二十三
三種の神器。
神が作った三つの武器で剣、玉、鏡と分類されている。
剣は、八岐大蛇を素盞嗚尊が倒した時、八岐大蛇の体内から出て来た天叢雲剣。その剣は全てを切り倒すことができ、その一振りで山が真っ二つになると言われている。
玉は、玉祖命が作ったと言われている、八尺瓊勾玉。見た目はただの勾玉だが、身につけ願う事によって、その願いが叶うと言われている。
鏡は、石凝姥命が作ったと言われている、八咫鏡。その鏡は全ての攻撃や害を跳ね返すと言われている。
(八咫鏡によって攻撃が全て跳ね返されるなら、壱様はこれからどうやって攻撃するつもりだ...?)
「どうする?諦めて帰る?打つ手無いでしょ?」
「........」
等間隔の間を開けて、近付かないようにする壱。
近づいて攻撃をすればそれは跳ね返される。かと言ってこのまま何もしなければ圭二は取り返せない。
壱は覚悟をして攻撃を続ける事にした。
「あなたの攻撃は届かない!」
「届く、すぐにでも!」
攻撃しては跳ね返され、攻撃しては跳ね返されの繰り返しを続ける。
ついに壱は膝をついてしまった。
「壱様!もうやめてください!」
「...やめるわけには、いかないっ...!圭二は...妾のものだ!」
「しつこい女ですわ」
壱は苦しそうに立ち上がり、天照に突っ込む。
「あなたがそこまでつまらない神とは思わなかったですわ。もういい、潰れなさい」
壱は鏡によって床に叩きつけられ、動かなくなった。
「壱様ぁああああ!!」
「あっけない...、さぁ圭二。あなたの主人はもうこんなだし。私のものになりなさい?」
「お前だけは、必ず...殺す!」
「あらあら、酷いことをおっしゃいますわ」
圭二は怒りで天照を睨みつける。
すると、壱が立ち上がった。
「壱様!もう立たないでください!」
「案ずるな圭二...。妾なら平気だ...っ!そんなことより天照、そなた覚悟しておけよ。跳ね返す力を持つのは、そなただけではない!」
「!?」
壱は天照の目の前から一瞬で消えた。かと思えば、いつの間にか天照の背後に回っていた。
気付き振り返った時、壱の手が天照の体に触れた。
その瞬間、
「ぐぁあああああああああっ!!」
天照が痛がりだした。ただ壱が体に触れただけなのに。
「何が起きたか分からないだろう...?私が触れた瞬間、壮絶な痛みに苛まれたのだから」
「なにを...したっ...!壱神ぃ!!」
「妾は、代償という言葉の元に神となった。妾の特性が代償だ。そなたが妾に与えた傷の代償をまた痛みでそなたに返したのだ」
「なるほど...だからこの痛みが...」
(形勢逆転だ...。これでダメージは対等、でもなんだろう...何か違和感を感じる)
圭二が見ても、二人の戦いは均衡を保ったはずなのだが、圭二は違和感を持った。
そしてそれは天照によって解明された。
「なるほど、痛みをそのまま代償として負わせた相手に与える事が出来る。確かにすごい能力ですわ。ですが、どうやらそれは痛みだけで、傷は跳ね返せないみたいね...」
「........」
「しかも、返してもあなたの状況は変わらないみたいだし...、形勢逆転とは言い難いわね」
「くっ...」
圭二の違和感はそこにあった。
返しても、壱のダメージは消えない。
正直これはただの我慢対決になってしまう。
「壱、あなた私を舐めすぎだわ。私は高天原最高神、絶望を知りなさい」
「っ!?」
不思議と、天照がどんどん回復しているように見える。
と同時に、八咫鏡が光りだした。
「何を...」
「あら、この程度...?まぁしょうがないわね、攻撃自体そんなにされていなかったし...。それに、瀕死のあなたを倒すにはこれで十分でしょう」
八咫鏡が光ったと思うと、ビームの様なものが壱の体目掛けて飛んできて、それを壱はまともに喰らい吹き飛んだ。
「壱様っ!何が...」
「八咫鏡の特性二つ目。その時その時に跳ね返すのではなく、溜め込みこうして解き放つ事によって相手に攻撃するのよ。受けた分だけ返すからあなたと同じね、壱」
壱は吹き飛び、微動だにしない。
(まずいっ!まずいまずいまずいまずいまずい!壱様を、お守りしなければ!)
「くっ!ふんっ、ぬっ!くっ...!」
「あらあら、無駄なことをするのがお好きですわね」
圭二は鎖を引きちぎろうと引っ張るが全く動かない。
そんな圭二に天照は近付き、上書きの儀式をしようと圭二の顔に手を添える。
「や...やめろっ!」
「大丈夫、壱のことはすぐ、忘れられるわ...」
今度ばかりは助からないと思った圭二は、目を瞑って顔を逸らし必死に抵抗をする。
すると、
「はいそこまで」
いつの間にか圭二は鎖から解放されて、壱のそばに置かれていた。
「!?」
一瞬過ぎて分からないが、圭二は壱の無事を確認する。
息はある、まだ死んでいない。今すぐ治療すれば間に合う。
圭二は目の前にいる黒い着物に身を包む男を見る。
「壱神は無事か?人間」
「え?あ、はい...。あなたは?」
「まずお礼でも言ったら?助けてあげたんだし」
「あ!ごめんなさい!ありがとうございます...」
「ん、いいよ〜」
男にしては髪が長く、どこか眠そうな顔をしている。
誰だか分からないが、助けてくれたので敵ではないと安心する圭二。
男が来て初めて天照が喋った。
「まさか、あなたがここに来るなんてねぇ、月読」
「そりゃあ来るよ、こんなくだらない事して、何が上書きだよ。それご法度でしょうが」
なんと助けたのは、三貴子のうちの一人、月読命だった。
会議には出席していなかった。
太陽神の天照大神と対を成す月の神で、天照と仲が悪く、顔を合わせないために日中は寝ている。
「ご法度なんて知らないわ。したい事して何が悪いのかしら?」
「聞き分けないなぁ。だからあんた嫌いなんだよねぇ...」
「じゃあ、とっとと消えてちょうだいよ。私、あなたが解放したその子に用があるの」
「状況分かっててこうしてるんだから、渡すわけないでしょ馬鹿なの?」
「あなたもちょっと私を舐めすぎだわ。痛い目見るわよ?」
「........」
天照が圧をかけ始め、臨戦態勢に入った。
月読もそれに答える様に臨戦態勢に入る。だが、月読のそれは天照の比ではなかった。
「夜は僕の時間、このままやって負けるのは、どう考えてもあんたじゃない?」
「...ちっ、やーめた!帰る」
「あ...」
あっさりと引いていった天照に拍子抜けする圭二。
「圭二、また会いましょうね?」
そう言い残し、天照は伊勢神宮を直しにいった。
月読は圭二たちの方へ振り返り、
「さっ、帰ろう。僕ここ嫌いだ」
「あ、はい」
圭二は壱を抱えて、出雲大社へ向かった。
出雲大社では大国主と紅が待っていてくれて、ボロボロになった壱を見て、大国主は急いで治療を開始しに出雲大社へ入って行った。
大国主は医療の神でもあるのだ。
月読は、自分の社に戻ると言ったので、圭二はお礼を言いに行った。
「あのっ!月読様!」
「んー?」
「あの...今日はありがとうございました!おかげで僕の主人は助かりました...」
「僕が助けたのは、壱神じゃなくて、君だよ」
「それでも結果的に壱様も助ける事なりました。後日お礼に上がります」
「まぁ発端が僕の姉だったからってのもあるけど...。そうだ、大国主とその神使にもお礼言っておきな、彼らに頼まれたから僕が動いたっていうのもあるし」
「はいっ!」
「じゃあね」
月読はヒラヒラと手を振って飛んで行ってしまった。
圭二は、出雲大社内に入り、壱の様子を見に行った。
中では大国主が治療をしていて、紅がそれを見ていた。圭二も紅の隣でそれを心配そうに見守る。
「大丈夫かな...」
「大国主様を信じて」
「うん...」
治療は終わり、大国主は睡眠を取りに行ってしまい、紅もそれについて行った。
圭二は朝まで壱のそばに着いた。




