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「ふっ!」

「ふんっ!」


あれから何ヶ月か経ち、圭二と壱は今日も道場で修行をしていた。


「随分とマシになったな」

「まだまだ貴方に敵わないこと以外は、満足いく結果だと思っています」

「まぁ基本が出来ていればそこからは難しくはない。よし今日は終わろう」

「はい」


汗を流し、部屋に戻り動きやすい服に着替える。その後壱が待っている本殿に行く。


「お待たせしました」

「うむ、では行くかの」


言って壱は上へと飛び上がり、適当な電柱に立つ。

圭二も続いて電線に立つ。


「さてと...どこだったか?」

「おっとと、どこへ向かうおつもりで?」

「この前見つけた土地神がいてな、そいつの元へ向かう」

「土地神?何処のですか?」

「確かあれは...静岡、だったか?」

「静岡!?今から行くんですか?夕方近いですよ?」

「おいおい、人間の物差しで測るのをやめろ。妾たちなら15分くらいで着く」

「15分走りっぱなしですか、そうですか...」


少し長めの道のりに若干落ち込みながら頭を下げる。


「もう行くぞ?準備は良いか?」

「大丈夫です」


電線の上で器用に屈伸運動をして準備完了。

二人は足場を蹴って、静岡方面に跳んで行く。風を切り、屋根や電柱電線、木々を伝いながら跳んで行く。

ここで圭二は一つの疑問を抱いた。


(これ、一般人には見えていないのか...?)


壱が電柱に止まり、辺りを見渡す。

圭二は壱に先ほどの疑問をぶつけてみる。


「壱様、もしかして下にいる人達には僕たちは見えないんですか?」

「ああ、見つかると面倒だからな」

「しかも止まってても気付かれないんですね...」


神の力か、と納得した圭二。

またしばらく移動が続き、壱が山の方へ入っていった。


(だいぶ山奥だな...)


圭二も壱に着いて行くが、舗装されていない道を歩いて行く。

圭二は今のところ、壱が誰に会いに行くのか知らないので聞いておくことにした。


「あの、壱様。今から土地神に会う、とおっしゃっていましたが、その神様はどんな方なんですか?」

「優しいやつさ、優し過ぎる」

「はぁ...」


そう言った壱の表情は決して良い表情とは言えない顔だった。


「着いた、ここだ」

「ここ...ですか?」


二人が辿り着いたのは、木々が伐採され、ひらけたスペースが作られている。重機や鉄骨が置いてあり、いかにも土地開発中と言ったような光景が広がっていた。


「あれは、神社ですか?」

「あそこにいるのが今日妾が会っておきたい者がおる」


奥の方に小さめの神社が建っている。

壱は言いながら、その神社に近づいて行く。

神社は綺麗とは言えず、賽銭箱も無かった。そんな神社の本殿にズカズカ壱は入って行き、御扉(みとびら)を開ける。

すると中には老人が正座で座っていた。


「間に合ったようだな」

「おや?こんなところにもまだ参拝客が来るのかと思っておったが、君だったか...」


どうやら壱の知り合いはこの神らしい。

一大社とは大違いの狭苦しい内陣(ないじん)だった。圭二もそこに入り、壱の少し後ろに立って二人の会話を聞く。


「最期に会っておきたかったのだ。数少ない友のそなたに」

「はっはっは、君の友とは光栄の至りだ」

「そなたはそうは思ってくれなかったのか?」

「まさか、一番の友だと思っているよ。壱。君には、色々な恩があるね」

「妾がどんな神か知っておるだろう?そなたが得たものがあるならば、失くなるものもあった」


二人はずっと前からの友のようで、当時を懐かしむように喋っている。


「何とか出来れば良かったのだが...」

「これ以上やってもらうことはないさ。最期に友の顔を見れて良かった」

「そうか」


老人の視線は壱から圭二へと変わった。

それに気付いた圭二は、老人に挨拶のお辞儀をする。


「君は...壱のなんだい?まだ若いな」

「ああ、圭二という。人間の神使だ」

「ほう!あんなに一人を好んだ君が...。にしても人間か...異な事をする者だと思っていたが、よもや人間を神使にするとは...」

「誰をどうしようが妾の勝手だ」

「まぁ君の自由さ。儂は何も言わんよ」

「あの、会話の最中にすみません、シンシ?って何ですか?」


圭二が申し訳なさそうに挙手をして会話をしている二人に質問をした。

それに壱が答えてくれた。


「神使、神の使いと書いて神使。いわゆる神の世話係みたいなものだ。守る為に存在してもよし、世話係のために存在してもよし、絶対の忠誠を誓わせた者の事だ。大体の神の神使は、動物なのだがな」

「なるほど...」


そんな会話をしていると、老人の体が光りだした。


「っ!?」

「ちっ、もう時間か」

「ああ」


蛍の光の様なものがポツポツと老人の体から足先から離れていく。光が一つ消えていく度、老人の足は無くなっていく。


「何が起こってるんだ?」

「儂の神としての存在意義が無くなったのだ」

「え...?」

「妾たち神は人間の信仰心がなくなれば、途端に存在する意味が無くなってしまい、こうして消えていくのだ」

「そんな...どうにも出来ないんですか!?」

「無理だよ。信仰ってのはそんなに簡単じゃないんだ圭二くん」

「信仰が無くなったからって、こんな土地開発されて、まるで...用済みにされたみたいじゃないですか!」

「実際そういう事なのだ。仕方ない、壱のように立派な社があり、信仰してくれる者が多い神は心配無いが、儂のような矮小な神はこういう末路が待っているのだ」


悲しそうに笑う老人。

何か対処はないのかと考えを巡らせるが、圭二には手に負えない問題だった。


「ごめんなさい。僕達人間の勝手で...。憎んでいますか?人間を」

「まさか、儂が今までここにいられたのは君たち人間のおかげだ」

「でも、こうなったのも、僕達の...」

「神とはそういうものなのだ。人間が儂を必要としないのは、もう儂に願う必要がないという事だ。それは儂にとって嬉しい事なのだ」


今度は優しい笑顔を向けた。本当にそう思ってくれているのが分かる顔だ。


「ははは、泣いてくれるのか?今日初めて会ったばかりのこんな儂のために」


気付いたら圭二は涙を流していた。

自分の力の無さにただただ肩を震わせていた。


「壱、君はいい神使を見つけたな」

「ああ、自慢だ」

「壱、そろそろ行くよ」

「ああ、みたいだな」

「っ!出来れば名前を...!教えてくださいませんか?」

(やく)だ。壱をよろしく頼む、圭二くん」

「はいっ!」

「壱、圭二くんを魔道に導いたら、許さないぞ?」

「させるわけなかろう、安心しろ」


もう藥の体も消えかかっていて、首から上だけがかろうじて残っている状態だった。


「随分長く生きさせて貰った。もう十分だ...」


そう言って、藥は消えた。


「........」

「...帰るぞ。圭二」

「...はい」


壱は圭二の手を引き、社を出た。

外は夕暮れ時で、夕日が綺麗に差し込んできた。


「........」

「妾たち神は、人間の様に輪廻転成やら、生まれ変わりなどの希望は無い。消えたら最後、もう一度生まれることは皆無に等しい」

「壱様、いいですか?」


圭二は腕を広げて、抱擁の意を示す。

壱は優しく微笑みながら、


「良いぞ」


ぎゅっと圭二を抱き締める。


(温かいなぁ)


壱の胸の中で、圭二はまた涙を浮かべる。


「壱様」

「ん?」

「壱様は僕が守ります。決して悔いのない様に、消えない様に...!」

「ああ」

「嫌です、遠くに行っては嫌です...!」

「ああ、行かぬよ。そなたを置いて、どこにも行かぬ」

「はいっ...はいっ!」


圭二はもう一度、壱を抱き締め返した。


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