過去
3年生の夏を迎えたわたしは、失恋の傷も癒えて、楽しく過ごしていた。
すこし、気になる男の子もいた。
ひとつしたの、背の高い男の子。
委員会が一緒になって、話していたら意気投合して、それから急激に仲良くなった。
「歌音ちゃん」
彼は、わたしをそう呼び、慕ってくれた。
まだ、あの失恋から5ヶ月しか経っていない。
恋をするには、はやかったし、そんな気にもなれなかった。
だけど、急速に近づいていくこのスピードに、胸が弾んでいたのは確かだった。
先輩のときとは違う。ゆっくりで、穏やかで、何よりも自分への肯定感があった。
「好きなんだけど」
彼がわたしにそう告げたのは、秋の入り口が見え隠れする頃だった。
自転車を押してふたりで歩く帰り道の途中。
時間が止まった気がした。
「…返事…できなくて…えっと」
「わかるよ、歌音ちゃんが大変なのは知ってるし、急がせたくないとも思ってる。でも、歌音ちゃん春には卒業しちゃうし、そろそろ委員会も変わる頃だからと思って。」
わたしは、誰に対するかも分からない罪悪感のせいで、その告白に頷けなかった。
だけど、嬉しかった。
人に好きになってもらうというのは、本当はきっとこんな風に 温かいものなんだと知った。
次、一緒に帰るときは、よろしくお願いします、と返事をしよう、と決めたのはその日の夜だった。