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Juego de la muerte(準長編)  作者: かいり
5/10

むしゃむしゃと咀嚼する音が響く。その度にパラパラとパンのかけらが落ちる。

しかしこの女、『ミラ・L・クラウレス』は気にすることなく食事をとっていた。

誰一人いないこのパン屋では、何をやっても咎められない。それ故彼女は、カウンターに腰掛け、足を組んでいる。



「アンタ食べないの?」



最後の一かけらをゴクリと飲み込むと、ミラはこちらに目を向けた。手で服についたパンくずを払う。



「いや、俺はいいよ」

「餓死しても知らないわよーっと」



ミラはピョンと飛び降りると、近くにあった棚からフランスパンを手に取る。ザクりと噛みちぎりながら、再びカウンターに飛び乗った。

こいつこれで5個目だぞ……?食べ過ぎだろ。

俺は傍に置いておいたペットボトルを取り、キャップを回した。透明な水を口に流し込む。

不思議と腹は空いていない。ガラス越しに見ると、外はもう闇に染まっていた。


ミラと会ってから、特にまた誰かと会うこともなく、このパン屋にたどり着いた。

この街はゲームの参加者以外誰もいないので、腹が空いたらこうして勝手に食べていいらしい。正直気は引けるが、いざとなったらもらおう。



「なあミラさん―――」



振り向き様に言う。しかしミラからの返答は無い。俯いて、ピクリとも動かない。

俺は立ち上がり、ミラに近付く。垂れ下がった顔を覗き込むと、瞼を閉じて小さな寝息を立てていた。

…………寝てるのか?



「急だなぁ………」



さっきまで勢いよくパンをちぎってなかったか?まぁ………疲れたのかな。こんなデカい銃を持ち歩いてるし。

ふと、カウンターに立て掛けてある銃に手を伸ばした。どのくらいの重さなのかが気になった。

少しくらい触ってもいいよな……?





「おりゃっ」





謎の声の直後に何かが突き刺さった。右足に。

痛みに耐えながら見てみると、右のふくらはぎには矢が刺さっていた。そこから血が流れ出ている。

俺は雑に矢を抜いた。



「やったー!当たったー!」



傷口を押さえながら振り向くと、入口に女子がいた。黒のセーラー服にスカート、赤いリボン。ぴょんぴょん飛び跳ねる度、二つに結われた茶髪が揺れる。


俺は知っている。こいつ自体は知らないが、この制服は俺の学校のものだ。

だがいつも学校で見る姿とは少し違う。

普段は弓を持ち、背に矢筒を下げてなんかいない。

女子はひとしきり喜んだのか、跳ねるのをやめ、俺を見た。



「あたし初めて弓使ったのー!すごくない?!」



言いながら矢筒から矢を掴み、こちらに構えてくる。俺は双剣を取った。

初めて使ったとは思えない命中率な気がする。その標的が何故俺なのかは分からないが。

………ていうかこいつ、いつここに入った?



「………と見せかけてっ」

「ッ――――?!!」



急に向きを変えた。そのまま矢が放たれる。俺はすぐさま反応した。

つもりだった。





――――――ドスッ





矢はミラの顔の真横のカウンターに刺さった。



「あーあ、ハズレちゃったー」



女子はむすっと頬を膨らませた。

危なかった………最初からミラを狙っていたのか。狙われてるってのは本当みたいだな……。

俺はミラの肩を掴み、激しく振った。しかし声をかけてみても、彼女は起きなかった。まるで死んだかのように、すやすやと眠っていた。



「起こしても起きないよー?」

「………なんでだ?」

「だって薬飲ませたんだもんっ」



えっへんと女子が腰に手を当てる。

薬……?何の薬だ?睡眠薬?なんでそんなもんこいつが持ってるんだ?それにこいつ、どうやってミラに飲ませたんだ?




――――……あっ。




「まさか………パンに?」

「そーう!だーいせーかーい!ここのパン全てに睡眠薬入れといたんだー!」



女子が称賛の手を叩く。嬉しくない。喜ぶどころか、段々と血の気が引いていく。

再びミラを見る。相変わらず夢の中だ。心做しか、肌が真っ白く見える。

たしかミラ、パン5個くらい食べたよな……?




まさか死んでたり……してないよな……?




「どんくらい……入れたんだ……?」

「えー?うーん、忘れちゃったー。でもさ」

「………?」




どうしてそんなこと気にするの?




絶句した。

なんで気にするかだと?そんなの決まってるだろ。



「死んだかもしれないんだぞ……?」

「だってこれ、そーゆーゲームじゃん」






……………は?





「ッ!!」



左脇腹を矢が掠った。服が破ける。女子は次の矢を取り出していた。

狙いを定めたその目は、とても同じ学校に通う女子とは思えない。

百戦練磨をくぐり抜けてきた戦士のような目―――。



「油断してると死んじゃうよ?」

「くそっ……!」



俺が走り出すと同時に、矢が放たれた。矢は俺の顔ギリギリを掠める。

俺は右腕を振った。刃は虚空を斬る。

外に跳んだ女子は、着地するとまた矢を放った。避けようと右に跳ぼうとしたが、痛みで一瞬遅れた。左肩に矢が突き刺さる。その場に片膝を着いた。



「いっつッ……!」

「お次はこれだよっ!」



急いで矢を抜き捨てる。女子は同じように、矢筒から矢を取り出す。

しかしその矢は、今までの白とは違い、紫の羽を持っていた。嫌な予感がする。

あれに当たったら死ぬ―――。



「くらえーっ!」

「喰らうかッ!!」



俺は走った。真っ直ぐに女子に向かうのではなく、なるべく狙いにくいように蛇行しながら。

女子は矢先を俺に合わせて動かす。しかし当然狙いは定まらない。女子は下唇を噛んだ。



「止まってよ!!当たらないじゃん!!」

「わざわざ死ににいく馬鹿が何処にいる!!」



女子が怒号ついでに放った矢は、明後日の方向へ飛んでいった。その隙に俺は女子に十分近付いた。

次の矢がセットされる前に……!




「「くらえぇええええッ!!!」」











―――――――パーンッ






俺が振るった剣は、女子の弓を真っ二つに斬った。破片が飛ぶ。

それと同時に、俺の左頬から血が飛び散った。

激しい痛みに、俺は膝から崩れた。乾いた音を立てて剣が落ちる。

傷口を触ると、手にも痛みが生まれた。すぐさま手を離す。



「ふふっ……今放ったのは毒矢だよ……?」



勝ち誇ったような、だが苦しそうな声が降ってくる。見上げると、女子が苦い顔をしながら微笑していた。腕からは出血している。弓を斬った時、腕まで斬れたらしい。どうも感触が生々しかったわけだ。

女子は矢筒から矢を取り出した。紫羽の毒矢。

頭の中で誰かが逃げろと言っている。だが逃げられなかった。毒のせいなのか恐怖のせいなのか。体が動かない。

女子が矢を振り上げた。



俺はきっとここで死ぬ運命なんだ。






「……さようなら」







眼前に鋭い死が迫った。














―――――――グチャアッ



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