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テレビではよく、刑事もののドラマなどで死ぬシーンを見る。しかしどれも、どこかリアリティが無かった。
これは違う。
人が二人、本当に死んでしまった。
火薬と鉄とほこりっぽいにおいが入り混じる。風が吹く度に目をこする。
夢ならば醒めろ。
「ふー危なかった………」
煙の中からミラが銃を肩に乗せ、こちらに歩いて来た。灰色に浮かぶ赤毛は、とても目立つ。
ミラは俺を見ると、嫌そうな顔をした。
「何………アンタのその顔」
「二人共……大丈夫ですか?」
龍明が俺の後ろからひょっこり顔を出した。ミラも龍明も体中ボロボロで、出血もしている。
一目で激戦だったと分かる。もし俺があの時アリアを殺していなければ、きっと俺達が死んでいただろう。
だから、だから。
仕方ないよな………?
「生きてたのね。アンタも」
「ええ………貴方のお陰です。有難うございます」
龍明が軽くおじぎをする。俺はぼんやりと思った。
人を殺してお礼を言われるなんて、夢にも思わなかったなぁ。
「でも………胸を貫かれたのにどうして……?」
「えっアンタやられたわけ?弱いわね〜」
「いえ、僕じゃなくて彼です。確実に刺されていたはずなのに……」
「傷すら無いわよ?」
ミラがじろじろと俺の胸を見る。時折さすったりしてみる。しかしどこにも穴はない。
俺にも分からない。だが今はそんなことどうでもよかった。
俺が回復しなければ………アリア達は死ななかった。
「……アンタさっきから暗いんだけど」
「どうかしましたか?」
ミラはまた嫌そうな顔をし、龍明が心配そうに見る。まるで今まで何事もなかったかのように。二人共、遠くの存在のように思える。
だからきっと。
「…………このゲームって、"人殺しゲーム"なのか?」
こんな疑問を持っているのは俺だけだろう。
沈黙。龍明は目を見開き、ミラは薄く笑みを浮かべていた。
しかしやがて吹き出す。
「アッ………ハハハハハハ!!!」
ミラはお腹を押さえて笑い出した。体を折り、大爆笑している。
龍明はそんな様子を、凝視していた。俺は今更、驚きもしなかった。
「いつっ……気付くのかと思ってたけど……アンタ気付くの遅すぎっ!!アッハハハハハハ!!」
ミラは笑い疲れると、涙を指で拭った。満面の笑みで俺を見る。瞳は黄色い光を放った。
「鈍感なのね〜、アンタ」
「ミラ……さん?」
「ああ、アンタも違和感あったかもしれないけど、コイツ、ゲームの本質分かってなかったのよ」
龍明は再び目を見開いた。
やっぱりか。最初に出会った少年は、最後に何かを言おうとしてた。
あの時追いかけてでも聞くべきだった。ミラにもしつこく追及すべきだった。
でも、あまりにも状況に追いつけなくて、どうにかなると思っていて、結局聞かなかった。
……もしかしたら、心のどこかでは分かっていたのかもしれない。でも認めたくなくて、避けていたのかもしれない。
「このゲームはね、学校にたどり着けばいいの。一番最初に着いた奴に報酬は与えられるわ」
そしてその為に、殺し合いをしてもいいゲームなのよ。
ゴロゴロと空が鳴った。日差しが無くなり、辺りが薄暗くなってきた。雨のにおいがする。
予想通りの返答なのに、衝撃を受けたような感覚が生まれた。
この双剣は、誰かを殺すために渡されたもの。ミラの銃も、龍明の大剣も。
「でも………ならなんで俺達と行動してるんだ?」
「たしかに一番に着いた奴が報酬を貰える。けれど誰も、"一人に"だなんて言ってないでしょ?」
「そういうことです。仲間が多い方が、襲われた時に安全ですし」
龍明も頷く。なるほどたしかに。一緒にゴールすれば問題無いのか。
それでも人間は欲深い。だからこうして争いが起きてしまった。
「………っていう設定にしたの」
――――――――グチャッ
赤い液体が飛び散った。頬に血がこびりつく。
目の前で起きた状況に追いつけなくて、頭が混乱した。
龍明の胸に、ナイフが突き刺さっている。
そしてそれを持っているのは、ミラ・L・クラウレス。
「――――――………え?」
龍明が後ろに倒れる。
何が起きたか分からない、というような表情で、口をパクパクと動かしてる。しかし声は途切れ途切れで、全く伝わってこない。
ミラが龍明に、もう一本ナイフを突き立てた。鋭い刃は、彼の喉を貫いた。龍明が動かなくなる。
「こうすれば、警戒心が解けるでしょ?」
返り血を浴びたミラは、俺に銃口を向けた。俺はすぐさま横に跳んだ。前転をして起き上がる。双剣を構えた。
「ハハッ!撃つと思った?こんな近くで撃つわけないじゃん!」
ミラが銃口を地に着ける。
ポツリと額に何かが当たった。直後に大量の雨粒が降ってくる。
ミラは舌打ちをした。
「雨か………まあいいわ」
「俺を……殺すのか?」
「ええ。もちろん」
私、殺すの大好きだから。