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「ふふふ、あはは、待ちわびたぞ、圭二?」


そう言って、空からひらひらと花びらが舞うようにゆっくり降りてきた女性を圭二は知っていた。


「あなたは...夢で見た...」


黒い着物には、白い鈴蘭の刺繍が入っていて、その女性はとても綺麗だった。

圭二に微笑みかけ、そしてなんとも言えない違和感がある。


(なんだろう...この感じ...。この人は、いや"コレ„は人なのか?)


その女性を目の前にした圭二を庇うように腕で後ろに下げながら、圭二の父親が前に出る。


「っ、親父!?」

「下がっていなさい。圭二」

「んー?そなた、確か...」


父親を目の前にして首をかしげる女性。

女性は父親を思い出しそうな顔をしていた。

だが思い出す前に、父親が自己紹介をしてしまった。


「お久しぶりでございます。壱様。お目にかかれて光栄でございます」

「...ああ!思い出したぞ!そなた妾に願った者ではないか!」

「覚えておいででしたか。今一度お礼をさせていただきたいのです。私の息子、圭二の命を助けていただき誠に、ありがとうございます」


父親は深くお辞儀をする。

圭二もそれに習い深くお辞儀をする。

どうやら、人間ではなく本物の神様みたいだ。

名前は、(いち)様、と父親は言った。


「礼など良い良い、無償でする事ならば良いが、そなたらは対価を妾に払うのだ。妾たちはこれにおいては対等であろう?」

「はい、その事なのですが...圭二の命を対価に、という話を...無効にしてはくれませんか...?」


圭二の父親はとんでもない提案を持ちかけた。

もし、この壱様が本物の神様で、さっき話した怨念により生まれた神様であるなら、こんな提案が通るはずがない。


「はぁ?」


その一言で、更に体が重くなった。

圭二の父親は耐えられなかったのか、膝をついてしまった。


「小僧、妾を侮辱しておるのか?」

「め、滅相もございません...!ですが、これだけは...どうか!どうか聞き入れていただきたい!」

「では、そなたが死ぬか?」

「この命、息子を守れるのであれば、どのようにしても構いません!」

「お父さん!」


無茶な提案だと分かっていながら通そうとする圭二の父親。

圭二はこれ以上話を進めてはいけないと思い、


「い、壱様!お初お目にかかります。一 圭二と申します」

「ああ、夢で会うて以来だな。まぁ今日の夜そなたの夢に入り込んだがな」

「え、えぇそうでしたね。ですがこうして僕たちの世界で会ったのは初めてですので」

「そうであったな。して、何用だ?よもやそなたもそこで這いつくばる男の様な事を申すのではあるまいな?」

「...いえ、契約は契約。僕の命は貴方様に差し上げましょう。それでこの場の話し合いはお終いです」

「ほぅ」


土下座をして頼み込んでいる圭二の父親の前に歩いてきて、壱が言う。


「小僧、そなたの息子はそなたよりも利口だぞ」

「圭二...」

「お父さん、諦めが悪いよ。これ以上壱様に恥をかかせるわけにはいかない」

「圭二!」


壱のところへ歩いて行く圭二を止めようと、圭二の父親が手を伸ばすが、その手が圭二には届かなかった。


「ふふふ、では社に戻るとするか」

「はい」


そう言って歩き、壱は社の中へと続く階段を上がり中に入っていき、ちょこんと座った。


「........................え?」

「む?どうした?」


どうしたもこうしたも、圭二は殺されると思って覚悟していた。今ではないのか?と考えてしまう圭二。

社の中に入っただけなので、まだ圭二の母親も父親も目の前にいて、こちらを見上げている。

両親も同じくポカンとしている。


「...えーと、僕は、僕の命を代償として、壱様に命を助けてもらったんですよね?」

「ああ、そうだな」

「であれば、僕は今から壱様に殺されなければいけないのでは...」

「む?妾がいつ、そなたを殺して対価を得ると言った?」

「........え?」


両親も黙って話を聞いていたが、未だ意味がわからないといった顔をしている。


「妾は、そなたの命を助けるかわりに、その命を好きに出来るというのが契約だった。妾がいつ、そなたを殺すと言った?」

「あ、いや一回も言ってない気がしますけど...」

「そなたらの勝手な勘違いであろう?どっちにしろ、圭二の命はもう妾のもの、故に圭二は妾のものだ」

「あ、...はい」

「ほれ、近うよれ、また昔の様に話し、遊ぼうぞ?」

「えーとじゃあ、もしかしてですけど、ずっとここにいれるのですか?」

「そうだな、妾の住処はここだからな」



という事で、結局圭二はこのまま生き続け、壱のお世話をすることになった。

今日のオチは、両親の早とちり。でした。




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