五十二
高天原の監獄。圭二はそこに収容されていた。
手や足、首を特殊な鎖で繋がれて、身動きを取れない様にされている。
そんな圭二の元に、高天原最高神の天照が面会に来た。
「圭二」
「あんたか...」
「圭二、なぜ...なぜ踏みとどまらなかったのですか?私は、こんな未来は見たくなかったですわ」
「俺はこんな未来しか見てなかった。後悔なんて無い、やっと終わらせることが出来た」
「武甕槌を殺しても、また生まれ変わる。意味のない事だって分かってたはずですわ!」
「それでも...壱様を殺したあいつが死んだ。必要なら何度だって殺す」
圭二は鋭い眼で天照を睨む。
あの頃の圭二は、もういないと語っているかの様で、天照は若干気圧される。
「判決は明日ですわ、今日はそれを言いに来ましたの」
「そうか」
「では」
「天照」
天照が背を向けて歩き出そうとしたところで、圭二が名前を読んだ。
「ありがとう」
「...っ、あなたは...!愚か者ですっ...!」
圭二は、優しくそう呟く。
天照は圭二の方を振り向かずに肩を震わせて、監獄から出て行った。
翌日、圭二は鎖で繋がれながら高天原の一角にある建物へと連れて来られた。
「ここで貴様の罪の判決が下される。甘んじて受け入れろ」
「........」
看守に連れられ中に入ると、八百万の神々が座って列を成していた。
皆一斉に圭二を見ている。大体は、神を殺した人間を蔑むかのような目をしている。
「座れ」
圭二は膝立ちで座らされた。
そして、袖の方から三人出て来た。
三貴子の天照、素戔嗚、月読の三人だった。三人は圭二の目の前にある上段の間に座る。
「これより、壱神神使である一 圭二の罪の、判決を下す」
天照がその場にいる全員にそう告げる。
「一 圭二。汝は、武神であり、雷神である武甕槌命を殺害した罪により、...死刑を、判決したい。ただし、異議を唱える者、弁解したいというのであれば聞こう」
「........」
圭二が黙っていると、一人の神が喋りだした。
「天照様、そんな者はいないでしょう。早急に判決を。これ以上人間と同じ空気は吸っていたくはありませぬ」
「できぬ、形式を重んじなければならない」
「壱神などという偽物で出来損ないの神の神使など、死刑以外にどう捌くのです?」
一人の神が好き勝手にそう言うと、圭二が手綱を引いている看守など無視して、その神の首を片手で締め上げた。
「ぐっ...!きさ...ま...」
「あんたもあいつみたいに殺して欲しいのか」
「圭二!!やめろ!」
「圭二くん、落ち着きなよ」
天照と月読に戒められ、圭二はその神の首から手を離した。
看守に取り押さえられ、元の位置に戻された。
「圭二くん、これ以上の罪を犯すのは利口じゃないね。頭の良い君らしくないね、そこまでの神だったのかい?君にとっての壱くんは」
「ああ」
「では圭二、判決に弁解や異論はあるか?」
「一つだけ、言いたい事があるな」
「言ってみろ」
「お前たち神々は人間を下に見て、高みの見物を気取っているが、この裁判しかり、やっている事はまるで人間だな」
圭二のその言葉に周りの神々は黙っていられなかった。
他の何でもない人間に馬鹿にされて、怒りを覚えないはずがない。
「我々を愚弄するか人間!」
「付け上がるのも大概にしろぉ!」
「さっさと打ち首にしろ!!」
圭二は口々に攻めてくる神々を哀れむ様に眺める。
すると、素戔嗚が天叢雲剣を床に突き刺した。突き刺した時の轟音で、騒ぐ神々を黙らせた。
「うるせぇ、これ以上ガタガタ抜かすんなら首飛ばすぞ」
素戔嗚のその言葉に、全員黙り込んだ。
やはり三貴子は他の神々とは一線を画している。
「では明日、日付が変わる頃に、一 圭二の死刑に処す。異論のある者は、今挙手を...」
「天照様!!」
天照の言葉を遮り、天照のお付きの一人が慌てた様子で入って来た。
「今、『黄泉の国』の扉が何者かによって開かれました!さらに、醜女を何者かが率いて、こちらに向かっているとのこと!」
「なんですって!?」
お付きのその言葉に、神々がまたざわめきだした。
圭二は何が起こっているのか分からないが、とりあえず冷静に状況を見ていた。
「誰が率いているか分からないのですか!?」
「大判の布で全身を覆っていて確認できません。かなりの手練れの様で、我々神使供では止める事は難しいかと...」
「この忙しい時に...!」
とりあえず既に判決を下されている圭二を監獄に戻すことにした。
「罪人を監獄へ戻しなさい!逃げられては元も子もないですわ」
圭二が看守に連れていかれそうになったその時、下から数多の手が出て来た。
その手と一緒に二人の人が現れた。
「っ!?」
「その判決待ったぁ!!」
「声、大きい」
顔は見えないが、圭二はその声で誰なのかすぐに分かった。
(大国主様と、紅...?なぜここに...それにこの集団はなんだ?)
周りを見渡すと、大勢の醜女が圭二の周りを囲んでいた。
腕は腐り落ちそうで皮一枚で繋がっていたり、目も鼻も口も、定まった場所に付いていない。酷い悪臭を漂わせるその姿はまさに『醜女』。
三貴子も声で大国主と紅だと言うことが分かった。他の神々はまだ分かっていないみたいだ。
「とりあえず久々の外の世界だ。存分に楽しんで来ていいぞ、お前達」
大国主のその言葉を合図に、醜女達は神々に襲いかかって行く。
神々は醜女達に触られない為にどんどん逃げて行く。
圭二のそばにいた看守も、醜女達に食われて、圭二はいつでも逃げられる様になった。
数十分すると、その場には圭二、大国主、紅、三貴子の六人しかいなくなった。
「随分と派手な事してくれますわね、大国主」
「何でもいいから混乱させろつったのはあんただろ?」
「どうでもいいけど、醜女達はちゃんと黄泉の国に戻してよ?これから夜だけど僕回収作業とかしないからね?」
「とりあえず、成功」
「だな、あとで呼ぶの手伝ってな?紅」
「了解」
圭二を除いた五人が好き勝手歓談し始めた。
圭二はそんな状況に困惑しながら、話に割って入った。
「お、おい!」
「ん?」
「どした?」
「何が起こってる?これはどういう...」
「これはお前を逃がすための計画だったんだよ。三貴子と俺らで組んでた」
「........?」
「形式上お前は許されないことしたから、裁判的なものをする。そこで途中から俺らがこの場を混乱させる。そんでこれから先はお前を逃がすだけ」
「いや、俺は今日死ぬ気だったんだが...?」
「そいつぁ残念、お前には、もっと違う罪を背負ってもらう」
「違う罪?」
「とりあえず、連れて行きなよ。戻って来る奴いるかもだし」
「だな、行くぞ圭二」
大国主は圭二に巻きついている鎖を千切り、解放させた。
周りを警戒しながら外へと出る。
「うしっ!じゃあ俺ら戻るから、あとよろしくな三人とも」
「任せろ〜、気をつけろよ」
「何度も言うけど、醜女達は絶対全員回収してってね」
「圭二、また会いに行くわね」
三貴子に見送られ、圭二、大国主、紅は高天原を後にした。




