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三十九

「はぁっ...はぁ...っふぅ...」


あの日から四ヶ月が経って、圭二は行方を晦ましている。

その圭二が今どこにいるかというと、山に登っている最中だった。

別に山に登って景色を楽しみたいわけではない圭二は、コースなんて関係なく文字通り山を越えようとしたのだが、


「くそっ...ここどこだ?」


今自分が行きたい方角にちゃんと歩いているのか分かっていなかった。

木にでも登って景色を一望すれば分かるだろうとジャンプしようとすると、膝がガクッと落ちてそのまま倒れてしまった。


「なん...だ...?すげぇ...ねむ...い...」


圭二の意識はだんだんと遠退いていった。




パチパチっ、パチンっ、、、


焚き火の音と、体を包む暖かさで圭二は目を覚ました。


「ん...はっ!」

「あっ!気付いたかい?良かった!おーい!少年が目を覚ましたよ!」

「本当か?ああ、よかったよかった」


圭二が寝ていた体を起き上がらせると、掛け布団がパサっと落ちた。体を包む暖かさの正体は布団だった。

どうやら目の前にいる男女の家の中の様で、男は勉強机で書類整理みたいなことをしている最中みたいだった。

男が呼んだ女は、コーヒーを注いで圭二に渡した。


「コーヒー、飲める?」

「誰だ?あんたら」

「知らない人からの飲食物を簡単に受け取らない...。いい教育をされているね!」

「私はちょっと傷付いているけどね...」


圭二の警戒心により、男は豪快に笑い、女の方は差し出したコーヒーを自分で飲んでしょんぼりしていた。


その後、圭二は自己紹介をされた。


男の方の名前は、佐治 幸太郎。

女の方の名前は、笠井 瞳子。


二人は恋人同士で大学生だったらしい。

今は長い休みを使って山の生態系やら、構造やら、山でしか出来ない研究やら、色々しているらしい。


この家は山の中にある一階建てのコテージで、誰も使わないからといって山を降りたところにある村の村長が貸してくれたとのこと。

通常よりだいぶ大きい1LDKで、圭二は広いリビングの隅っこにある畳に敷いてある敷布団で寝かされていた。


「君を見つけた時はびっくりしたよ。真っ黒な布を纏った少年が、天気の悪い山の中で倒れているんだから」


窓越しに外を見ると強い雨が降っていた。

圭二の纏っていた布は窓の横にかけられていた。


「っ!」


圭二はある事を思い出して腰に手をやる。


(良かった...着物は無事だ)


腰に巻いていた壱の着物を手で撫でて無事だったことに安堵する。

それを見て瞳子が、


「ああそれね、寝かせる時邪魔だなと思って取ろうとしたんだけど...」

「?」




話は圭二を家に運び終わってベッドに寝かせるところまで遡る。


『布は取ったけど、腰に巻いてるこれも取っちゃおうか、邪魔っぽいし』

『そうだね』


そう言って幸太郎が着物に手を差し伸べると、それまでずっと目を覚まそうとしなかった圭二が突然目を覚まして幸太郎の腕を掴んだ。


『触んな...!』





「あの時の君の目は、まさに人を殺す目をしていたよ〜」


幸太郎はケタケタと笑っていたが、その手にはくっきり圭二の手形が付いていた。


「すまない、その時の記憶は薄いが、迷惑をかけた」

「いいよいいよ」

「じゃあ、世話になった」


そう言って圭二はかけてあった布を手に取って纏い、玄関へ歩き出した。


「あ、ちょっと!まだ君疲れが...」

「っ!?」

「取れてない...あーあ、だから言ったじゃないか」


圭二はまた膝から崩れ落ちた。

自分の体が動かないという不思議な現象に戸惑っていると、幸太郎が起き上がらせて布団に寝かしつけてくれた。


「駄目だよ。君の体はだいぶ酷使されているから、ここで休んで行かないと」

「休んでいる暇は無い。俺は今から行かなきゃいけないところがある」

「その行かなきゃいけないところってどこ?」

「九州だ」

「九州!?ここからまだだいぶ距離があるよ!ヒッチハイクで行く気?」

「そんなの使わなくても行ける」

「?。どういう意味か知らないけど、とりあえず今日は休んでよ、どっちにしろ雨の山は危険だよ。ここは特に」

「...くそ」


圭二は諦めて休むことにした。布団に横になって休もうと決めた瞬間に睡魔が襲ってきて、圭二はすぐに眠りについてしまった。



いい匂いと、幸太郎に起こされて目を覚ました


「おはよう、と言っても夜だけど。起きてご飯を食べよう。瞳子が作ってくれたんだ」

「...ああ」


圭二は布団から出て、ご飯が並んだ机の方へ歩いた。テーブルの周りに座布団が置いてあるので、座布団の上に座って食べる。

パクパク食べていると、瞳子が心配そうに見てくる。


「おいしい?」


どうやら見てきたのは料理の味を気にしていたからの様だった。圭二は、当たり障りなく、


「ああ」


と答えた。正直不味くても食わせて貰ってる側からしたら文句ひとつ言えないのだが。

食事中は、幸太郎が圭二に質問攻めをしていった。


「どうして君はあんな格好をしてこんな所にいたの?」

「諸事情があってな」

「諸事情って?」

「言っても信用しないだろうし...」

「大丈夫!」

「はぁ...仇を取る為だよ」

「仇討ち?」


幸太郎は箸を止めて圭二を見つめる。


「ああ、俺の大事な人を殺した奴を殺す為に、今こうしてここにいる」

「ほぉ...そっかぁ...」


幸太郎は俯いてしまった。

すると、先程からずっとご飯を食べて話に入ってこなかった瞳子が会話に入って来た。


「もし、人殺しをすると言ったあなたを警察に突き出すと私たちが計画したら、あなたは私たちを殺すの?」

「俺が殺したいのは、そいつで、あんたたちじゃない。それに警察に俺は捕まえられない」

「どういう意味?」

「知らなくていい事だ。どっちにしろ俺の計画を阻むことは出来ない」

「こんなこと聞くの失礼なのかどうか分からないけど...」

「?」

「頭打った?」

「打ってない」

「じゃあ、そういう人?ちゅ、厨二病みたいな?」

「違う。でも信用出来ないならそう思っていればいい」


圭二はご飯をまた食べ始める。

そして黙りこくって俯いていた幸太郎が、顔を上げて、


「いいねぇ!僕は君みたいな存在を待っていた!」

「?」

「ごめんなさいね。この子現実と二次元の区別が薄いの」

「どういうことが出来るの?君は何か力みたいなの持ってるの?」

「力は無いが...」

「あれ?」

「どこに行った?」


圭二は会話の途中で消えた。

二人は周りを見渡すと、幸太郎の後ろに回った圭二が頰を指で刺した。


「こういうことは出来る」

「お、驚いた...」

「本物だ...」


二人は喫驚して開いた口が塞がらない。

圭二は自分のところに戻って、残っているご飯を全部食べた。



時刻は0時を回るところ、二人は眠ってしまった。だが、布団の上に座り考えていた。


(これから目的の場所まで最短で1週間くらいか?いっそ新幹線で行くのも...駄目だ金がない)


考えても無駄なことに気づき、圭二はまた眠りについた。さっきまで寝ていたから眠れないと思っていたが、案外簡単に眠れた。

それもそうだ、なぜなら圭二は壱が死んでから、一度も眠ったことがなかったから。


体をこんなに酷使して無事でいられたのも、壱にもらった「神々の身体」のおかげかもしれない。


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