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三十六

圭二は戦っている間、壱に必死に話しかけ続けた。


「壱様、何か思い出しましたか?」

「そなたなぞ知らんと、言っておるだろう!」

「おっと」


キツイ言葉を使って無理やり敵だと認識しようとしているが、明らかに攻撃にキレがない。

圭二が喋りかけながら壱の攻撃を避けることなど、本来出来ないことだからだ。

だが、今の所まったく思い出してくれそうにない。

圭二は壱と過ごした今までの事を話し、記憶を呼び覚ます作戦に出た。


「僕の夢にしか出てこないはずの貴女が、現実に出て来た時はびっくりしました」

「何の話をしている!」

「貴女の神使にしてもらって、すぐ修行しましたよね。貴女に貰った能力(ちから)、今やほぼ完璧に使いこなせていますよ」

「くそっ!なぜ当たらない...!」

「本当に覚えていませんか?僕は覚えていますよ。貴女のホクロの場所も。ほら、鎖骨あたりにありますよね?」

「な、なな!なぜそんなことまで知っている!?」

「貴女の笑顔も、歌声も、付けているネックレスを誰から貰ったのかも...全部知っていますよ?そして...」


圭二は素早く壱の懐に入り込み、手首を掴み、生えていた木に抑え込む。


「その涙の意味も」


知らないうちに壱の頰に涙が伝っていた。

自分が泣いている事に圭二に言われて初めて気付いた壱は、訳が分からないという顔をしていた。

圭二はそんな壱の目をまっすぐ見て微笑んで、そっと壱の唇にキスをした。


「けい...じ...?」

「っ!思い出して...、っ!」


キスをされた壱は、圭二のことを思い出したのか名前を呼んだ。

だが、その後すぐ気を失ってしまい、圭二は倒れる壱を支えた。

そっと抱きしめ、壱をその場に寝かせて、紅と大国主の元へ向かった。



「はははははは!楽しいなぁ!これだから戦はやめられん!」

「あいつうるさい」

「真面目に戦われると、俺らすぐやられちまう。圭二が壱をどうにかするまで、俺たちはやられちゃいけねぇ」

「じゃあ、もう大丈夫」

「あ?」


二人の後ろから圭二が歩いて来た。


「壱の方はどうした?」

「気を失いました。今あっちで寝かせています」

「そうか、あとは逃げるだけだな」

「ですね。でもその前に...」


圭二は武甕槌からの視線を感じて、武甕槌を睨む。


「どうやら僕に話がある様なので、行って来ます。二人は壱様の方に行って来てください」

「分かった。戦うなよ?」

「気をつけて」


二人は壱のところへ向かった。

圭二は武甕槌の前に立った。


「うちの(あるじ)に、随分な事してくれましたね」

「壱の神使よ、貴様壱のことはどれくらい知っているのだ?」

「出会ってそこまで経っていないので、分からない事の方が多いかもしれませんね」

「そうか...。では教えてやろう。壱の真実を」

「壱様の、真実?」


武甕槌は薄ら笑いを浮かべて圭二に壱の真実とやらを話し始めた。


「壱から聞いたと思うが、神は生まれ変わらないという話」

「ええ、だいぶ前ですけどされましたね、その話」

「おかしいと思わなかったか?その話」

「どこがですか?」

「神でさえ、死があり、生がある。寿命さえある。ならば唯一人間と違わなければいけない事は、転生できる事だ。神とは人智を超えた存在でなければならない。人間と同格であってはならないのだ」

「あなたは、人間が嫌いなのですか?」

「いいや、私を神にしてくれた人間には感謝している。私が嫌いなのは、嘘をついている浅はかな者だ。たとえそれが神と崇められている者でさえな」

「?」




「教えてやろう、壱神は神ではない」




「は?」

「壱神が転生出来ないのは、怨霊だからだ。奴は、神として崇める事で収まっただけの偽物だ。嘘をつき、周りを騙している」

「何を言っているのか分かりませんね」

「嘘をつくな、これ以上話すつもりはない。私は偽りの神など認めはしない、壱を消させてもらうぞ」

「そんな事、させるわけないじゃないですかっ!」


武甕槌に合わせて、圭二も走り出し取っ組み合う。

武甕槌は手に雷を纏わせて、痺れさせ動けなくさせようと攻撃してくるが、圭二はそれを上手く避けて、腹部を蹴る。


「今日の目的は貴様ではない。殺さずにおいてやろう」


そう言って武甕槌は、その場に落ちていた木の枝を手に取った。

そして枝に鋭い刃物の様に雷を纏わせ、襲いかかって来た。


「ふんっ」

「ふっ!」


圭二は避けて武甕槌の腕を掴んだ。引き寄せて、腹部に膝蹴りを打ち込み、怯んだところに首筋に肘打ちをしたあと、スルリと懐から抜け出し、武甕槌の背中に手を置き自分の身を上げて、武甕槌が体を上げられない様に抑え込みながら、頭を殴りつけた。

武甕槌もそれを受けて、地面に膝をつけてしまった。


雷流(かみなが)れ」

「ぐっ!」


武甕槌は大国主たちに放った術と同様の術を圭二に放った。

圭二は武甕槌と間合いを取った。武甕槌はフラリと立ち上がり、圭二を見る。

その目は、明らかに先程とは違い、殺気に満ちた目をしている。


「っ!?」

「気が変わった、貴様も死ね」

「神が人間を殺すのですか?とんだ神話ですね」

「私に抗うものは、例え神であろうと許さぬ」


圭二は軽口を叩いてはいるが、武甕槌から発せられる圧に冷や汗をかいている。

壱や大国主の遥かに上をいく圧力。


(これが武神、武甕槌...)


圭二が臨戦態勢に入ろうとしたその時、大国主が後ろから叫んだ。


「逃げろ圭二!」

「大国主様!?」

「もう終わりだ!逃げっぞ!」


大国主が手招きをして圭二を呼ぶ。

圭二は足に全力を込めて、逃げようとしたが、それを武甕槌が止めようと圭二に襲いかかった。

その時、突然雲が割れた。そしてその割れた雲の間から、誰かが降ってくる。


「良い時に来てくれた!」

「誰!?」

「三貴子のうちの一人...」


降って来た者は、4、5メートルはある大太刀を振り回し、圭二と武甕槌の間にその刀を振り下ろした。


「あぁらよっとぉ!」


素盞嗚尊(すさのおのみこと)だ!」


降って来た男はなんと天照(あまてらす)月読(つくよみ)と並ぶ三貴子のうちの一人、素盞嗚だった。


「素戔嗚尊...あなたが...?」

「人間のガキ!そっから退いときな、こっから先は俺がやる!」

「あ、はい!」


圭二は大国主の元へ向かった。

壱の意識は既に戻っていて、圭二も認識出来ていた。


「圭二、妾はそなたに嘘を...」

「積もる話は帰ってしましょう。今はとりあえず逃げますよ」

「ああ、すまない」

「うっし!んじゃ逃げんぞお前らぁ!」


大国主の掛け声と共に、全員が走り出す。

武甕槌は素戔嗚に足を止められ、逃走を阻めない。


「邪魔をするな素戔嗚!」

「そういうわけにはいかんのよっ!大国主ちゃんに頼まれたってのもあるけど、俺は昔っからあんたと戦いたかったんだよぉ!」

「ちっ」


武甕槌と素戔嗚の戦いを見ながら走る圭二は、戦いを見て関心している。


「すごい...あの武甕槌と同等の戦いをしてる」

「あの刀が、三種の神器のうちの一つ、八岐大蛇(やまたのおろち)を退治した時、体内から出て来たとされる天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)。別名、草薙(くさなぎ)(つるぎ)

「あんな大きい物だったとは...」

「通常の大太刀の何倍もある。あれで天さえも切れると言われている」

「天って切れるの!?」

「知らないけど、言い伝えでは...」

「お前ら今は逃げることに集中しろ!」

「あ、はい!」


大国主に怒られ、紅と圭二はよそ見をせずに足を動かした。

そろそろ武甕槌とも距離を取れてきた。

武甕槌は素戔嗚に阻まれ、このままでは逃げられると察した。


「このまま逃すと思うか」

「逃がしてやってくんないかねぇ」

「悪いな」


その言葉を最後に武甕槌はその場から消え去ってしまった。

素戔嗚は何が起こったか分からなかった。


「やっべぇ!!」


が、すぐに状況を察して大国主たちの方に向かった。


武甕槌は雷そのものになり大国主たちにいとも簡単に追いつき、最後尾を走っていた圭二の頭上に来た。


「っ!?なぜ!?素戔嗚は!?」

「みすみす逃してなるものか、壱の神使、先ずは貴様だ!」


武甕槌が壱を殺そうと持っていた刀を圭二に振りかざした。


「圭二っ!」

「圭二!」

「........っ!」


武甕槌が刀を振り下ろした瞬間、その場に大量の血が舞った。


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