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五十

「なんだ...ここは...?」


武甕槌は辺りを見渡す。

いつの間にか圭二は武甕槌の手から逃れ、ある程度の間を空けて立っている。


辺りは鹿島神宮の風景ではなくなっている。

辺りは禍々しい空気が流れて、空は厚く黒い雲に覆われ、どこか冷たい。


「幻術...世界でも創造したか?そもそもここは日の本か?」


武甕槌は辺りを見渡しながら、状況を把握しようとする。


「そんな大それたものじゃない。さて、行くぞ」


圭二が手を前に出し、何かを招く様に自分の方へと手を戻す。

すると、急に赤い水の津波が武甕槌を襲ってきた。

武甕槌は驚きはしたが、雷道によって逃れる。


(この水...)


襲って来た津波の水は、海水ではなく、血だった。

血の津波は大きい水溜まりになって収まる。


「悪趣味だな、風情もへったくれもない。まさに人間が使いそうな能力だな」

「........」


圭二はそんな武甕槌の言葉を無視して耳に何かを付けている。

武甕槌は目を凝らして見ると、それが三種の神器「八尺瓊勾玉」だというのが分かった。


「八尺瓊勾玉を、何故貴様ごときが持っている?それは神の私物であろう!」

「八尺瓊勾玉は、身に付け願う事でその願いが叶うといわれている」

「そうだが、それがどうした?」

「八尺瓊勾玉は、その恐ろしく強大な力の為に、他の二つとは別格に扱われてきた。誰も使うことが許されないのは、どんな願いも叶えてしまうから」

「ああ、だから今すぐ返せ」

「違うんだよ。八尺瓊勾玉は、願いを叶えてくれるなんて良心的な神器じゃない」

「何を...」


圭二は両手を広げて武甕槌に問いかけた。


「お前には、この世界が今どう見えている?」

「薄汚く、人間に似合いの場だな」

「そうか、まぁそうだな。なぜならここは...」


圭二は何かに気づいて、喋るのをやめた。


「ぐっ...!」


武甕槌はいきなり吹き飛び、岩山にぶつかって止まった。

武甕槌はすぐに自分のいたところを見る。


「鬼...?」

「へぇ、知ってるのか。空想の産物だと思ってたんだがな。そう、ここは地獄、罪人の堕ちる場所だ」

「地獄...だと?」


気付くと武甕槌の周りをぐるっと囲む鬼の大群がいた。

その表情は憤怒に満ちた顔で、武甕槌に今にも襲い掛かり殺して来そうな雰囲気だった。


「ここが本当に地獄だというのなら、いつどうやって連れてきた?」

「さっき、これで」


圭二は自分の耳を指差した。つまり八尺瓊勾玉を指差した。


「嘘をつくな、八尺瓊勾玉にそんな力は...」

「あるんだよ、そもそも八尺瓊勾玉が何で人間界にあったか知ってるか?」

「願いが叶うという力を無闇に使わせない為じゃないのか」

「違う。人間界にあるのは重宝させる為ってのと、ある種管理だ。人間には到底使いこなせない代物だが、厳重に守らせることで、及ぶ危険性を低くしていた」「........」

「八尺瓊勾玉は、地獄の扉を開く鍵だ。俺の能力は、地獄へと『送る』こと」

「地獄へ送るだと?貴様にそんな力があるわけがない。私が罪人だと?人間の尺度で測るのはやめてもらおう。こんな世界私の力で沈めてみせよう」


武甕槌は手を挙げて、振り下ろす。

だが、何も起こらない。

武甕槌は何度もその行動を繰り返すが、変わらず何も起こらない。


「何故だ、何故雷が降らない!?」

「あんたは罪人、歯向かうことなど許されない。そして地獄では全ての者が平等に裁かれる。例えそれが神であったとしても...な」


武甕槌は怒号を挙げたが、数多の鬼達によってその声はかき消された。


圭二は、武甕槌に背を向けて歩きだす。

すると、武甕槌が圭二に向かって叫んでいることに気づく。

圭二は足を止めて、武甕槌の方を見る。


「調子に乗るなよ人間風情がぁ!!今鬼どもを蹴散らし、貴様の息の根を止めてやる!そこを動くな脆弱な弱者めが!」

「........」


圭二は叫ぶ武甕槌を冷たく見放し、また歩きだした。


(武甕槌、あんたは人間を弱いと、弱者だと罵り馬鹿にする。だが、人間の願いによって想像によって神になった者もいる。人間の願いってのは、神さえも生み出すんだよ)


しばらく歩いていると、襖が見えて来た。

襖は自動的に開いて、圭二の歩みを止めない様にする。先へと歩き、外に出ると鹿島神宮が見えて来た。


出ると紅が立っていた。


「お疲れ」

「ああ」

「終わったね」

「ああ」

「帰ろう」

「...ああ」


圭二は帰ろうと船に乗ろうとした。


だが、乗ろうとしたところで、異常な痛みが圭二の腹部を襲った。


「ぐっ...!」

「圭二!」


見ると雷で出来た槍の様な物が、後ろから圭二の腹に刺さっていた。

まさかと思い後ろを振り向くと、そこにはボロボロで息を切らした武甕槌がいた。


「ふふっ、ふははは!死ぬかと思ったぞ...!人間め...!!」

「くそが...」

「地獄に送ったのに...なぜ?」


武甕槌は大きく息を吸い込み、空へと飛翔した。


「我こそは武甕槌命(たけみかづちのみこと)!!雷神にして最強の武神なり!私が死ぬことなどあってはならない!この技をもって、罪深き人間の命を(つい)えさせよう。私に歯向かった事を、せいぜい壱神と悔いるがいい!!」


武甕槌命の真上にある雲が、幾千もの雷を纏い、それは塊になりだした。


「この技の名は、『雷炎帝・タケミカヅチ』。強大さ故に最強の武神である私の名をつけた技だ。焼け焦げて、死ね」


武甕槌が手を振り下ろした瞬間、閃光と幾千もの雷の塊が、圭二を包み込んだ。


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