三十三
圭二の傷を癒すのに一日を使った。
圭二は今一大社本殿にて大国主と紅の監視のもと寝込んでいた。
「圭二、起きない?」
「ああ、よく寝てるよ」
「大変だったね、昨日は」
「ああ、ボロボロのくせに壱を助けに行こうとしてたからな」
時は昨日に戻る。
武甕槌から雷を落とされ、随分なダメージを受けてしまった圭二だが、壱を取り戻すと言って立っているのもやっとの状態で向かおうとしていた。
「一回落ち着け圭二」
「落ち着いてます」
「落ち着いてたらそんな状態で行かねぇだろ、立ってんのやっとじゃねぇか」
「でも...」
「圭二、大国主様の言う通り。一刻も早く壱様を取り戻したい気持ちはわかる。でも、相手は武神。慎重に行くべき」
「僕は壱様の神使、いつだってあの人のそばにいなきゃいけない...!」
「圭二」
「そもそも壱様のそばにいないで呑気に散歩なんてしてたんですよ!?...ありえない、主の一大事に...僕は...!」
「落ち着いて」
「落ち着いて?さっきから落ち着いてると言ってる!!」
「圭二、悪りぃな」
「うっ...!」
大国主は圭二の腹を殴り、気絶させた。
「大国主様...」
「紅結界張っとけ、簡単に出すな」
「うん」
実は紅は結界を張る事が出来て、大きさ、強度、形、全て紅の思うがままだが、リスクもあって、それが体力を使ってしまうことで、それは形が大きければ大きいほど、強度が高ければ高いほど。
ついでに傀儡を貫けたのも、結界を自分の手に三角錐状に張って貫通性を高めていたから。結界の使い方は意外に縦横無尽だったりする。
紅は圭二の周りに結界を張って、起きても外に出られないように軟禁状態にした。
(心は痛むけど、大事に至るよりはマシか...)
圭二は今の所眠っていて起きない。
紅が見張っていると、大国主が容態を見に来た。
「どうだ?まだ起きないか?」
「うん、もう約丸一日寝てるかも。ねぇ大国主様、圭二の気持ちも分からないでもないよ。私も、大国主様がそうなったら...」
「わーってるよ、でも、ちげぇんだよ」
「違う?」
「頼まれたんだ、壱に」
大国主と壱が襲われた時、壱は武甕槌の狙いが自分だと気付いた瞬間、大国主を庇い攫われてしまった。
だがその時、壱は大国主にある事を頼んでいた。それが圭二の事だった。
『大国主、頼みがある』
『なんだ?言っとくが、逃げろっつー頼みならお断りだぞ』
『違う。あいつを、圭二をよろしく頼む。あいつは優しい子だ。きっと妾に何かあれば無茶な事をしようとする。その時はお前が止めてくれ』
『壱...』
その時の壱は笑っていて、自分の身を案じていない顔だった。
その後、壱は武甕槌に攫われてしまい今に至っている。
「ん...」
「あ、圭二起きた」
「大国主様、紅」
「悪りぃな今お前を危険に晒すわけにはいかんのよ」
「すみません、もう大丈夫です。ご迷惑おかけしました」
「おう、良いってことよ」
圭二は落ち着きを取り戻し、三人は作戦会議を立て始める。ついでに結界はもう解いてある。
「まず、武甕槌を倒して壱を助けるのは無理だ。俺たちが束になっても敵わないと考えていい」
「...じゃあどうするんです?壱様は今そんな奴の手に落ちてるんですよ?」
「武甕槌は最強の武神と言っても過言じゃない。だが、最強故の驕りがある。そこを突いていこうと思う」
「自分という最強の存在が近くにいれば、決して奪還することなど出来ないという自信。それをうまく利用するってこと」
「じゃあこれは、決して武甕槌にバレずに壱様を奪還する作戦ってことですか?」
「そうなるな」
圭二は少し考えてある問題点に気付いた。
「でも、肝心なタイミングは?確かに目を離す時が来るかもしれませんけど...」
「いや、目を離していなくても俺たちはあいつに近づいて、壱を奪還できる」
「...どうやって?」
「これ」
紅が懐から取り出したのは、赤いお札でその札には読めないが文字のような物が書いてある。札は全部で四枚ある。
「それはなに?」
「体に貼れば一時的に自分たちの姿を見えなくさせるお札。今回の作戦のカギとなるアイテム、必需品」
「なるほど、それならタイミングなんて関係ないね」
「だけど、一つ問題がある」
「問題?」
「この札の効力は五分が限界。武甕槌に気付かれるギリギリの近さまで使えねぇ上、近付き、壱を解放して、武甕槌が見えねぇ遠い安全な場所に行くという事をを五分以内にやんなきゃなんねぇ」
「五分以内にそれら全てをやらなければ...」
「戦うことになる。それは一番避けたい事」
三人はとりあえず、一番スムーズな奪還のやり方を考えて挑むことにした。
大国主は少し話をしにいきたい者がいると言って、高天原に向かった。
「壱様、大丈夫かな...」
「殺すつもりなら攫うなんてせずその場ですればよかった。それをせずに攫ったという事は、生かしておく必要があるからだ」
「冷静な考えだね」
「常に冷静で最良の決断を下せ。激情に任せて動けば、最悪の事態が考えられる」
「うん、二人がいてくれてよかった。ありがとう」
「礼には早すぎる。壱様はまだ帰って来ていない」
「そうだね、ちゃんと全部終わったら、またお礼をするよ」
紅は少し微笑んで、作戦の動きの練習を始めた。圭二もそれに付き合う。
(もう少し、あともう少しだけ待っていてください壱様。必ずあなたを迎えにいきます)
圭二はそう胸に誓ったのだった。




