二十六
「おかえりなさいですわ。遅いですわよっ」
壱とのデートから帰ってくると、天照がリビングで熱茶をすすって怒っている。
そんな天照に壱は近づき、顔を鷲掴んだ。
「な・ん・で・こ・こ・に・い・る!」
「いだだだだだっ!痛い痛い!痛いですわ壱!」
今にもミシミシと音が聞こえて来そうな力で天照の顔を掴み続ける壱を、圭二は一応止める。
「壱様、とりあえず落ち着いて」
「あぁ、ありがとう圭二。でももう少し早く助けて欲しかったですわ」
「ではどうぞおかえりくださいませ」
「どうしてっ!?」
圭二はリビングと玄関を隔てるドアを開けて、帰らせようと促す。
天照はまったく動こうとしない。
仕方がないので、圭二たちも椅子に座り来た理由を聞き出す事にした。
「で、なぜここいる?」
「圭二に会いに来たからに決まってますわ」
「ここから三重までどのくらいかかりますかね?」
「わざわざ送ろうとせんで良い。一人で帰らせろ」
「何ですかその相談、私帰りませんからね。絶対帰りませんよ」
圭二と壱の天照をなんとか帰らせようとする相談を天照は中断させる。
真面目に話を聞いた方が早く帰ると察して、二人は話を聞く事にした。
「私もふたりには悪いと思いましてね、謝りに来ましたの」
「ほぉ」
「ごめんなさいでした」
「圭二は?」
「壱様こそ、被害が一番大きかったのは壱様ですよ」
「妾はそなたが取り返せればどうなっても良かったのだ」
「壱様...」
二人が見つめ合っていると、天照が話の方向を修正した。
「ちょっと、イチャイチャしないでくださります?」
圭二は一度咳払いをしてから、真剣な顔になった。
「今更都合のいい話だと思います。壱様には大きな怪我をさせ、大国主様や紅、月読様にまで迷惑をかけています。謝って済む話ではないですね」
「........」
圭二の冷たい言葉に天照は俯いている。
反省をしているのだろう。だが圭二は大切な人を傷つけられた怒りで、まだ天照を許せなかった。
だが、ここでずっと背を向けて料理をしていた華子がこちらを見ずに話しかけて来た。
「圭二」
「なに?」
「何があったかはお母さん聞かないけれど、女が反省して謝って来てくれたなら、男は許してあげるものよ」
「でも...」
「嫌な思いをさせられて怒る気持ちはお母さんだって分かるわ。でも、当の本人は今どんな顔してるの?」
言われて圭二は壱の方を見た。
壱はジッと圭二の目を見ている。もう大丈夫、そう言っている様な気がする。
圭二はため息をついて、
「分かりました、水に流します。こうして二人無事にここにいられてますし」
「圭二...」
「ですが一つ、貸しですからね。お願い一つくらい聞いてもらわないと」
「...分かりましたわ」
天照はもう一度二人に謝って、頭を下げた。
話が終わったところで丁度料理が出来たのか華子が料理の乗った皿を机に並べた。
「さっ!話は終わり、ご飯にしましょ?あなたも食べるわよね?」
「いいんですの?」
「まぁ、せっかくここまで足を運んでくれたわけですし、どうぞ食べて行って下さい」
「では、いただきますわ」
雄二も呼んで、久しぶりに賑やかな食事。華子も天照に興味津々だったみたいで、食事中に話していた。
「あなたは、圭二のお友達?」
「友達ではありませんわ。どっちかというと壱の方かしら...」
「お母さんその人も神様だから、一応」
「あらっ、そうだったの?ごめんなさい。私てっきり...。圭二とは仲よさそうだったから」
「いえいえ」
華子は料理の音で会話の詳しい内容が聞こえてなかったみたいで、圭二の友達だと思っていたみたいだ。
「どこの神様何ですか?」
「三重の方だ」
「三重?また遠いところから...。三重のどこで?」
「伊勢神宮ですの、天照と申しますわ。正式名称は天照大神ですわ」
天照が自己紹介した瞬間に、華子と雄二がご飯を吹いた。
突然のことで吹いた二人以外が全員驚いた。
「いいいいい、伊勢神宮の!?」
「あああああ、天照大神ぃ!?」
「はい」
二人はとんでもない大物ゲストに驚きで空いた口が塞がっていない。
圭二は、そういえばこの神様最高神だったと思い出した。色々な事が起こったせいで、悪者扱いをしてしまっていた。
「なんか...すいません普通のサバの味噌煮で...」
「いえ、美味しいですわ。人間の食べ物は初めて食べますわ」
「初めてがサバの味噌煮...」
華子は更に落ち込んだ。天皇さえも見たことのない天照に、スーパーで特売だったやっすいサバを使った味噌煮を食べさせたとあっては、申し訳なさが半端無いみたいだ。
「まぁ、快挙快挙」
「そうだな、というかこやつにはこの程度で十分だぞ華子」
「えぇ...」
「この程度でってなんですの?もしかしてもっと美味しいものが作れるんですの!?華子さん!」
「え、はい。言ってくだされば...」
「あ、でも私人間が何を食べているか知りませんわ...」
言えば作ってくれると言われても具体的にこれと言ったものが分からないので悩んでいる天照に圭二が適当なアドバイスをした。
「草です。その辺に落ちてる草とか食べてます。電柱周りとかいっぱい食べますねー」
「圭二、その嘘はさすがにバレるぞ。あと電柱周りは犬の小便がかかっておるから余計にタチ悪いぞ。もっと食べそうで食べないものが...」
「その二人私のこと嫌いすぎじゃありません?」
そんな会話をしつつご飯を食べ終わった。ので、
「さっ、では帰れ」
「気を付けて帰って下さいね、特に心配はしていませんけど」
「圭二心配してくれて...って早く無いですか!?もっと間を開けてくれませんと掛け合いも出来ませんわよっ!」
「あなたいい感じにいじられキャラ確立してますね」
最高神をいじるのも楽しいと感じる圭二と壱だった。
「むぅ...最高神たる私で遊ぶとは、見てらっしゃい!いずれ...」
「はよ帰れ」
「さようなら」
そう言って壱と圭二は二人でいつもの桜の木の下のベンチの方へ向かってしまった。
圭二たちからは遠くて見えなかったが、天照は泣きながら帰っていったそうな。




