圭二の頰に涙が伝う。その涙を壱は繋いでいないもう一方の手で拭ってやる。
そして、ギュッと圭二を抱き寄せた。
圭二も、それに応えて壱の背中に手を回し、優しく抱擁する。
「色々迷惑をかけたな、すまぬ。これからは、もう何もしなくても良い」
「壱様...」
「これからは、ずっと妾のそばに居てくれ、片時も離れてはならぬ」
「はい...!はい!決して、離れません!二度と...!」
二人は静かに泣きながら、お互いをしっかりと抱きしめた。
大国主と紅は、そんな二人を微笑ましく思い、やがて二人もその場から去った。
それから、色んな話をした。
壱がいなくなってからのこと、圭二の元からいなくなってからのことなど、色々な話を。
「壱様は、死んだのでは無いのですか?」
「死んでしまった。だが、大国主の計らいでな、伊邪那美に無理を言ってこの世界を作ってもらったのだ。今度こそ、圭二と妾が永遠に一緒にいられる様にと」
「そうだったのですか...」
「妾と二人きりは...気まずいかや?」
「そんな事は死んでもあり得ません...夢の様です」
「夢ではないぞ?」
「はい、だからとても嬉しいのです」
圭二がそう言って微笑むと、壱も笑い返した。
何を合図にすることもなく、圭二は壱にキスをした。壱は急にされてびっくりしながら恥じらって顔を赤らめる。
そして次は壱の方から圭二にキスをした。
二人は見つめ合って、おでこを合わせながら、広い広い草原に横になる。
心地よい風と、暖かい日差しが二人を包み込む。
圭二はある事を思い出した。
「壱様、これ」
「ん?妾の着物か...」
「いなくなってしまわれてから、ずっと肌身離さず持っていました。お返しします」
「うむ、ありがとう圭二、汚れ一つなく良くぞ持っていてくれた」
「いいえ」
圭二は壱の手を握りしめた。
「壱様」
「ん?」
「僕も、愛しています」
「...っ!ふふふ、忘れているものかと思っていたぞ?」
「忘れませんよ、決して」
「そうか...それは、嬉しいのぅ」
「壱様は?」
「もちろん、愛している。あの時のあの言葉に、嘘など無かった」
「えへへ、嬉しいです...」
圭二は、またあの頃の様に笑った。
『あの時』、壱が死に際に圭二に耳打ちした時の言葉。聞いた後に、圭二が涙したあの時のあの言葉。
『圭二、妾はもうこの世にはおれんようだ。最後に言いたいことがある、耳を貸せ』
『はい』
『...愛している、また会おう』
あの時に耳打ちした言葉は、二人を繋げ、今の状況へと誘った。
「僕は、壱様に会えて本当に良かった。壱様を愛せて良かった」
圭二の濁りのないまっすぐなその言葉に、壱はまた顔を赤らめた。
そしてコクリと首を縦に振り、柔らかな、幸せそうな顔をした。
長らくの間、ご愛読ありがとうございました、そしてお疲れ様でした。混乱した点、腑に落ちない点、誤字脱字がいくつかあったと思いますが、それでも読み切って下さった事に感謝致します。
今、後日談というか、久しぶりの和やかな話を書いています。その話をもって、「神様の御付きになりました」は最終話とさせていただきます。
本作品は終わっても、色々な作品を書いていきたいと思っていますので、別作品も同じ様に読んでいただけると幸いです。
今一度、御礼申し上げます。
ありがとうございました。




