三十四
ついに壱奪還作戦の決行日となった。
全員で黒い大きな布をかぶり、顔を含め全身を隠す。戦う気はないが、念のための武装をして、全員で武甕槌のいる春日大社へ向かう。
「行きはこれで行く」
「隠密じゃないんですか?」
「走っても疲れるだけ」
圭二が見上げた上には、かつて壱と乗った屋形船が浮かんでいた。
この船で近くまで向かい、そのあとは自分の足で潜入し、奪還。という流れ。
三人は船に乗り込み、着くまで各々覚悟を決める。が、三人とも覚悟はできているのかとても落ち着いていた。
「圭二、壱はお前が運べ」
「もちろんそのつもりです」
「ま、壱が十分動ける様なら自分で逃げられるだろうがな」
「だといいんですけど...」
壱の身を心配しながら船で移動すること役20分。
奈良県にある春日大社近づいてきた。
三人は船の上から春日大社を眺める。
「大きいですね、うちと同じくらい」
「どこにいるの?」
「武甕槌が祀られている第一殿、あそこだな」
三人が潜入する場所を確認すると、船は止まった。
ここからは自分たちの足で入って行くことになる。
各自準備を済ませて、船から降りる準備をする。
「二人とも覚悟は?」
「出来てます」
「行こう」
圭二、紅共に覚悟は出来ている。大国主はこれ以上焦らすと一人で向かいそうだと感じた。
「っしゃあ!行くぜぇ!」
「よっ」
「........」
三人は船から飛び降り、静かに着地したその瞬間に、春日大社の第一殿の裏に回るため走り出す。
「裏から回る、武甕槌の神使は今別の場所にいる!今が一番ガラ空きの状態のはずだ!一気にかけ抜けっぞ!」
「はい!」
「二人とも声が大きい」
すぐに第一殿に着いて、紅は懐から例の札を取り出し、二人に渡す。
「こっからは隠密かつ迅速に行くぜ。顔隠せ」
「はい」
「圭二、圭二が今回壱様に一番近付くことになる。あげく救出することになるけど、大丈夫?」
「他の誰かにやらせない、あの人を助けるのは僕だ」
「心配いらねぇみたいだな」
大国主は圭二の様子と言動に笑っている。
「じゃあ札を貼れ、貼ったら全力ダッシュだ」
「はい」
「うん」
三人は札を貼り、第一殿に忍び込む。潜入はすんなり成功。
だが、ここにきて嬉しい誤算があった。
「壱様っ!」
「やったぜ、もっと奥にいるかと思ったら、潜入場所の近くにいた」
「武甕槌もいない。どう考えても今がチャンス」
壱は意外にも拘束されているわけではなく、第一殿の真ん中あたりで静かに正座している。
圭二は後ろからそんな壱に近づき呼びかけた。
「壱様。姿は見えないかも知れませんが、僕です。圭二です」
「..........」
壱は振り向き、圭二の方を向く。だが、その目はとても冷たく、圭二を睨んできた。
その目に一瞬引いてしまうが、よく考えれば敵地でいるはずのない味方がいれば敵の罠かと思い勘ぐってしまうのだろう。そう思いながら、圭二は壱を誘導する。
「壱様こっちです。逃げましょう」
「...先程から妾の肩を掴んでいるのは誰だ」
「え...?」
「下賤の者が...気安く妾に触れるな」
そう言って壱は圭二の手を掴み、投げ飛ばした。
「ぐあっ!」
「圭二っ!」
「圭二!何が起こってんだ!?」
投げ飛ばされた圭二に駆け寄る紅と大国主。三人とも状況を理解しきれていない。
「壱様...冗談でしょう?」
「姿を現せ!下賤の者よ」
「壱様...」
「やべぇぞ、壱は操られてるかも知れねぇ」
「あやつ...え?」
「おそらく武甕槌が何かをしたんだろ...。あ、くそっ!札の効力が...」
「あ...」
「ふんっ、下らない技を使いおって...」
札の効力が消えて、三人の姿が壱から見える様になってしまった。
壱も三人を認識して睨みつける。
「壱様...!僕です。圭二です!あなたの神使の!」
「妾に神使などいない、しかも人間だと?妾を侮辱するのも、大概にしろっ!」
そう言って壱は圭二に殴りかかる。
だがそれは大国主によって阻まれる。
「壱!目ぇ覚ませ馬鹿野郎!」
「大国主...そなたがなぜそんな人間の肩を持つ?」
「それ...本気で言ってんなら、てめぇのこと嫌いになりそうだぜ?」
壱と大国主はギリギリと掴み合いながら、話を続ける。が、それはある事をきっかけに中止された。
「っ!大国主様!武甕槌が来る!」
「なに!?逃げっぞ!二人とも!」
「でも...!」
「あいつが来ちまったら元も子もねぇ!壱だけならともかく、武甕槌も加わっちまったらこっから逃げられなくなる!」
「くそっ...!」
圭二は悔やみながら社を出ようとしたその時、壱が圭二を掴み、大国主たちから引き離す。
「なっ!?」
「圭二!」
「そなたは逃さぬ。大国主は妾の友、妾の友に得体の知れないそなたを、そばに置かせるわけにはいかぬ」
「そんな...」
「壱!くそっ!」
「大国主様!」
大国主が圭二を取り返す為に壱の元へ走った瞬間、紅が嫌な予感を察知し、大国主を引き止めた。
引き止められて、紅の方を振り向こうとした瞬間、屋根が吹き飛び、天があらわになった。
「くそっ...!」
「貴様ら...私の社で何をしている?」
どうやったかは不明だが壱は操られ、と言うより圭二の事が分からなくなっていて、形式上壱は敵に回ってしまっている。
そこに更に武甕槌が加わってしまい、大国主の言っていた考え得る限り最悪の状況になってしまった。




