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(私に願うことが、どういう意味か知った上で言っているのだな?)

「はい、それでも構わないのです。これではあまりにも"この子„が不憫でございます」

(分かった。ではそなたらの息子が16になったら、その命は妾の好きにさせてもらおう)

「はい、ありがとうございます、ありがとうございます!」

(契約、成立だ...)




夢を見た。

4歳の僕が、綺麗な着物を着た女性(ひと)と遊んだり、話したり、膝枕をしてもらって昼寝をさせてもらったり、などなど。

今思えば、なんでそんな夢を見たのか分からない。


でも最近、また同じ夢を見るようになった。

15歳の僕と、4歳の頃と全く変わらない綺麗な着物を着た、綺麗な女性(ひと)が僕の目の前に立っている。そして決まって、微笑みながらこの台詞を言う。


「あと、もう少しだ」


何がもう少しなのか、そして言った後のその笑みは何を意味するのか、不敵でも、まして優しいわけでもないその笑みが、なんとも言えない感情にさせる。


そして、今日もまた同じ夢を見る。

だが、今日は僕の目の前にあの女性(ひと)はいなかった。あたりを見渡しても誰もいない。

すると、後ろから抱き寄せられ、耳元であの女性(ひと)の声がした。


「ようやくじゃ、捕まえた...」


まるで獲物を捕らえたかのように、そう言ったんだ。




「...!!」


そこでやっと圭二は目を覚ました。

窓から差し込む朝日の光が、妙に眩しく暖かかった。

カーテンを開けて、社を拝む。

彼、(にのまえ) 圭二(けいじ)は、神主の息子で、彼の父親は(にのまえ)大社の敷地内に家を建て、そこで家族と一緒に住んでいるのだ。


階段を降りてリビングに行く。

圭二の両親は共働きで、いつも圭二が起きてくる頃には二人ともいそいそと仕事場に行く準備をしていて、少ししたら家を出てしまう筈なのに、今日は休みなのか二人ともテーブルに座って喋っていた。


「おはよう、お父さん、お母さん」


圭二が二人に向かってそう言うと、いつもの様に両親は挨拶を返してきた。

洗面所で顔を洗ってサッパリしたところでパンでも焼いて朝ごはんにした。

二人はもう食べてしまったのか、食べ終わって何も置いてない空の皿と、飲みかけのコーヒーが両者目の前に置いてあった。


パンが焼けて、自分の机に座る。

(にのまえ)家は三人家族で圭二以外の子供はいない。

なのかやたら静かだ。

いやそんなわけはない。一家は仲が良いと近所でも評判なほどなのだから。

両親が全く喋らない。の割にずっと圭二を見ている。その目はとても愛おしそうでもあり同時に、悲しそうでもあった。


黙々とご飯を食べていると、ようやく母親が口を開いた。


「そうだ、圭二。お誕生日おめでとう」

「え?ああ、そっか今日僕の誕生日か...」

「おめでとう圭二」

「ありがとうお父さん」


そう圭二は今日をもって16歳になるのだ。

誕生日を祝った二人の表情はそれでも変わらず、悲しそうだった。

見かねて、ついに圭二は質問した。


「ねぇ、なんでそんな目で見てくるの?もっと...よかったねぇ!みたいな嬉しそうな目、出来ないの?」

「したいのは山々だけど...」

「ああ、出来うるならばこの日が来なければと思っていた...」

「え?何それ、新手のDV?」


二人の深刻になった顔を交互に見て、しどろもどろな圭二。


「な、なぁんだよぉ〜二人とも〜、まるで僕が今日死ぬみたいじゃんか〜!16になったからってそんなブラックジョークはキツイって朝から〜!」


適当に思いついた冗談を口にして、リビングに充満する重い雰囲気を緩和させる。

だが、それがいけなかった。

なんと両親は泣き出してしまった。


「どぅえ!?何何何何何!?なんで泣いてんのぉ!?」

「ごめん...ごめんね、圭二...」

「俺たちの力が及ばなかったせいで...、お前には辛い思いをさせる....すまない、圭二...」

「ど、どう言う意味だよ...」


和ませようと思い口走った冗談が、両親によって本当にさせられるのかという不安が募る。

圭二は、どうにも出来ず二人が泣き止むのを待った。

そして二人が落ち着いたところで、質問をぶつけた。


「で?なんで二人が泣いてるのか。大体想像つくけど一応聞いておこうか?」

「えぇ、じゃあ昔話をしましょう。この神社のことよ。お父さんから言って」

「ああ」


そして圭二の父親が、自身が神主として勤めているここ(にのまえ)大社に祀られている神様について語り出した。



昔々あるところに、何でも言うことを聞いてあげるかわりに代償として何かを貰う村人がいた。

その村人は、それを生業にしていたのであった。

家を建てろと言われれば、金を寄越せと言った。

畑を作ってくれと言われれば、食い物を寄越せと言った。

何かをするかわりに、同等の何かを寄越せと言う等価交換をする、そんな村人だった。


だがある時、村の住人の一人にある仕事を持ちかけられた。

それは人を殺せという仕事だった。

村人は悩んだ。

一日悩んだ末に、翌日依頼人を呼んだ。

そしてこんな提案をした。

私がそいつを殺して仕事を達成した時、お前に求める代償は、お前の命だ。という提案だった。

人を殺すのなら、それなりの代償を。村人は依頼人にそう言った。

依頼人は、それでも構わない。殺して欲しい。そう村人に願った。

村人は約束通り依頼人の言っていた人を殺した。

村に帰り、村人は代償として依頼人を殺そうと依頼人の家に行った。

すると、村人の前に依頼人が刀を持って現れた。

一体何のつもりだ。村人は尋ねた。

死ぬわけないだろう。せっかく奴が死んでくれたのに、このまま村人(おまえ)を殺して俺だけ生き残ってやる。と答えた。


その瞬間村人は依頼人に殺された。

だが不当な代償を手に入れた村人は、あまりの怒りと憎しみにより怨念と化し、村に多大な厄災を(もたら)した。

大地震、津波、疫病、たくさんの厄災を齎した。

見かねて、当時の(にのまえ)大社の神主が、怒りを鎮めるために祈祷を行い、百日かけて怒りを鎮めた。そしてある契約をした。



「それが、僕が死ぬっていう契約?」

「いや、契約はそんなものじゃない」


圭二の父親はまた話し出した。



村人の怨念の契約は、

このまま神として崇め奉り、やがて神として祀ること。

神として願いを聞く。その代わりそれに見合った代償を自分に与えること。


その二つだった。

当時の神主はそれで抑えられるなら、喜んで引き受けようと言って、祀ってしまった。


やがて厄災は終わり、その地に平和が訪れた。村人の家に家の代わりに大きな社が建てられ、村人はそこで願いを説いたという。


「えーと、終わり?」

「ああ、そして、私たちはお前にはとても許されない事をしてしまった...」

「何をしたんだよ...」

「小さいころ、大きな病気にかかったという話をしたな」

「あ、ああ...、でもそれは手術で治ったって...」


また圭二の両親は暗い顔をした。

俯いて、黙ってしまった。


「何だよ...何をしたんだよっ!」


黙りこくる二人に見かねて大声を上げてしまう。

やがて父親が口を開いた。


「それは嘘なんだ。手術で治ったんじゃない。我々がここの神様に頼み込んで直してもらったのだ...」

「な...、嘘だろ...?そんなこと...」

「本当だ。実際我々は(ここ)に祀られている神様を目の当たりにしたし、契約もした」

「契約って、どんな...」

「16歳まで生き永らえさせて貰う代わりに、16歳になった瞬間から、お前の命を貰う。という契約だ」


とても苦しそうに話す父親に、圭二は怒りをぶつけることは出来なかった。

顔を見れば分かる、その当時の父親が、喜んでそうしたわけじゃないという事くらい。

一旦落ち着いて、もう一度話す。


「それが本当なら、俺は今日死ぬわけか?」

「ああ」

「そっか...」

「ごめんな...ごめん...」

「いいよ、他の誰でもない俺のためだ。そうしなかったら俺は、今ここにいなかったんだから...」

「すまない...」


母親は、泣きじゃくって喋れない。

こんなに泣いている両親は今まで見たことがない。


長い沈黙と、母親のすすり泣く声が朝のリビングに響き渡っている。

すると父親がまた話し出した。


「頼む。今日は、うちにいてくれないか?」

「学校か。そうだね、行って話してもみんな信じないだろうし、お葬式はあまり呼ばないで欲しいな」

「分かった」

「うん」


その会話が終わった瞬間、何かの呻き声が社の方からした。

何かが叫んでいるような、そんな感覚。


「っ!社からだ!」

「圭二はここでお母さんと一緒にいてくれ、ここは私が...」


そう言って、立ち上がる父親の手を優しく掴んで諌める。

とても穏やかに微笑みながら。


「多分、ここでお別れだな」

「何を...」


すすり泣いていた母親も先ほどの声と、圭二の言葉で驚きを隠せていない。


「よせ、やめてくれ」

「ダメだ、契約は契約。破るわけにはいかない。それに破ったら今度はお父さんたちが危ない」

「ダメだ!私達ならなんとかする!そうだ圭二、遠くに逃げなさい。私のお父さんの所に、おじいちゃんの所に...ここからは少し遠いが今逃げればまだ...」


焦る父親を圭二はギュッと抱きしめ、落ち着かせる。


「ありがとう、でもダメだ。本来なら僕はここに生きているのはおかしい存在なんだ」

「おかしくない!お前が生きている事がおかしいはずがない!」


父親は抱きしめ返し、泣きそうになりながらも、圭二を止めようとする。

その手はとても大きくて暖かかった。


「随分と長く生きさせて貰った。もう十分だよ」


そう言って父親を離し、社のあるところへ向かう。



社に着き、話しかける。


「お待たせして申し訳ありません。では、お望み通り、契約通り私のお命、貴方様に捧げましょう」


そう言った瞬間、突風が吹いた。

あまりの突風に、目も開けていられないほどだった。

ふと風が止み、目をゆっくり開けると、そこには誰かが立っていた。


その誰かは、圭二が一番よく知っていた。


綺麗な顔に、映える綺麗な黒色の着物を着た女性。


「あなたは...」

「ふふふ、あはは、待ちわびたぞ、圭二?」


圭二の夢の中にいた女性(ひと)だった。

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