3
オレンジ色に染まる空。夕日が眩しくて、思わず目をつぶる。
これでカラスがいたら最高なんだけど、などと思いながら一人さびしく歩く俺。
一体、あれから何時間経っただろうか。少年と別れたあの時から。俺はとりあえず歩き続けた。
何かアクションを起こせば状況が変わると思ったから。
少年の言っていた通り、街には誰もいなかった。“ゲーム”の参加者はいるとか言っていたが、そんな奴らにさえ出会っていない。
つーか、改めて問いたい。
“ゲーム”って、何だ?
ここからでも、少年と会った場所からでも見える、でっかい学校。少年曰く、そこを目指すゲームらしい。
だが、一体それのどこが“ゲーム”だと言うんだ?
これっていわゆる、山登りで頂上を目指すようなもんと同じだよな?なんでわざわざ“ゲーム”なんて言うんだ?少年の遊び心が表れたのか?
俺は歩みを止めて、背負っていた双剣を取り出した。銀色に光る刃を見つめる。
しかも、この武器はなんだ?ただ学校を目指すだけなのに、何故武器が必要になる?
疑問だらけだ。俺は“ゲーム”の参加者だというのに、ほぼ何も分からない。こんなわけのわからないものに参加した覚えは無いがな。
「はぁ……疲れたな」
なんだかんだ歩き続けたせいで、足が痛くなってきた。とりあえずどこかで休もう。辺りを見回す。
右真横に人がいた。
「ッ―――――!!」
脇腹に拳を叩き込まれ、そのまま横に吹っ飛ぶ。ガードレールに左半身をぶつけて、ズルズルと落ちていった。
「いってぇええ……」
脇腹と左半身が。
不意をつかれた上にそうそう殴られたりしないから、死にそうなくらいの激痛が全身に走っている。
「弱っ」
声と共に影が差す。髪の毛を掴まれ、上に引っ張られた。抵抗することも出来ず、宙吊り状態にされる。
「もうちょっと手応えあってもいいだろ」
そう言って眼前の大男は、左腕を水平に上げた。その手には、剣が握られている。
――――あぁ、俺は死ぬのか。
こんなわけのわからない所で。
わけのわからないゲームを告げられ。
わけのわからない男に殺されるのか。
案外、あっけない人生だったな。
「見ーつっけたっ」
陽気な声。次の瞬間、俺はドサッと地面に落ちた。
何が起きたのかと顔を上げてみると、大男は少し離れた場所で道路の先を見ていた。さっきまでとは違い、険しい顔をしている。
俺も倣って見てみると、そこからは“誰か”が歩いてきていた。
何かを担いでいるようだが、あれは…………銃?
え?
「逃げ足だけは速いのねー」
「チッ!撒いたと思ったのに!」
「逃げられるわけ無いじゃない」
赤いポニーテールに黄色い目の女。その女が歩いてきていた。
すげぇ……あれ染めてるのかな。
女は構えた。やはりあれは銃だったらしく、銃口が大男をとらえる。
あんなデカいもん、よく持てるな……自分の身長なんてゆうに超えてるぞ。
「なんだ?接近戦じゃねぇのか」
「だってぇーそろそろコレ使いたいしぃー」
大男は動かない。女も構えたまま。俺はバレないように、じりじりとその場から離れていた。
あくまであの女の標的は大男のようだ。なら俺は関係ない。俺は無関係。巻き添えなんか喰らいたくない。出来れば走って逃げたい。ヘタレだとか何とでも言え。俺はまだ死にたくないんだよ。
沈黙。風が吹くと、各々の髪や服がなびく。
「――――ハハッ」
次の瞬間、爆発音が街中に響き渡った。
「うおおおっ……」
息が出来ないほどの突風と共に、煙とコンクリートの破片が吹き付ける。腕で顔を覆った。
何が起きたのかは分かる。女が銃を撃ったのだ。爆発音の前に、かすかな引き金を引く音がした。
あんなでっかい銃器で撃たれたら、ひとたまりもない。大男はどうなったのだろう。
だんだんと煙が晴れていく。俺は大男のいた場所をじっと見つめていた。しかし、そこに大男はいなかった。
「馬鹿かっ!!」
声が降ってきた。見上げると、大男は空中にいた。
人間技とは思えないほどの跳躍だった。普通あんなに跳べるはずない。それなのに大男は軽々と、マンションの三階くらいまで跳んでいた。
「そんなインターバルの大きいやつ、ヘタに撃つもんじゃないぜ!!」
なるほど、と俺は感心した。あんなデカい銃なんてセコイにもほどがあると思っていたが、やはりリスクはあるようだ。
大男の言葉を裏付けするかのように、女は大変部が悪そうな顔をしている。
しかし、次の瞬間には笑顔に変わっていた。
「これでも喰らえぇえええええええ!!!」
大男は弧を描くように女へと落ちていく。手には振りかぶった剣。
大男は気付いていない。女が笑っていることに。気付いたところで、もう後戻りはできないだろうが。
―――――ドォオオン
唐突に、男が爆発した。