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五十一

「はぁっ...はぁ...はっ...くっ...」


『雷炎帝・タケミカヅチ』によって、疲弊した武甕槌が空の上で息を切らす。


(この技は、私の、最強の武神としての矜持に反する。戦闘の初めからずっと溜めていた雷雲で密かに雷を貯蓄し、奥の手として使う技...。最強と豪語しながら、この様な真似をするのは武甕槌として恥だ)


武甕槌の眼下は、雷が帯電したり、雷によって焼け焦げたり、溶けたりしている木や岩があったりと、凄まじい惨状となっている。

土煙のせいでまだ圭二の姿は見えない。


(雷炎帝を受けて生き残ったものはいない、確かめるまでも無いが...)


武甕槌は地上に降りて土煙が晴れるのを待つ。

土煙が晴れると、そこには壱の着物を庇うように伏せて倒れた圭二がいた。

事実壱の着物は傷どころか汚れ一つ付いていない。


「ふんっ、どこまでも愚かな男だ。そんな物の為に自分の命を粗末にする。理解の外だ...」


圭二は一言も発さない。

武甕槌は圭二の元へと歩き出して、目の前に立つ。


「既に虫の息だが、ここまで楽しませてくれた礼だ。私自らが殺してやろう」

「........」


武甕槌が腰から抜いた刀を振りかざした瞬間、今までピクリとも動かなかった圭二が、武甕槌を今にも嚙み殺して来そうな狼のような目で睨んできた。


「ほぉ...あれを喰らってまだ生きて...」


言いかけて、武甕槌は気付いた。

こちらを睨む圭二の目の、焦点があっていないことに。

恐らく、耳も聞こえていない。


「目も見えない、耳も聞こえない。それでも尚、まだ私に噛み付こうとするとは...」


圭二は立ち上がろうとするが、あんな攻撃をモロに受けて動けるはずもなく、無様に倒れる。だがそれでもしっかりと壱の着物はしっかりと懐に抱えている。


「...興が冷めた。生きるも死ぬも好きにしろ。まぁ、その傷なら(じき)に死ぬが...」


武甕槌は圭二に背を向けて歩き出した。


圭二は遠のいて行く武甕槌を察知して、なんとか立ち上がろうとする。


「ぐっ...!ふっ...うっ...!」


歯を食いしばり、這ってでも追いかける。


(まだ体は動く...目も耳も少し経てば治る...!決して逃すな、奴を殺せ...!殺せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!)


すると、圭二は急にどす黒く濁った様な場所に立たされた。


(どこだ?ここは?)


眼前に広がるのは暗闇、足元には白線が引かれていた。

そして暗闇の中から、赤い目をした何かが、ずっと手招きしている。

その手招きにつられそうになるが、白線を超えたら戻れない気がしてしまう。


(これを超えてはいけない。なぜかそう感じる...、でも...)


すると、暗闇の中から聞き覚えのある声がした。


『圭二、妾の為に、あやつを殺してくれぬか?』

「壱様...!」

『殺せ、殺せ、殺せ、殺セ...!』


圭二はその言葉につられて、遂にその白線を超える一歩を踏み出してしまった。


その瞬間現実に引き戻された。

だが、先程までボロボロだった体は癒え、今まで感じたことのない程の力が(みなぎ)ってくる。


(そうか...簡単な話だ。ただ人間を...やめれば良かっただけの話だったのか...)


圭二は立ち上がる。すると、背中から六本の骨の手が生えてきて、さらに下半分の顔の骨が顔を覆った。

黒い霧の様なものを纏いながら、歩いている武甕槌を睨む。


異様な空気に気付いた武甕槌は、圭二の方を振り向いた。


「っ!」

(何が起こっている...?これもまたあいつの能力なのか...?いや、それにしては禍々し過ぎる...)


武甕槌は、また臨戦態勢に入った。

圭二は未だにずっと武甕槌を見ている。もう目も耳も治っている。


「そうか...人間を辞めたか。なるほど、魔道に導かれた者のその後を見たことは無かったが、まさかそうなるとはな」

「...あ、ぁあああああああああ!!!」


圭二はドスの効いた、今まで聞いたことのない様な声をあげて真正面から武甕槌に突っ込んで行く。


(疾いっ...!)

「ぐっ!」

「ぁあ゛!!」


武甕槌の予想を遥かに超える速さと重さで突っ込んで来て、それを刀で防ぐのがやっとの状態。


取っ組み合っていると、圭二の背中に生えた六本の腕の内の一本が、武甕槌の首を絞めた。


「くっ...!汚い手で私に、触るなぁ!」


武甕槌は刀でその腕を斬る。だが骨の腕は思った以上に固く、斬ることが出来ない。


「むっ...固いな。ぐっ!」


武甕槌が刀を退かしたおかげでガラ空きになった腹部を圭二が肘打ちした。


そして畳み掛ける様に、顎を蹴り上げる。吹き飛ばない様に両手を掴んで抑えて、即座に一回転した反動で蹴り飛ばす。

圭二の猛攻撃を受けて、武甕槌は怯む。


圭二はその怯んだところを見逃すことなく一瞬で近付き、武甕槌の頭を自身の腕で掴み顔に膝蹴りを打ち込む。

そして骨の腕で首と両腕を掴み、地面を馳けずり回す。


「調子に...乗るな!」


武甕槌は空いている足で圭二を蹴り上げる。


「........」


圭二は蹴り上げられ、攻撃の手が止まった。

武甕槌は刀を構え、斬り込んで行った。

圭二は難なくそれを避けていく。


圭二の足元に刀を振った。圭二はそれをジャンプで避ける。ここで空中に跳べば身動きは取れない。

それを見逃さなかった武甕槌は、跳んだところを仕留めようと刀を突き刺した。


だが、骨の腕を先に地面に着けて空中で止まったおかげで、刀は空を切った。

圭二は空中で前宙して、かかと落としで武甕槌の脳天を叩く。


「ぐぉっ...!」

「........」


圭二はそのまま地面に着地して、武甕槌のこめかみを蹴り飛ばす。

吹き飛んだ武甕槌は近くの木に叩きつけられ止まった。


(強い...魔道に導かれた者がここまで強くなるとは...。だが...)

「私は武甕槌命!決して負けることなど、ありえない!!」


武甕槌は『雷装』を発動させた。

圭二に一瞬で移動して、蹴りを入れる。

だが、それは難なく骨の腕によって掴まれた。


(バカな!?掴むだと!?雷そのものになっているこの状態の私を!)

「ぁああああ゛!!」


圭二はそのまま武甕槌を投げた。そして一瞬で飛んでいく武甕槌の近くへ移動して蹴り飛ばした。


ずっと攻撃を受けている武甕槌は、そろそろ限界を超えて来た。

雷炎帝を撃った辺りから、既に疲弊している。

武甕槌は、背筋をピンと伸ばし、圭二の目を真っ直ぐ見て、叫んだ。


「認めよう、一 圭二!貴様は、私の対戦相手の歴代最強だ!!この私が、この様な戦いをせざるを得ない事は恥だが...、貴様に免じてそうしてやろう」


武甕槌は刀を固く握り締め、圭二に向かって走り出す。

圭二もそれに答える様に走り出した。


武甕槌は刀を振りかざし、圭二は拳を構える。


「ふんっ!」

「........っ!」


圭二は刀を防ぐ事なく受け入れ、武甕槌も圭二の拳を受ける。

そこからはまるで泥試合の様だった。圭二は刀で斬られ過ぎて血だらけに、武甕槌は殴られ過ぎて恐らく数十カ所の骨が折れてきている。


「はぁ...はぁ...はっ...」

「...はぁ、はっ...はぁ...」


お互いの息は()()え、武甕槌は刀を持っているのもやっと、圭二の拳は血だらけになっている。


「一 圭二、貴様も私ももう限界を既に超えている。これで終いにしようではないか...終わらせようこの戦いを、お互いの命を賭けて...」

「........」


圭二と武甕槌はお互いに走り出し、武甕槌は刀で突き攻撃を繰り出した。


「っ!?」


圭二も何かしらの攻撃をして来るかと思ったら、圭二は武甕槌の刀を自身の腹で受けただけで、他は何もしてこなかった。


「何故だ...戦いを、諦めたのか...!」

「........っ!!!」


圭二は垂れていた頭を上げて、武甕槌を睨む。

そして骨の腕全てを使って、武甕槌を貫いた。その腕の内の一本は、武甕槌の心臓を掴んでいた。


「ごふっ...!き...さま...」

「........」


武甕槌は吐血して、六本の腕全てを抜くと、武甕槌は圭二にもたれかかり、その後地面へと伏せた。


「........」


圭二に纏わりついていた黒い霧も、骨の腕も、顔の髑髏も剥がれた。


圭二は自我を取り戻し、足元の武甕槌を見下ろす。


「はぁっ...!はぁ...!くっ...うっ...!うっ...ぁ...ぁあああ...!ぁああああああああああああああああああ!!!!」


圭二はその場に膝から崩れ落ち、頰には涙が伝っていた。


「勝った...ようやく...終わった...!終わったんだ...」


武甕槌が死んだことにより、雨雲や積乱雲は晴れてきて、雲の合間から差す陽射しが圭二を照らす。


圭二は壱の着物を抱き締める。


「勝ちましたよ、壱様...僕は...ぐっ...!!」


満身創痍の圭二に、背後から鎖が巻きついて来た。


「なんだ...これ...?」


鎖はどんどん巻きついて来て、解く事ができない。

首、両腕、足、胴体にかけて巻きついて来る。そしてその鎖を巻きつけて来た主が、目の前に現れた。

その者は、布を被っていて顔が見えない。


「壱神の神使、(にのまえ) 圭二(けいじ)だな。貴様を神殺しの罪により、拘束する」

男の声で、布を被った者はそう告げた。

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