十二
「おぉ...」
「壱様、ちゃんと座らないと他のお客に迷惑になってしまいます」
壱は外の景色を見る子供の様に座席に膝立ちしているので、圭二はそれを直させてちゃんと座らせる。
「壱さん電車乗るの初めてなのか?」
「実は...街に行くのも初めてなんだ」
「マジで!?箱入り娘だったんかな...」
目的地の最寄駅で降りて、駅の改札を通るとそこはビルや大きなショッピングモール、娯楽施設が立ち並んでいた。
「おぉ...!!すごい高いな!あの建物」
「ただのビルでこんなテンション上がるなんて...」
興奮する壱に若干引いてる瀬川。
とりあえず、街を散策していくことになって、4人は歩きだす。人混みの中歩いていると、瀬川と柴崎を見失ってしまい、気付くと壱と圭二だけで歩いていた。
「うっ、ぬっ、む...」
人が多すぎて壱が歩いている人たちの肩にガツガツ当たってしまっている。
「ちっ、うざったいのぅ」
一気に壱が殺気立ったのでマズイと思い手を掴む圭二。
「何をしようとしました?」
「特に何も」
「嘘つかないでください、人を消そうとしましたね?駄目ですからね!我慢してください」
「ちっ」
「じゃあこうしましょう」
壱の目論見をどうにかやめさせた圭二。
問題の解決のために、壱と手を繋ぐ。
「こうすれば、僕が先導して人の当たらないところを通れますし、迷うこともないです」
「お、おぉ...そうだな...」
壱が顔を赤らめて恥ずかしそうにしたせいで、圭二にも恥ずかしさが伝わってしまう。
「で、では行きましょう」
「う、うむ」
人混みを抜けてショッピングモールに入ると、瀬川と柴崎も入ってきて合流できた。
「いやぁすごい人だったなぁ。って何二人とも手ぇ繋いでんだよぉ〜」
「........」
「あ、これはっ、あの」
「何々?二人ともデキてんの?」
「デキてる?」
柴崎の下世話な問いに壱は首をかしげ、圭二は弁解しようと慌てる。
「ま、もう人混みは抜けたし繋いでなくてもいいんじゃない?」
「そ、そうだね!壱様、もう大丈夫ですよね?」
「あ...」
瀬川に言われて手を離す圭二。
壱は手を離されて少し寂しそうにした。
4人はショッピングモールを回っていくことにした。
初めてのショッピングモールに興奮する壱。ショッピングモールにある露店の肉まんに食いついた。
「圭二圭二!!あれ!あれはなんだ!?すごくいい匂いがするぞ!」
「あれは肉まんですよ。中国の料理で、すごく美味しいです」
「ほうっ!ではいただくか!」
「え?壱様お金...」
言うが早いか壱は肉まんを売ってる露店のおじさんから肉まんを貰ってお金を払わずこっちに戻って来てしまった。
店員さんは焦って壱を呼んでいる。その尻拭いに圭二は謝りながらお金を払った。
「ん?何を怒っておったのだ?あの男は」
「壱様...。人の世ではお金というものがないとそういうものが買えない仕組みになっているのです」
「知っておるぞ!人間はそれを妾の社の賽銭箱にどんどん入れてくれるからな!」
「はいそうですね、それを使って買うんです。ここにあるものすべて」
「??この程度の物にもか?」
「はい、残念ながら」
「むぅ...妾お金持ってない...」
「今日は、僕が払います。手の届くものですけど」
「ホントか?ホントか?!」
「はい、手の届くものだけ、ですよ?」
「うむ!」
そして色んな所を回った。
大体の店を回って、フードコートで机を囲んで休む。
「私、ちょっと飲み物買ってくる」
「あ、じゃあ俺も」
「僕もいく。壱様、何か飲みたいものとか食べたいものありますか?」
「水で良い」
「分かりました。少し待っていてください」
瀬川は別の店で買い、圭二と柴崎は同じ店で飲み物を買いに行った。
ここで初めて壱を抜いたメンバーになり、柴崎は聞きたいことを圭二に聞いて来た。
「なぁ。圭二はなんで壱さんのこと様づけなんだ?」
「え?あー...えーと...」
「やっぱり!」
「え!?」
(まさか人じゃないのがバレた!?)
万事休すかと焦る圭二に柴崎は、
「やっぱすごいところのお嬢様なんだろ!」
「........」
柴崎がバカで良かったと失礼ながら思った圭二であった。
だがこれはいい勘違いだと考えた圭二。全然違う考察だが、これに乗っからない手はない。
「実はそうなんだよ。で、幼なじみの僕が世話をするって感じかな...」
「そーだったのかぁ、あんな世間知らずなのも納得がいったぜ〜」
「ソウカー」
それからずっと壱との話になって、並んでいる間の時間を潰した。
自分の飲み物と壱の水を持って柴崎より先に壱のところに戻る。
すると、見知らぬ男3人が圭二たちの席に群がって壱を囲んでいた。
「ねぇ、一人なの?暇?」
「暇ではない。待っている者がいる」
「えー...ねぇダメ?一緒に遊ぼう?」
「ふぅむ、そなたがそんな風に言っても、圭二ほど可愛くないのぅ...」
ナンパしてくる男を冷静な観点から見る壱。そんな壱の言葉に不思議そうにする男達。
「壱様、お待たせしました」
「おー圭二」
「ん?」
「何?この子が待ってた子?」
飲み物を持ってやって来た圭二。
圭二を見た瞬間睨みつけて来て、ガラが悪くなった3人。
圭二は落ち着いて冷静に見ていると、男達の一人が壱の肩を掴んでいる事に気付いた圭二。
「肩から手を離してくれますか?」
「あ?ああ...離してみろよ」
言われて圭二は分かったと返事をして男に近づく。
そして腕を強く掴んだ。ミシミシ言ってるのが聞こえるくらいに。
「いっ!ってぇ...!」
「てめぇ程度が軽々しく触っていい人じゃねぇんだよ...」
水を飲みながら珍しく激怒している圭二を見ている壱。
あまりの剣幕に残りの二人は引いている。
「くっ、この...!離せよっ!」
「ああ」
圭二はパッと手を離し解放してあげる。
「おらぁ!」
残りの二人のうちの一人が殴りかかって来たが、その拳を難なく受け止め、強く握りしめる。
「で?この拳が受け止められた後はどうするつもりだったんだ?」
「あ...、くそ...離せない...!」
「この野郎!」
もう一人の男が圭二に向かって殴りかかって来たところを、今度は壱が受け止める。
「おいおい、二対一は卑怯であろう?」
「なんだっ!?こいつら?」
「壱様、すみませんお手を煩わせました...」
「気にするでない。こやつらは元々妾に用があったそうだしな?」
「くっ、お前ら行くぞ!」
「あ、ああ!」
逃げるそうなので手を離し逃してあげた。
しばらくすると遠くから見ていた瀬川と柴崎がやって来た。
「おいおい、二人とも大丈夫だったか!?変なやつらに絡まれてたけど...」
「大丈夫?圭二」
「うん、平気。壱様は?お怪我はありませんか?」
「あると思うか?」
「すみません」
そう言ってお互いに微笑む。
二人が人間に負けるはずがない、神の身体能力を持つ人間と、神そのもののペアなのだから。
帰りは柴崎、瀬川は別の電車に乗って分かれた。
壱と圭二は走ったほうが早いという事で、走って帰った。
家に近づいたところで、何を思ったのか壱が降りた。圭二もそれについていき、降りる。
「どうしたのです?疲れてしまいましたか?」
「いや、街中でしていた事をしたいなと...」
「街中で...?」
圭二は街中でした事を思い出す。
すると一つ壱とだけした事を思い出した。
「手、繋ぎたいんですか?」
「うむ」
「どうして急に?」
「あのな...街で見かけた手を繋いでいる恋仲の者達は、とても幸せそうに手を繋いで笑っていたのだ」
「はい」
「妾もな、圭二と幸せを感じてみたい...」
「........」
圭二は恥ずかしさで目を瞑って俯く壱の手を、優しく握る。
壱はビクッと体を震わせて、それでもちゃんと握り返す。そして固く閉じていた目を開いて圭二の顔を見上げた。
見上げた圭二の顔は、とても優しく、安心した。
「帰りましょう」
「うむ...」
二人は家に着くまでずっと手を離さなかった。
(男女の幸せっていうのを僕は知らないけど...、今ならその気持ちが少しだけ分かる気がする)
今日はほんの少しだけ、幸せな気分で眠れた気がした圭二と壱だった。




