自分を好きになれ!
第一話
授業中、俺は菜月の事が気になって全く集中出来なかった。
しかも、菜月は俺の隣の席だ。運が良いのか、悪いのか。
あいつは朝、俺に久しぶりと言っていた。どこかで会ったことがあるのだろうか。でも俺はあいつの事を知らない。
もしかしたら、ただの人違いかもしれない。
そうだとしたら、悲しい事だな。せっかく五年ぶりに女子と話せたって言うのに、間違いだと気づいたらいなくなってしまうのか。いや、そうとも限るまい。菜月と今朝話した時には、人によって態度を変えるような奴ではないと感じた。
だが、もしあいつの態度が俺を知り合いだと勘違いしているからだとしたら・・・
考えるだけで恐ろしい。
俺はとにかく頑張って思い出そうとする。が、こうして目をつぶって過去を振り返ると真っ暗闇に置いていかれる。
希望も奇跡もない、不安と後悔とが支配する闇の中。まさに漆黒だ。
刹那、その暗闇の中に一筋の光が差し込む。その光は少女らしき人物を映つす。
真っ暗闇なこの世界で、異様なほど光輝いていた。少女の顔はぼやけていて見えないが、なぜだろう。その少女を見ていると、とても穏やかな気持ちになる。日常の葛藤やストレス、自分というダメな存在を忘れさせてくれる。
「わ・・し・・・の・・」
少女は俺に何かを言っている。
しかし、聞き取れない。
「・・・に・・・か・・」
どんどん少女の声が聞こえなくなってゆく。
次第に目が何かに遮らたように見えなくなり、体が石のように重い。
「く、苦しい…」
しかし、暗闇は時間が止まっているかのような静けさのまま動かない。
目の前には永遠に闇が続いている。辺りは真っ暗で距離感覚がつかめないが地球ぐらいの大きさはありそうな勢いだ。
俺はこっちの世界に生まれるべきだったのかもしれない。
ふと、そう思った。
こっちの世界で生まれていたら、嫌なことも、悩むこともないし、毎日逃げる必要もなくなる・・・
俺は女子と喋りたい。と、同時に俺は女子に対して恐怖も抱いている。
女子は俺を見るとまるで、生ゴミを見るかのような目で見てくる。とても、人間を見る目には見えない。そんな日は、きまって保健室にいく。
そして、誰にも気づかれないように一人で孤独に泣きじゃくる。
それでも最近はもう慣れたと心では思っていた。
でも、俺の体は嘘をつかない。今でも女子に陰口をいわれると俺の体はすごく震える。まるで、生まれたての小鹿のように、ぶるぶると。
俺は女子と喋りたい。だが、俺の体はそうしたくないようだ。
俺は、自分がなぜこんなに女子から嫌われているのか分かるようで、まるで分かっていない。
なぜ、俺だけこんな扱いを受けなければならないのか。
どうして女子はそんな目で俺を見るのか。
俺はただ普通に接してほしいだけなのに、どうして・・・
目からは大粒の涙が溢れる。俺はこの理不尽な世界に訴えかけるように泣き続ける。
「・・・の・・・よ・・」
「・・・ッ!」
どこからか声が聞こえる、しっかりと聞き取れないが一生懸命に俺に何かを訴えている。
ふと、体が軽く感じた。すると先ほどと同じ声の少女が目の前に現れる。
相変わらず顔はぼやけていて見えないが、少女が笑みを浮かべているのは分かった。
そして、少女は後ろで手を組み、まるで好きな人に告白するときのような、恥ずかしさと緊張を隠すように俺を見て、
「わたし、蒼太の・・・で・・・本当に良かった」
「・・・何だって?」
そして、次第に意識が薄れていく…
ーー
「そうたー!起きなさーい」
「・・・ッ!」
菜月のでかい声で目が覚める。
「も~ やっと起きたのね。まったく、昼休み前から放課後までぶっとうしで寝るなんて、たいしたもんだわ」
そんなに寝ていたのか。では、あの少女は夢か・・・
そして、何気なく周りを見渡すと、
誰もいない。
「あの~ みんなはどこに?」
「帰ったわ、とっくに」
窓の外を見ると、日がだいぶ傾いていた。
「菜月は帰らないのか?」
「蒼太に話したい事があるから、まだ帰らないわ」
「話したいこと?」
「えぇ、そうよ」
多分、朝の事だろう。実は間違いで、私はあなたの知り合いではありません。だからもう喋りかけないで下さい。的な
流石にそこまでは言わないかと思いつつ、心配になりながら彼女を直視すると、彼女は俺の正面に体を向け、顔だけをうつぶせて、重そうな口を開く。
「あ、あのさ~ 蒼太ってさ~ その~ もしかしてさ~ 私の事覚えてない?」
彼女は今にも泣き出してしまうのではないかと思うほど、か細い声を出す。
しかし、俺は何も思い出せない。
俺はなんて最低な人間なんだ。俺は普通の人よりも人と関わった回数が圧倒的に少ない。それなのに彼女を思い出せない。
こういう一つ一つの行動で周りの人と差がついていくんだということを身をもって感じる。
ならば俺がなすべき行動は一つ。
失敗をしてきた俺にしか出来ないこと・・・ そう
″これまでの失敗を生かせ″ という事だ。
俺はいつも自分に都合が悪いと嘘をついていた。
嘘をついて解決したと勝手に思い込んで、また嘘をつく。
そんな事をしておいて、俺は女子に嫌われていると、上辺の事ばかりいって物事の本質的な部分を考えようとしない。
嘘をついて信頼を失い、
嘘をついて期待も裏切り、
嘘をついて嫌われるのだ。
そして俺という、結城蒼太が出来ていく。
しかし、俺は学んだ。
この失敗を次に活かせれば、これは成功だ。これまでの失敗に意味があることになる。
逆に言えば、失敗を次に活かせなかったら、これはただの失敗のままだ。
だから・・・
″今度こそ成功させる″
「菜月、俺は君の事を覚えていない。いつ、どこで会ってなにをしたのかも全くだ。」
「そ、そうだよね、だって私たちが最後に会ったのも、もう随分昔の事だもんね。」
「けど! けど、俺は一つだけ分かる事がある。菜月と初めて会った時。俺が五年ぶりに女子と喋った時、俺は感じたんだ、俺と菜月はそこらの奴らが言い表せないような、もっともっと深い、絶対に誰にも邪魔出来ない強い繋がりがあるんだって。だから!だから、こうして俺達はまた出会えた。俺はまだ菜月の事を思い出せない。でも、絶対にいつか思い出してやる!」
絶対に俺と菜月はあかの他人ではない。確証はないが、なぜかそう思う。
「蒼太・・・」
菜月は目に涙をためて、今にも泣き出してしまいそうだ。
そして、菜月は何かをふっきったように勢いよく立ち上がり
「もうこんなに遅くなっちゃったね、早く帰ろうか、蒼太」
「おう!」
俺は女子から嫌われている。
女子を見る目がキモいとか、アニメ鑑賞をする時のにやけた顔がキモいだの、大抵の人間はこんな事言われたらだいぶ傷つくだろう。
自分の足らない所をせめて、自分が自分を信じられなくなって、自分を嫌いになっていく。
でも俺は、自分が結構好きだ。
だって、こんな俺にだって良い出来事があるんだから。
だから、俺は自分を嫌いにならない。どんな出来損ないにだって幸運は平等にある。
そう信じている間は、嫌いにならない。
ーー
俺と菜月が帰る頃にはすでに日が沈んでいた。
当たりは暗く、街頭の光がてんてんと光始める。
俺は菜月と二人並んで帰り道を歩く。まるで、できたてカップルみたいだ。
だが、この微妙な空気も嫌いじゃない。
「なあ、菜月、どうやったら菜月みたいにクラスの中心に立てるようになるんだ? 今日だって初めて顔合わせた奴もいるのにいきなり学級委員に立候補するなんて、どうかしてるぞ」
「そんなの簡単よ。これからの学校生活の地位と内申が保証されるって言うならどんなに周りに嫌われようと苦ではないでしょ」
実に簡単だ論理だ。俺もそういうプラスな思考を持ちたいよ。
「まあ、蒼太は学級委員やんなくても勉強は意外とできるようだし、無理してやらなくてもいいと思うけど、女子に好かれたいって言うなら学級委員になることをおすすめするわ。リーダーシップとれる男子はモテるからね」
「意外はよけいじゃ。てゆーか菜月、俺が女子に嫌われてるって知ってたのか。」
「えぇ、あれだけの噂が流れてたら嫌でも耳にするわよ。」
女子こわッ
「今日も蒼太が授業中寝てたとき女子全員が、あなたが寝たふりをして女子をじろじろ見てるんじゃないかって騒いでたわよ」
見てません、見てません、しっかり寝てました、授業中。
「まったく、勝手に人の事変態だと勘違いして変な噂たてるなんて、こっちの身にもなってほしいよな」
「そ、そうね。確かに一回みんなからの印象悪くなっちゃうと何もしてなくても自動的に嫌われていくのよね。こないだも、蒼太がカップルに喧嘩売ってたって噂を聞いたわ。いくら嫌いでも嘘はだめだと思うのよ」
ごめん、それ事実だわ。
正確にはあっちから喧嘩売ってきたんだけどね。
「でもまあ、今日は俺の念願の夢が叶った訳だし、振り返ってみればここ数年で一番充実した一日だったかもな」
「私も蒼太と話せてとってもいい一日だった。ありがとう」
菜月は恥ずかしそうに頭に手をのせて無邪気に笑う。
「どういたしまして。菜月」
俺も笑って返す。
この時俺は、初めて女子と喋って楽しいと感じる事が出来た。
「じゃあ、私家こっちだから、また明日ね」
「おう、じゃあな」
こうして菜月と別れた後も俺は自然にゆるんでしまう自分の口を押さえながら薄暗い夜の街を歩いた。
久しぶりに女子と喋れたんだから別にいいだろ、ちょっとぐらい喜んだって。
ーー
─次の日の朝─
俺は今朝も、昨日願いを叶えてくれたお天道様にお祈りをする。
「今日も女子と喋れますように。できれば菜月以外の女子にも。いや、それは欲張りすぎか。じゃあ、せめて菜月以外の女子と目があいますように。まてまて、どうせお願いなら、なに言ってもいいんだからもっとすごいやつを──」
″ガッシャーン!″
一階から皿の割れるような音が響いた。
「また皿割りやがったなーあいつ」
蒼太は呆れ顔で階段をすたすたと降りる。
蒼太が階段を降りると台所には身長の高いすらっとした体格の男が難しそうな顔をしながら立っていた。
「おい、父さん!何枚皿あれば気が済むんだ。これでもう今月十枚目だぞ」
「いやー、やっぱり父さんには皿洗いはむいていないようだ。だから明日から蒼太の仕事って事でいいか?」
まったく反省の色を見せていない。
「いいわけねーだろーが、この皿割りやろーが!」
「まあ、確かに皿割りは父さんの数ある特技の一つだからな。もっと褒めてくれてもいいぞ」
「誰も褒めてないわ!」
「ということで、片付け頼んだ、蒼太」
「おう、任せとけ! ・・・じゃ、ねーだろーが! おい、まてこの皿割り魔」
蒼太の呼びかけに一切反応せずに父は足早に家を出て行った。
「くそーあのやろー、皿洗いやんないっていったら、父さんの担当家事が風呂のお湯を沸かすボタンを押す係だけになっちまうだろうがー」
それはもはや、分担していると言えるのだろうか。
蒼太はしぶしぶ、割れた皿の片付けを済ませ、学校へいく準備をする。
今日はとてもいい天気だ。朝のお天気おねいさんも今日は一日中快晴だと言っていた。
「よし!じゃあ今日も張り切っていきましょ~う」
そうしてまた、いつものように七時四十五分に家を出る。
俺は高校に自転車で登校している。
入学したての頃は学校にバスで通っていたが、それだとバスの出発する時刻にあわせるために早く起きなくてはならないし、そのバスには女子校生どころか女性が乗っていない。
乗っているのはだいたい出勤中のおっさんと、趣味がゲートボールって感じのおっさんぐらいだ。
つまるところ、おっさんしかいない。
ならば、朝早く起きる必要もなく、おっさん達に囲まれる事もなく、お金もかからないで、女子に遭遇する可能性もある自転車登校が一石二鳥、いや、一石四鳥であると判断し、自転車登校にした訳である。
しかし、俺が家を出て自転車置き場にむかい自転車を取り出そうとしたその時、事件が起きた。
「ぷしゅーーーー・・・」
自転車のタイヤから気持ちよく空気が抜けていく音が、静かな朝の庭中に広がる。
俺の顔は青くなり、冷や汗が吹き出る。
「パンクしとるやないカー!!!」
俺は頭をフル回転させて考える。
どうやって学校いこう・・・
考えぬいた結果、思いついた方法は三つ。
方法一: パンクしてるけど、構わずゴーゴー
パンクしたまま無理やりこいで、学校へ行くという方法。危ないし、逆に遅くなるから却下。
方法二: 古代、戦いの結果を報告するために走ったアテネの戦士のように走る(三十キロを三十分以内に)
だるいし、遅いし、だるいし、疲れるし、だるいし間に合わないから却下。
方法三: バスで遅刻覚悟で学校へ向かう
この方法は、運よくこの時間に学校行きのバスが出ていたら、多少遅刻はするものの数分の遅刻で済ませる事が出来る。しかも他の方法より、安全で楽だ。だが、もしこの時間にバスが出ていなかったら走って行かなければならない。
どの方法を選んだとしても即刻に決めなければならない。よって今の俺には一秒の猶予もない。
今現在、一番有力なのは方法三のバスである。やはり、なんといっても楽だ。走るとかまじ鬼畜だし・・・
だが、もしバスが出ていなかった時の事を考えると、バス停と学校の方向は真逆だから、相当な時間のロスになる。しかも走らなければならない・・・
この選択を間違えると今日一日がバットデイになってしまう。
俺は安全で楽で早いバスに乗れれば一番最高なのだがリスクが大きい。いや、そんな事を気にして走って行ってバスでいけたと後で知ったらどれだけショックな事だろうか。俺はそんなの嫌だ。そうだ、俺は責める男だ。今日はどんどん責めていって女子と喋りまくるぞ!
そうと決めたら時間がねえ、一秒でも早くバス停に着くぞ!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!いそげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
道行く人が心配と哀れみの目で俺を見ているがそんなことは気にせずに俺は突っ走る。
「ヘヘヘッ、そんな目で見られるのにはもう慣れっこだぜ」
家からバス停まで約四百メートル。この長いのか短いのか微妙な距離を俺は全速力で疾走する。
スタートして数十秒後、すでに俺は、一つ目の曲がり角へ入ろうとしていた。
両手両足を速く動かせば速く走れる。こんな小学生が教えられるような事でもしっかりと実行すればこんなに速く走れる。小学校もなめたもんじゃないな。
一つ目の角を曲がりそのまま長い直線に入るとペースがだんだん一定になってきた。
とても良いペースだ。
「このまま行けば一番早い時間のバスに乗れるかもしれない」
と、安堵した刹那、後方から一台の大型車両が俺を無残にも追い越していった。
「ま、まさかな。なんか見た目思いっきりバスっぽいけど学校行きのやつじゃないよな。駅にはたくさんのバスがはしっているから目的のバスである確率は十分の一以下だもんな。うん、目的のバスではないに違わない」
バスの後方にある目的地表示には「神田水学園行き」
俺のフラグはしっかり回収された。
「は・・はは・・・ははっ・・・い、いそげぇぇぇぇぇぇぇ」
俺はすごい形相でバスに食らいつく。
バスとの距離は約四十メートル。並大抵の人間では無論追いつけない。だが、俺のきたえぬかれた足は普通とは違う。
「毎日自転車登校の俺の足をなめるなよ~!」
バスとの距離をどんどん縮める。
すると、俺がどんな状況だか悟ったのか
「ガンバってーお兄ちゃん!」
「あんちゃん、もう少しだ!気合いだ!」
「あと少しよ~頑張って」
周りから、応援の声が聞こえてきた。まるでゴール直前のマラソン選手にでもなったような気分だ。
この即興応援団は道沿いに連鎖してゆき、どんどん声援が大きなものになっていく。
出勤中のサラリーマン、ゴミ出しをしているおばさん、登校中の小学生。この七色の声援を背に俺は全力で走りぬける。
バスとの距離は一メートル、また一メートルとどんどん縮まっていく。
そして最後のカーブを曲がり商店街へと入ると、声援はさらに大きくなり商店街一体がお祭りムードとなっている。
両足を同時に出しているんではないかと思うほど足の動きが速い。もう脳がついていけない速さだ。
女子と会うためにやっていた早朝マラソンのおかげでスタミナは保ちそうだが、まさかこんな所で役にたつとは思ってもいなかった。
たくさんのお店を横目に一瞬で通り過ぎると長い商店街も終わりを迎えようとしていた。
年季のはいった古着屋を通り過ぎて商店街を抜けると、目的のバス停がある、駅が見えてきた。
駅は周りが住宅街なせいか、とても立派なものに見えた。といっても他の駅と比べれば決して小さなものではないのだが。
バス停までの距離はおよそ五十メートル。俺は満開の桜の下を全力で走り抜ける。
「うぉぉぉぉぉ、ラストスパートォォォ」
バスはバス停に近づくにつれて減速を始めた。
そして、ついに…
「よっしゃー!止まった!!!」
歓喜の大声援と共に俺はバスへ駆け込む。
そして、俺は出勤途中のサラリーマンや登校中の中高年であふりかえっている車内の後方へ、人の波をかきわけながら移動する。そして商店街の即興応援団のみんなに手をふって感謝を伝えると、自然といつもの穏やかな商店街に戻っていった。
「みんな、ありがとう!!!」
なんとかバスに乗り込めた訳だが運悪く今は出勤ラッシュ真っ只中だ。時間がたつにつれて、これまでかというほど人が入ってきて、身動き一つするのにとても苦労する。そして、なんといってもバスの車内は人口密度が高すぎて蒸し風呂状態だ。
俺の体はつま先まであっという間に汗だくになる。女子と喋るのに汗だくでは悪印象を与えてしまうと思い、汗を拭こうとポケットに手を突っ込んだその時、
「キャッ!」
驚きと羞恥心をそのまま声にしたような小さな叫び声が俺のすぐ隣から耳に響く。
ふと、自分の手を見ると、色の白い綺麗な手をがっちりとつかんでいた。恐る恐る顔を上げてみると、そこには家の高校の制服を着ている女子校生が涙目で口をつむぎながらこちらを見ている。胸には一年生の徽章を付けている。
この睨まれてる感じも悪くない。
「もう、急になにするんですか、バスの中がいくら混んでるからってばれないとでも思ってるんですか?それに、あなた今私のスカートめくろうとしていましたよね、さっきから怪しいと思ってたんですよ、そんな汗だくで髪もぼさぼさでいかにも変態さんって感じですもんね。さては、あなた常習犯さんですね、今日の私の下着がいつもよりせめぎみだと見ただけで分かるんでしょ。だから、もうたまらなくてつい手を出しちゃったんですか。いやーダメですね、爪があまいです。あまあまさんです。痴漢常習犯さんならやっていい相手と悪い相手の区別ぐらい着くでしょう。それにやり方が雑過ぎですね。もし、私があなたの立場だったらまず、相手が声をあげる前に気持ちいいとこ探り当てて、声が出な言いようにしてからバスが止まるまで楽しんで、バスが止まったら乗客に紛れて逃げるという方法を取りますね。あ、だからって今から私が言ったことやっちゃダメですよ。今それやられたら逃げ切れる自信がありませんからね」
「なげーよ!って言うか俺、ハンカチをポケットから取ろうとしただけだし。痴漢なんて冤罪だー」
ってあれ、俺、女子と話してる。
今、俺は女子と・・・
心のそこから気持ちが沸いてくる。しかも相手はメッチャかわいいし。俺の好きな普段はSだけど夜になるとMになるという、いたずらしがいのある性格をしている。
「ってあれ、あなたそれ私の学校の制服じゃないですか。もしかして、あなたも初日から学校遅れて来ちゃったさんですか?」
「いや、俺をお前と同じにするな、俺はただ…」
「キィィィーーー!」
「うわっ!」
バスが急ブレーキをかけたようだ。俺はその反動に耐えきれず前に倒れ込む。
が、俺はなんとか手を前について、怪我をする事はなかった。
「ったく、しっかり運転しろよ…ん?」
俺は胸に何か柔らかい感触を感じる。
「あ…」
「あ…」
「マズい…」
簡単に説明しよう。まず俺が急ブレーキの衝撃で彼女を押し倒した。そして、手をついたら彼女に壁ドンをしている体制になり、俺の顔の目と鼻の先には彼女の顔がある。結果、非常にまずい状況だ。
「あ、あ、あなた、な、何を」
彼女は耳の先まで真っ赤になっている。
「いや、違うこれはたまたま、たまたまで、だから、その」
女子と話しなれていない俺は上手く状況を伝えられない。とにかく何か弁解しなければ。
「まて、落ち着けこれは偶然だ。俺は決してわざとやったわけでは」
「わ、分かりましたから早くその顔と手を私からどけて下さい。私の体はまだそういう経験がないので、あまり、過激な事をされると、簡単に落ちてしまいますから」
彼女は恥ずかしそうに目線をそらし、口を尖らせている。
「急に何を言い出すんだよまったく」
俺は彼女の言うとおり顔と手をどける。
十秒ほどの沈黙… 先に口を開いたのは彼女だった。
「あ、あの、私まだあなたのお名前聞いてませんでしたよね? よ、良かったらその無理にとは言いませんが、お名前を…」
「そう言えばそうだな、まあ君がそうしたいって言うなら自己紹介ぐらいしておくか。」
俺は彼女の前にどっしりと立ち、右手を腰に。左手を彼女の目の前まで持って行きピース。
「俺の名前は結城蒼太。女子と喋らない歴五年を経験したスーパーベテラン非リア充様だ!」
「そ、蒼太…ですか、分かりました蒼太くん、せっかくですから私も自己紹介しちゃいましょう」
ウキウキと話を進める彼女は、仁王立ちをして、目線が高い俺を見下ろそうとする。
「私の名前は朝霧美音!中学生の時のミス・ミスターコンテストで三年連続で女子グランプリ一位をとった容姿、内面ともに上限オーバーのモテモテ女子高生です。」
容姿はともかくとして、自分からモテモテ女子高生と言っている時点で内面が上限オーバーと言うのはないと思うのだが。
勝ち誇った顔でこちらを見ている美音に俺が鼻で嘲笑すると、
「なんですか痴漢常習犯さん、まだこの私の完璧さが分かっておられないのですか。いいでしょう、一から百まで徹底的に教えてあげましょう。分かってもらえるまで帰れないと思ってください。」
「え、じゃあ今日学校が終わるまでに俺が君の素晴らしさを理解出来なかったら夜の二人きりの授業もあるんだね?(ゲス顔)」
「え、いや、よ、夜は、そうですね、授業の休憩時間ということにしましょう」
「てことは、俺は夜の間ずっも朝霧の隣にいなきゃいけないのか。そーかそーか」
「な、何でそうなるんですか!」
「だって、分かってもらえるまで帰れないんだろ?それなら夜も一緒にいなくちゃ」
「いや、それは、別に、そこまで」
「あれ、さっきの嘘だったの?おかしいな朝霧はたしか内面が完璧だったはずなのになー」
「わ、私は内面も完璧ですよ。あなたみたいな変態さんよりも」
「そっかあー、じゃあ今晩はよろしくね」
「な、なんで今から夜までに終わらないって決めつけるんですか!」
「え~だって朝霧の素晴らしさは夜までに表せるようなものじゃないでしょ?なんたって元ミス中学生だもんね」
「んぐぐ…わ、分かりましたよ。今晩は、家に泊まって言って下さい」
「え…マジで?いや、夜は、さすがに、いやー」
さすがに夜一緒にいられるなど一切期待していなかった俺は完璧な童貞対応をする。
「私の両親は今週一週間、妹とスイスに旅行中なので家には誰もいませんからだいちょうぶですよ」
美音は笑顔で答える。いや、俺も行きたいんだけどさ。
「蒼太くんが来るなら私、今夜はご馳走を作りますね」
完全にのりのりな朝霧に今さら断れない状況だ。
「おう、楽しみにしてるぜ」
言ってしまった。今ので俺は朝霧の家に行くことを認めたことになる。どうしよう、色々とマズい気がするのだが。
バスが学校に着くまでの間、ずっとニコニコしている朝霧の顔を見ていると、その気持ちもだんだんふせていった。
学校にバスが着いたとき、既に登校時間を過ぎていて叱られると思ったが、自転車の空気が抜けていた事を話すと、担任の先生は笑って許してくれた。
まあ、問題は今晩なのだが…
美音の登校日が蒼太と違うのは、一年生の登校日が一日遅いからです。