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009 古代龍、シーストップの苦悩

最強ペット追加

 リュウドウ大陸、その実は、偉大なる神の使徒の仮初の肉体の胴体部、その心臓部分より盛り上がった山、ドラゴンハートマウンテン。

 その頂上に私が在った。

 この世界に移住した竜の中でも年長だった私は、その偉大なる神の信託によりこの世界の管理者としての力を授かって、竜族をまとめ、この世界の自然の管理を行い続けていた。

 時には、人族や森族、地族等を助け、増長した魔族を懲らしめたりしていた。

 しかし、その様な事をしていたのは、もう遠い昔になる。

 今は、私には、何の権限が無かった。

 その力が無くなった訳では、ない。

 やるべき事が無くなった訳でもない。

 その理由が私の前に人の女性の姿で立っていた。

「シーストップ、これが最終通告です、直ぐにこの世界からの解脱の準備をなさい」

「お待ち下さい、何度も申し上げていますが、私は、この世界に骨を埋める覚悟です」

 私の言葉に女性は、呆れた視線を向ける。

「そんな勝手な事が許されると思っているのですか? 貴方は、偉大な神に選ばれ、大いなる力を宿した者。その力をより多くの者の為に使う義務があるのです」

 それが正論である事は、重々知っている。

 それでも私は、口にしてしまう。

「神は、この世界をお見捨てになられたというのですか?」

 女性は、きつい視線を向けてきた。

「愚かな事を言うでは、ない。この世界は、元々、仮の世界。新たな世界に旅たつ為の準備の世界でしかないのです。この世界で怠惰に過ごす者に余分に割く力があればもっと勤勉な者の世界に力を割くのが常道です。だいたい、この世界を滅ぼす事には、極神会議でも三つの賛成を受けているのですよ、これが何を意味するかくらいは、解るでしょう」

 解っている、神々を統べる極神達で行われる会議、そこで一つでも賛成を受ければその世界は、滅びてに値する世界という事になってしまう。

 実際に三つも賛成を受け滅びていないのは、偏に極神をも統べ、この世界の土台となりし竜の主たる神が反対意見を上げているからだ。

「もう少し時間を頂くわけには、いかないのですか?」

 私が苦しい提案をすると一笑される。

「この世界にどれだけのチャンスが与えたと思っているのですか? そして、今回の大幅な異動は、育牙が分離した際の力の低さ故です。その報告は、貴方がしてきた報告ですよね?」

「その通りです。確かに育牙の分割を感知して、その力をご報告しました」

 今更ながらあれは、失敗だったかもしれない。

 だが、この数百年、分割を起こしていない状況では、この世界の人族の怠慢の証明にしかならない。

 多少低くても限界まで達した実績を上げる必要性を感じてたのだ。

「惜しいと言えば我欲の魔王、あの男も強い信念を持ったこの世界に残して置くのが惜しい者でした。それがあんな不十分な育牙に敗れたその理由をあのお方から聞いた時は、私が思わずこの世界を滅ぼさない理由を聞き返したくらいです。自分でもよくそんな無謀な事をしたかと今更ながら冷や汗をかく思いです」

 この方が聞き返すのすら恐れ慄くお方などそう居ない。

 不遜だと承知で尋ねる。

「その滅ぼさない理由は、聞けたのでしょうか?」

 女性は、少しの躊躇の後、口にする。

「ガイドブックが死んでいないからとだけ御答え頂きました。正直、私等では、あのお方の深いお考えを理解することは、出来ません」

 このお方にわからないことが私に解る訳もない。

「三日です、三日後またここに来ます。その時は、貴方の準備が終わって居なくても強制的に送還します」

 そういい残して女性は、消えた。

「三日か……」

 実際問題、私の今もっている仕事の殆どを既にこの世界に残る者達に託してある。

 今更私が居なくても何も変わらない。

 例え居たとしてもこの世界に残されたのは、緩慢な衰退の道だけだろう。

 私がこの世界に居る意味、それすらも無いのかもしれない。

 しかし、それでも私は、この世界を愛している。

 滅びるしか無い世界だとしたら、それを共にしようと思える程に。

 残念ながら選択権が私には、無い。

 それが神に力を与えられた代償なのだから、悔やむ事すら間違いなのかもしれない。

 残された短い時間をどう過ごすべきかと考えていた時、それに気付いた。

 一人の十歳くらいの少女がこのドラゴンハートマウンテンの麓に居た。

 そして聖域として区切られた柱の前に立って頂上を見て言葉を紡ぐ。

『頂上に登りたいのですが宜しいですか?』

 テレパシーでの問い掛け、普通の少女でない事がその時解った。

 力を使ってみてみると、普通の人族でない事も解った。

 額にあるのは、魔族でも一部の者しかもたない帝紅眼である。

「純粋な魔族でも無いみたいだが、なんの為に?」

 疑問に思ったが、ここで一つ条件をつけて応じる事にした。

『一切の魔法を使わず、己の肉体のみで登るのなら許そう』

『ありがとうございます』

 そういって一礼して少女は、登り始めた。

 まだ小さな体でゆっくりと一歩ずつ登ってくるが、まず途中で諦めるだろうと考えていた。

 この様な少女がこの山に登ろうと思い至ったのは、まず帝紅眼の力故だろう。

 それが無ければ、この山に登ろうなど思いもしないはず。

 もしも諦めないとしても肉体的限界から魔法を使ってしまうだろう。

 その瞬間、聖域から押し出してしまえば、間違いなく心が折れてそれまでだ。

 それでも何故か興味を覚えた私は、その少女を観察していた。

 少女は、適当な所で背負ったデフォルメされたライオンを模したリュックからご飯を取り出して食事を摂る。

『ごちそうさまでした』

 そう手を合わせて挨拶をしてから再び歩き始めた。

 その歩みは、決して早くなく、一歩一歩確実に進んでいた。

 その後、夕食をとった後、少女は、今度は、毛布を取り出し、それに包まって眠りにつく。

「一日もったか」

 この時点でかなり意外であった。

 二日目も同じ様に自分のペースで歩き、そして食事を摂りってまた進む。

 そうしている間に最後の難関、断崖に到着する。

 百メートル近い岩壁、専用装備がある熟練者でなければまず不可能だろうその断崖に少女は、手を伸ばした。

 僅かな窪みに手を掛けて登り始めた。

 流石に辛いのか、息遣いが荒くなる中、少女の手が滑った。

 そのまま落ちれば即死、思わず私が地面に少女を受け止める空気のクッションを生み出すが、少女は、断崖に拳を撃ちつけ、折角登った半分を落ちた所で停止した。

 流石に慌てたのか、汗を拭って、再び登り始めた。

 今度は、五指を岸壁に押し込む様にしながら確実に。

 全身から汗を流し、少女は、登る。

 日が沈んでも少女は、登り続けた。

 そして、遂に頂上に到着した。

 私は、その少女を見下ろして言う。

「何を求めてこの地に来た? 古代龍、シーストップに何を求める!」

 私の問い掛けに少女は、頭を下げてくる。

「お邪魔いたします。えーとここから日の出を見せて貰う為に来ました」

 少女が何を言っているのか理解できなかった。

 そんな中、空が白みを帯、日が昇ってくる。

 それを見ながら少女が満足そうに頷く。

「何も遮る物がない場所で見る日の出って良い物ですね」

 すっかり日が出た所で少女が欠伸をしてからこっちを振り返る。

「あのー出来たら一眠りさせて貰いたいんですが良いですか?」

「構わないが、まさかと思うが本当に日の出を見に来たのか?」

 私の疑問に少女が笑顔で答える。

「ありがとうございます。この日の出は、苦労してみるだけの価値がある日の出でした」

 そういうと毛布を取り出し無防備に寝てしまう。

 意味が解らなかった。

 たかが日の出を見るためだけにあのような危険な真似をした事がまず理解できない。

 それより何より、竜を統べると言われる私を見て、この反応の薄さは、なんなのだ。

 何もかもが理解できず、混乱のまま、少女の寝顔を見ていた。

 それから改めて少女が見ていた風景を見る。

 大地に何も無かった頃から見続けていたその風景は、何も変わっていない。

 それが何を意味するのか私は、思い出す。

「住む世界を失った我々を受け入れるために、自らの肉体を大地にして下さったあのプラド様は、今、この時も我々の為に力を行使されておられる。それなのに我は、何故諦めてしまったのだろう」

 数え切れないほど見たその風景こそ、私が失い、本来なら得られる事が無い筈の物だった。

 私は、それを与えてくれたプラド様の恩義に応える為に新たな世界に行くことより、この世界を管理する道を選んだのだ。

 それを今更変える気は、無い。

「この命、差し出して力を返上するのだ。その上でこの体は、この世界の一部と化そう」

 決めてしまえばなんという事もない決断だった。

 一切の迷いも無かった。

 そんな思いの中、少女が眼を覚ます。

「おはようございます」

「おはよう。いい朝だ。帰りは、送ろう」

 私の言葉に少女は、首を横に振る。

「良いです。旅って言うのは、帰り道も旅なんですから」

 そこには、強がりや虚栄心がない純な思いを感じられた。

 そんな少女が私を見て不思議そうに言う。

「何か良い事ありましたか?」

「何故、そんな事を聞くんだい?」

 私が聞き返すと少女がはっきりと答える。

「今まで見た中で一番良い顔をしてるからです」

 苦笑する。

「今まで見た中でね、さっきまでとは、違うのは、確かだよ」

 少女は、首を横に振る。

「違います。幾多の魔王が見てきた貴方の顔、特にここ数百年の中の苦悩に満ちた貴方とは、全く違う顔をしているからです」

 その一言に私は、驚愕し、即座に改めて少女を視た。

「まさか、我欲の魔王の継承者なのか?」

 頬を膨らませる少女。

「ただ、魔王印を継承しただけですよ! あちきは、あちき、コプンです!」

「だとしても、それだったらここからの景色など何度と無く見てきた筈だぞ」

 私の指摘に少女は、あっさり頷く。

「同じ景色は、何度も見たことがあります。でも自分の足で、手で登って見たのは、初めてですよ。そうやって登って見た光景とただ飛んで来て見た光景って全然違うんですよ」

 そう微笑む少女の言葉に私は、呆れる。

「本当に変わった娘だ。その力があれば私に気付かれないように岸壁の落下を魔法で防ぐ事も出来ただろうに」

「それをやったら、意味が無いんです。誰でも出来る方法で成し遂げてこそこれをコンプリートする意味があるんです」

 そう言って少女が見せてきたそれに私は、言葉を無くす。

「そ、それをどうして……」

「我欲の魔王が探していたのをその配下の人から譲って貰いました。これには、どれも誰でも行ける方法が表示されているんです。だからそれで行くことにしてます」

 何処か自慢げにいう少女に私は、解ってしまって笑いが止まらなかった。

「良いんですよ、理解されなくたってあちきは、絶対にやり遂げて見せますから」

 そう宣言する少女に私は、微笑む。

「すまんすまん。別に君の行動を笑った訳じゃないのだ。ネガティブな事ばかり考えて勝手に絶望していた自分自身が可笑しくて笑っていたのだ。君は、それを続けてくれ。成功を祈っている」

 それを見届ける事は、叶わないだろうが。

 そんな感情を読み取ったのか少女が私の目を見つめる。

「死ぬつもりなんだ?」

 私は、あっさりと肯定する。

「この世界と共にある事を選んだからな」

 少女は、頬をかく。

「我欲の魔王もそうだけど、長生きしてるとそんなに別の世界とか気にするんだよね。別に何処の世界でも関係ないと思うけど」

「年寄りの拘りって奴だな。最後に君に会えた、それが私にとって幸せだったよ」

 私の言葉に少女は、思案後、口にする。

「あのさ、死ぬ気があってこの世界に拘るんだったら、転生術でもやってみる?」

 転生術、新たな仮初の体を作り、そこに魂を移すって術。

 並みの者なら可能だろうが残念ながら古代龍の私には、不可能な術だ。

「私にそれを施すには、膨大な魔力が必要なのだ」

「あちき、あるよ」

 少女の言葉に私は、言葉に詰まった。

「た、確かに、しかし魔力だけでは、無理だ。まず依り代を作る為にこの体の一部を切り落とす事が必要で」

 少女は、リュックからなんと育牙を取り出して、尻尾の先を切り落とす。

「これで十分だよね?」

「それを新たな依り代に変換するには、全精霊に協力を得られなければならない」

 これなら自分でも可能だなと考えている間に少女は、精霊達に話し掛けてあっという間に依り代たる雛龍に変換させてしまう。

「古代龍への魂干渉など、奇跡術でも使えなければ不可能だ」

 一番の問題を提示した時、少女の背中に翼を広げて見せた。

「どうします?」

 出来過ぎている。

 偶然なんて在り得ない。

 どうしてもあの本、あのお方がつくりし本に視線が行く。

 これは、あのお方がくれたチャンスなのだろう。

「力の大半を残し、思いと記憶の部分だけを移して貰えるか?」

「任せておいて」

 少女が頷き、転生術が行われるのであった。



○あちき



「山登りは、嫌」

 ガイドブックの行き方を見たトラッセさんの一言で、一人で登る事が決まった。

 麓であちきが見上げる。

「この世界で一番高い山、ドラゴンハートマウンテン。その頂上からの日の出か……」

 実は、頂上に登った記憶は、魔王印には、ある。

 だいたい、空を飛べば、それより高い位置からの日の出だって見れる。

 でもそういう事じゃないと思った。

 入り口で確認すると世話焼きで有名なシーストップさんが注文を出してきた。

 元から魔法を使うつもりは、無かったので問題なしだ。

 ゆっくりと登山開始、初日は、ゆっくり行った。

 大変なのは、二日目から、断崖を登らないと行けないからだ。

 岩の僅かな出っ張りに指を掛けて登っていく。

 こういう時は、軽い体が有利だと思ったけど、残念、その分踏ん張りが利かなかった。

 風に吹かれた時に落下してしまった。

 慌てて腕を突き出して落下を停止させたが、折角登った距離の殆どが無くなった。

「やっぱり楽しようとしたら駄目だね」

 あちきは、指を岩肌に突き刺して登っていく。

 登頂して、振り返ると日の出の時が迫っていた。

 軽く汗を拭う。

 汗なんてかくなんて久しぶりだった。

 それだけの事をして登った距離がこの高さなんだと実感できる。

 そして見えてくる日の光。

 少し下を見ると広がる大地、そこに光が広がっていくのが解る。

 しみじみと思う、そこにあちきがまだ会ってない人や物や現象があるんだと。

 仮初の世界、そんなの関係ない、そこには、大地があって生き物がある。

 そこに心が生まれて、感動が起こる。

 あちきが世界を旅し、観光する意味があるんだ。

 そう確信したら眠たくなったので毛布に包まり眠りに着いた。

 起きると、シーストップさんの顔つきが変わっていた。

 シーストップさん、この世界の始まりから在る竜。

 我欲の魔王は、一時は、挑もうとしていた事があるが、強大な力の後ろに隠された薄弱な思いに気付き止めた存在。

 寝る前までは、更に空けて居たシーストップさんから、その薄弱さが感じられなくなっていた。

 そこには、何かを覚悟した顔だった。

 少し話した後、ガイドブックをみた時のシーストップさんの爆笑は、凄かった。

 何かを悟ったって感じなのは、解ってたけど、少し強がって反応を見ると死ぬつもりなのが解った。

 理由は、なんとなく解る。

 大きな力を持つ者の多くは、異世界に行った。

 多分、シーストップさんも前々から言われていたのだろう。

 元々シーストップさんの力は、神から与えられた物だと謂われている。

 それならば、我欲の魔王みたいに我を通す訳にもいかない。

 最後までこの世界に残る為に死に、力を返すつもりなんだろう。

 拘り、それが解るからあちきは、転生術を提案した。

 そしてシーストップさんがガイドブックを凝視した。

 多分、神の見えざる手でも感じてるんだろう。

 でもそんなのは、関係ないと思う。

 様は、シーストップさんの気持ち一つ、了承を受けてあちきは、雛龍に転生させた。

 その後、眠りつくように動かなくなったシーストップさんを残してあちきは、下山を開始した。



「それでその子を飼いたいって言うの」

 トラッセさんがあちきの頭の上に乗った雛龍のシーストップさんを指差す。

『僕は、夜も泣かないし、トイレの躾も不要。子供の情調教育には、ぴったりだと思うよ』

 シーストップさんのテレパシーにトラッセさんが呆れた顔をする。

「そんな事を自分で言う拾われた動物って居ないわよ」

「駄目?」

 あちきが上目遣いで見るとトラッセさんは、諦めた顔をして了承してくれるのであった。

最強のペットと無敵のヒロインのコンビ結成です。

実は、雛龍の時点でそこ等の魔王より強く、この世界では、チート扱いの竜族には、絶対の発言力があったりするもう一つのチートキャラです。

こっちは、滅多に戦闘せず傍観モードアンド解説役です。

それは、そうとやっぱりPV数は、全然です。

摂りあえずもう二三話上げた後は、更新は、もう一本の連載中心になると思います。

次回は、11歳、悲しい別れ

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