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過去
その日は、受験勉強に没頭しすぎて 学校を出るのが遅くなってしまった。
電車に乗り遅れてしまいそうだったので、いつもは通らない、人気のない近道を選んだ。
自転車を漕ぐ私の前方に、手を繋ぐふたりが見えた。
申し訳ないけれど追い越そうとペダルを少し強く踏み込んだとき、思考が止まった。
前に見えた男の子の姿は、昨日わたしに好きだと告げた彼だった。
あまりのことに、強くブレーキをかけた。
キーッと甲高い声で、自転車が止まる。
「歌音ちゃん…」
振り向いた彼が呟いたのが、聞こえた。
指を絡ませたふたりの間に、わたしは入る余地を見つけられずに、言葉も見つからなかった。
本当に、何も言えなかった。
好きじゃない。だから傷付く必要ない。そう言い聞かせた。
「おつかれ!電車遅れるから行くね!」
わたしは、早口でそう言うと、全速力で駅まで自転車を走らせた。
好きじゃない。
好きじゃない。
好き。じゃない。
好き。