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三十二

圭二は久しぶりに自分の町を飛び回っていた。

圭二は暇だとよくこうしてどこかへ出かけたりして暇を潰しているのだ。

だが今回は紅と一緒に。


「圭二はいつもアテもなくこんなことしてるの?」

「うん、壱様がいない時は基本的に道場で一人で修行したり、こうやって出かけたりしてるかな」


免許も何もない圭二にとって、壱のくれた身体能力は、日々の運動的な面では良いきっかけをくれたのかもしれない。


「天気悪くなってきた」

「そうだね、さっきまで天気良かったのに」


いつの間にか空は分厚い雲に覆われて、日の光は弱く差し込んでいた。

湿度も高くなり、今にも雨が降り出しそうだった。圭二と紅は家に戻ることにした。

すると、運悪く帰っている途中に雨が降って来てしまった。


「うわっ、最悪」

「急ごう」

「うん」


一大社へ着くと、膝下まである長い布の様な物で身をまとい、フードを目深にかぶって顔の見えない謎の人物が一大社の前に立って、圭二たちを出迎えた。


「大国主命の神使、紅。壱神の神使、一 圭二と見受ける」

「誰?」

「答える義務はない」


そう言ってフードの男は、一瞬で紅の懐に入り込み、蹴りを入れた。


「がっ...!」


紅はそのまま吹き飛ばされ、圭二もそれに気を取られてフードの男に腹を殴られる。

が、すんでのところでそれを防ぎ逆に殴る。入りは浅かったので大したダメージを与えられなかった。相手を突き放し一旦間をとる。


紅も吹き飛ばされて不機嫌そうにしながら、圭二の横へ戻る。実は紅も好戦的というか、負けず嫌いなのだ。圭二も何度も組手をしている時、悔しそうにしながら闘志を燃やしているのをよく相手にしていた。


「イラつくな、落ち着こう」

「冷静だ」

「俺が隙を作る。今の紅が行ってもどうにもならない」

「...分かった」


先ずは圭二が先行してフードの男へ走り出す。

フードの男と攻防を繰り返すが、フードの男もなかなか隙を見せない。

戦いながら、圭二はフードの男の顔を見ようとするが、フードは目深に被られていて見えない。


「何で僕たちを狙う?」

「命令だ」

「誰の?」

「答える義務はない」

「またそれか...ならっ」


圭二はフードの男の腹を思いっきり蹴り飛ばし、怯ませる。そして圭二はすぐその場にかがみこみ紅の為の道を作る。紅はそのタイミングで圭二を飛び越え、フードの男の胸部分を素手で貫いた。


「おいっ!」

「........」


圭二はそこまでやるとは思っていなくて、驚きの声をあげた。

対して紅は冷静な面持ちでしかめっ面をする。


「おかしいと思ったんだ。最初の方から」

「何が?」

「気付かなかったの?あれだけ触れておきながら」

「?」

「固すぎるんだよ。音も変、人間とか生き物からする音じゃない」

「いつから気付いてたの?」

「最初に蹴られた時、ただ蹴られて終わりだと思った?」

「...ごめん見くびってた」


起き上がらない男の布を紅が剥がすと、そこには木の様なもので出来た人の形をした物が倒れていた。


「これって、人形?」

「傀儡だね。あまり使う者がいないけど」

「誰が何のために送って来たんだろ?」

「私たち神使だけが狙われる訳がない。大国主様と壱様が危ないかも」


二人が会話をしていると、傀儡がまた動き出した。だが立つのもやっとの様な状態だったから、二人も焦った様子はない。

傀儡はさっきとはまるで違う喋り方で二人に告げる。


「...壱神ト大国主ニハ、我ノ主ガ相手ニヲサレテイル。今モ無事カドウカハ、不明ダガナ」

「なんだと?」

「二人はどこにいる、お前の主人は誰だ?」


傀儡はニヤリと笑い、紅の質問に答えず崩れ落ち再起不能になった。

結局大国主と壱の居場所が分からずじまいで圭二と紅は居場所を探し当てる羽目になった。

すると、紅と圭二の目の前に勢いよく何かが降って来た。


「大国主様っ!?」


紅が駆け寄り、起き上がろうとする大国主を手助けする。


「どうしたの!?何があった!」

「俺より...壱が...、悪い圭二...!」


圭二は言われて空を見上げると、人影を見つけた。

長髪で武装した男が空に立っている様に浮かんでいて、その手には壱が担がれていた。壱の意識は無い。


「壱様っ!」

「ん?貴様は...そうかっ!こいつの神使か?」


見るからに偉そうにしているその男に、圭二は最初から敵意むき出しで接する。


「その人を離せ」

「離してみろ」


圭二はその瞬間男に突っ込み、攻撃をする。


「威勢がいい。だが、駄目だ」


男は圭二の攻撃を難なく防ぎ、カウンターで蹴り飛ばす。モロに受けた上、とても重い蹴りだった。

圭二は地面に勢いよく叩きつけられ、悶えている間に男は壱を連れて行こうとする。


「待てっ!」

「私の傀儡を壊したから期待していたというのに、がっかりだ」


男が天に向かって手をかざすと、空は急に曇りだし雷雲が集まりだした。


「落ちろ」

「っ!」


男が手を振り下ろすと、一閃したかと思ったら、雷が圭二に落ちた。


「ぐぁあああああ!」


雷が圭二の体を襲い、大ダメージを受けてしまう。

大国主と紅が圭二を庇う。大国主は力を使って圭二に応急処置を施す。

その間に男は壱を連れ去ってしまう。


「また会おう壱の神使よ」

「ま...って...!」

「やめておけ、何度やっても同じだ。壱は、連れて行くぞ」


そう言って男は雷雲に覆われて姿を消してしまった。

圭二はその場で崩れ落ちて悔やむ。


「...っ!くそっ...!」

「圭二...」


雨が降って来たので雨宿りのため一大社の本殿に入り、そこで今後の作戦と男の正体、そして壱を連れ去った目的を考えることにした。


「まずあいつは誰なの?」

「あいつは武甕槌命(たけみかづちのみこと)、武神だ。しかも武神の中でも強さは3本の指に入るほどの強さだな」

「なんでそんな奴が壱様を狙うの?」

「分かんねぇ。壱と俺の社で話している最中に急に襲って来たからな」


袖で聞いていた圭二が二人の話に割り込んで来た。


「あいつが誰で、どんな奴かなんてそんなことはどうだっていいんだ!壱様を助けたいんだ俺は!」

「分かっている。でもなんの策も無く突っ込めばさっきの二の舞、また返り討ちに遭うだけだ」

「紅の言う通りだ、武甕槌は強い。壱を連れ去った理由は知らねぇけど、今行っても無駄だ」


圭二は二人の説得で踏みとどまった。

とりあえず負った傷を回復するために今日は壱を奪還するのを諦めた。



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