二十
会議が終わって、縁結びの時間。
縁結びでは、人間界の男女を引き合わせる行事で、いわゆる運命の人を決める会議でもある。
圭二はてっきりそれを見れるものかと思っていたが、人間と未だに接点のある圭二は蚊帳の外に出されてしまった。
壱は、
「妾もすぐには出られん。どこへなりと好きに動け、だが終わったらすぐ妾の元へ戻って来い。あと、大社から出るなよ」
そう言い残した。
とはいえ、初めて来た出雲大社。観光しようにも、外に出てはいけないと言われた手前、する事がない。
一応ブラブラと社内を歩く。
誰かと交流を、とは思ったがあの神使たちと友好関係なぞ築けるはずがないと悟り、結局1人でボーッとすることにした。
縁側に座り、目の前の竹林を見ながらただ時が過ぎるのを待っていると、何かの足音がした。
「っ!、なんだ?」
外はすでに暗くなり、灯りは後ろの障子から漏れる光だけで、音のした竹林の方を見ても暗くて見えない。
竹林に落ちている葉を踏みしめる音をさせながら、ゆっくりと圭二に近づいて来ている。
「え...」
ようやく見えるくらいまでの近さに来て、音の正体が分かった。
「馬...?」
大人のしっかりとした体格をした黒い馬だった。暗い上に黒いのだから見えにくいわけだ。
馬は全く怯えるわけでも、ましてや威嚇するわけでもなく、ただジッと圭二を見ている。
圭二は、縁側から降り、その馬に近付いてみることにした。ゆっくりと近付き、馬の顔に触れてみる。馬は嫌がる素振りを見せるどころか、甘える様に顔を圭二の手に擦り付ける。
「あははっ、人懐っこいなぁ〜。君はどこから来たの?もしかして君も神使?僕は圭二って言うんだ」
馬とじゃれ合いながら、壱が帰るのを待つことにした。
馬は圭二を気に入ったのか、顔を舐めたりして来た。
しばらくじゃれ合っていると、馬は何かに気付いて怯える様に何処かへ行ってしまった。
「あっ!何か嫌がることしちゃったのかな...」
「そこで何をしてるのかしら?」
「っ!」
後ろから声をかけられバッと後ろを振り向くと、三貴子の1人、天照がいた。
月の光を浴びて、妖艶な雰囲気を醸し出している。
「天照様...。いえっ、特には...」
「そう?」
馬と遊んでいる幼稚な神使を持っているなんて知られたら、壱の株が下がってしまうと思い、馬のことは内緒にした。
「こっちへいらっしゃい。外は冷えますわ」
「はい」
圭二は言われるがまま、縁側に上り、天照の目の前に来た。
そういえば、と圭二が話し始める。
「天照様は...縁結びはどうされたのです?抜けて来ても良いものなのですか?」
「ああ、良いのです。いかんせん密度が高く息が詰まりますわ。いつもこうして抜けては、外の空気を吸っているの」
「はぁ...大変ですね。最高神様も」
「分かってくださるの?」
「少しは...」
「ふふふ、ありがと」
口元に袖を添えて笑う天照。その笑顔はとても綺麗だと思った。
「そうですわ、圭二。見て欲しい物があるの」
「見て欲しいもの?」
「ええ、こちらですわ」
そう言って連れて来られたのは、茶室で、中は灯などなく真っ暗だった。
「さぁ入って入って」
「え、ええ」
天照に急かされ、強引に茶室に入れられた圭二。
蝋燭を一本立てて、天照はお茶を点て出した。
「えっとー...これは一体?」
「あなたとお茶をしたいと思ったのですわ。ゆっくりお話がしたくて」
「はぁ...それはまた光栄の至りですけど...」
会議はいいのか、戻したほうがいいのでは?と頭の中で思案していると、天照はお茶を点て終わった。
「はい、どうぞ」
「あの、今更ですけど...僕茶道とか知らないのですが...」
「では普通に飲んでくれて構わないですわ」
「では...、いただきます」
圭二は作法も何もなくお茶を飲んだ。
一口、二口飲んで器を置く。
「にがっ...」
「ふふふ、初めてはそうですわね」
顔をしかめて苦さを表現した。
すると圭二の様子がおかしくなって来た。
「うっ...!なん、だっ...これ...!?」
圭二の意識は瞬く間に無くなり、畳に倒れ込んだ。
「あらあら、ふふふ、大変ですわね?」




