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008 海兵、ドトットの海戦

黄金鯛の船盛りを食べれるか?

「この光景を見るのも最後かもしれないな」

 俺、港町マタイの海兵の一人であるドトットは、そう思いながら海岸を歩いていた。

 漁業が盛んであったがそれだけのこの港町が敵から襲われる事も少なく、海兵と言っても荒くれ船乗りの相手が主だった。

 しかし、状況が変わった。

 良好な関係を維持していた隣国との戦争が勃発したのだ。

 その隣国と我が国の首都を結ぶ最も近い港、それがマタイだったのだ。

 隣国との開戦と共にこの港は、戦場になるだろう。

 この平穏で人の優しさに満ちていたマタイが失われる。

 それだけは、絶対させない。

 その決意を籠めて最後かもしれない見回りをしていると食堂の前に一人の少女が居た。

 まだ九歳くらいの少女だが、店の人間に何か言われた挙句、突き飛ばされていた。

「おい、こんな子供に何をしているんだ!」

 俺が慌てて駆け寄って少女を庇うように立つと店の人間が嫌悪感剥きだして告げる。

「兵隊さんよ、そんな半魔の子供を庇うのかよ!」

 振り返り確認するとその少女の額には、確かに人では、ありえない眼が存在した。

「本当なのか?」

 少女は、あっさり頷く。

「はい。半魔です。ただ、悪いことは、してませんし、危害を加えるつもりもありません。ただここの名物黄金鯛の船盛りが食べたくて来ました」

「冗談じゃない! こんな時期にそんな物を作ってられっか、それも半魔相手によ!」

 そう言い捨てて店に戻っていく店員に少女は、少しだけ困った顔をする。

「ここでも断られてしまいました。トラッセさんからお金も貰って買いに来たんだから頑張らないと」

 この少女は、めげていないのか。

「すまないが、今は、何処も無理だ。そしてもしかしたら永遠に……」

 戦争が起きればそんな物を作っている余裕など無く、下手をしたらマタイ自体がなくなるかもしれない。

「何かトラブルですか?」

 聞き返してくる少女に俺は、答える。

「ああ、もう直ぐ隣国との戦争が始まる。ここは、その戦場になる筈だ。今すぐに町を出るんだ」

 少女は、腕組をして考えます。

「取敢えず、戦争が終わるのを待ちます」

「早く終わると良いな」

 そう答える俺自身、そんな簡単な話じゃ無い事を知っているがそう思いたかった。

 少女と別れて、港に海兵が集められ、戦艦に乗り、隣国との戦いが始まった。



 我が国も首都防衛の為にも陸に上げる前に叩く作戦であった。

 しかしながら、敵船の数が多く、とても我が国の戦艦だけでは、押さえきれそうも無かった。

 そして遂にお互いの船が接触するかもという時、それは、居た。

 海の上に少女が立っていたのだ。

 その少女は、双方に語りかけた。

「戦争は、駄目ですよ」

 少女にそんな事を言われたからと言って止まる訳が無かった筈だった。

 だが、両軍の戦艦の動きが止まっていた。

 まるで錨を下ろしたかの様に止まってしまったのだ。

「な、何が起こっているんだ!」

 俺も駈けずり周り原因を調べるが、何も解らなかった。

 そして視線が集まったのは、先ほどから海面に立つ少女であった。

「戦争は、駄目ですよ」

 再びそういった少女の言葉に、この不可解な現象は、この少女が起こしたものだと思う者が現れた。

 その要因になるのが、少女の額に輝く真っ赤な眼だった。

「魔族なのか?」

 人より優れた力を持つ魔族ならこの様な事も可能なのかもしれない。

 そう考えた兵士が弓で矢を射る。

 数本の矢の一本が少女に当たりそうになったが、少女が手にした短剣で叩き落されてしまう。

「まだだ! 休まず撃て!」

 号令と共に次々と放たれた何十本もの矢が放たれた。

 今度は、十数本の矢が少女に当たるコースだった。

 しかし、少女は、その全てを叩き落す。

「休ませるな!」

 その指示の元、弓兵が交代しながら次々と矢が放たれ続けた。

 そのどれもが少女に当たらないか短剣で叩き落されるかのどちらかの運命を辿る。

 そんな事が暫く続いた後、その声が上がる。

「矢がありません!」

 矢筒の矢が無くなったと報告する弓兵が出始めたのだ。

「なんだと!」

 海兵達を指揮する将校達が困惑する中、我が軍からの矢が止まり、それから少ししても同じ様に敵軍からの矢も止まる。

 その頃には、海面には、無数の矢が落ちていた。

 完全に矢が止んだ後、少女が何かの詠唱を始めた。

 それが終わった時、海面が動き、両軍の戦艦を飲み込まんとばかりに盛り上がった。

 俺は、死を覚悟して眼を閉じた。

 しかし、次に訪れたのは、ゆっくりと甲板に降ろされる矢の音であった。

 矢を戻し終えると海面は、戻る。

 呆然としか言いようが無かった。

 何をされたのかが誰にも理解できないで居た。

 同僚の一人が呟く。

「これって矢を返されたって事じゃないか?」

 意外過ぎるその言葉に次々と声が上がっていく。

「え!」

「そ、そんな訳ないだろう!」

「しかしよ、そうとしかありえないだろう」

「馬鹿を言うな、それじゃああのガキが自分に撃つ為の矢を返したって事になるぞ!」

 短い沈黙が訪れ、それを打ち砕くべく号令が飛ぶ。

「とにかく撃て!」

 再び始まった矢の雨あられ、結果は、全く変わらない。

 次第に矢は、止んでいく、前回みたいに矢が尽きた訳じゃない、まるで無駄だと解ったからだ。

 矢が止むと再度の詠唱。

 また盛り上がる海面、今度は、凝視した、海面が手の様に変化して、矢を優しく甲板に降ろして居た。

 驚くべきは、矢の殆どが濡れていないのだ。

 海面にあった筈なのになにがどうなっているのかまるで解らない。

 流石に再度の攻撃指示が来ない。

 そして少女が三度の声を上げた。

「戦争は、駄目」

 それまでの二回とは、意味がまるで違った。

 戦争を続行すればこの無茶苦茶な少女を敵に回す事になる事だと認識させられたからだ。

 誰もが思っただろう、間違っても敵に回したら駄目な存在だと。

 それでも将校達は、意地があるのだろう、睨み合いを続けていたが、日が沈み、夜の帳が落ちると少女の周囲を飛び回る膨大な数の精霊の光、それが万が一にも攻撃に転じたらと考えられた時、この海域での戦闘は、不可能という結論が無言の内に両軍でなされたのであった。

 戻っていく敵艦、マタイの港に戻る我が軍の戦艦。

 港に戻り、まるで狐に騙された様な思いに包まれる中、俺は、酒場に行くのであった。

 行きなれた小さな酒場、小さいが名物の黄金鯛の船盛りなら一番って頑固亭主の店だ。

「大将、今日のお勧め頼む」

 そういってカウンター席に着いた。

「あいよ、約束通り、黄金鯛の船盛りだ」

 大将がそう言って俺の隣の席に黄金色に輝く黄金鯛をメインに幾つかの名産の刺身が盛られた船盛りを置いた。

「本当に美味しそう! これ残ったらおみあげにしても良いですよね?」

 嬉しそうな少女の声に大将がぶっきらぼうに告げる。

「鮮度が命だ、早く食べるようにしろ」

「うーん、絶品、流石名物になるだけは、あるよ! きっとトラッセさんも喜ぶ、あーあートラッセさんも仕事が入ってなかったらこの見事な船盛りを見せて上げられたのにな」

 そう嬉しそうに食べる少女の顔を見れなかった。

 見てしまったら後に戻れそうに無かったからだ。

「大将、一番強い酒を頼む」

 俺は、出された酒を呷り、そうそうに酩酊状態になる。

 なぜならば、二国の海軍から矢を射られ続けて平然な顔をしていた少女が隣で普通に刺身に舌鼓を打っているなんて非常識な現実を受け入れる事等できる訳が無いのだから。



○あちき


「近くに美味しいものあったら買ってきて」

 そこに行く切欠になったのは、何気ないトラッセさんの一言だった。

 トラッセさん自身は、冒険者の仕事で、山賊から町を護っていたのだが、この町の料理は、美味しくないのだ。

 山里にあるだけに新鮮な海産物もなく、かといって酪農もやっていない近くの鉱山でもっていた。

 その儲けを狙った山賊なのだが、意外と用心深く、中々尻尾を出さない。

 あちきがその気になって探せばアジトも見つかるのだろうが、トラッセさんは、自分の仕事にあちきの力を使わせる事は、しないので待ちの状態なのだ。

「今調べてみるね」

 そういってガイドブックを捲る。

「こういう時には、本当に便利だな」

 しみじみと言うトラッセさんが言うとおり、観光スポットと言っても景色とか建物だけじゃなく、その土地の名産や名物料理まで載ってるのだ。

 本気でどんな力を使えば可能なのか完全なオーパーツである。

 ここら辺の名物料理で検索(そういう機能までついていて、ページがソートされてまとまるのだ)して美味しそうな料理が並ぶ中、トラッセさんが指差す。

「これが良い」

 それは、今居るリュウドウ大陸でリュウサテ海に面した港町マタイの名物料理、黄金鯛の船盛りだった。

「でも船盛りは、もって帰るまでに悪くなるよ」

 あちきの指摘にトラッセさんが平然と言う。

「そこ等へんは、コプンの魔法で新鮮な状態でもって来て」

 こういう時にあちきの力を頼るのは、良いらしい。

「解ったよそれじゃあいって来るね」

 あちきは、トラッセさんからお金を預かって旅立った。



 道中は、これといったイベントは、無かった。

 まあ、あえていうなら追手が来たり、問題の山賊の下っ端の襲撃があったりしたが、その結果は、語るまでもないだろう。

 マタイに入って黄金鯛の船盛りを求めてお店を回った。

 結果は、かなり散々だった。

 一つには、戦争直前でピリピリしてた事もあるのだが、あちきが半魔だとしるとあまり良い顔をされないのだ。

 全部の店を回ってしまった。

「ここで諦めたら駄目! よい最初から回りなおすぞ!」

 そう意気込みを新たにあちきは、最初にいったガイドブックでもお勧めのお店に入る。

 他の店よりも小さいが頑固親父が不器用なまでに味の追求をしているお店らしい。

 ただ、最初に来た時は、良い鯛が無いから今日は、やらないと言っていた。

 そこに活路を見出そうと思っている。

「また来たのか何度来ても、良い鯛がなければ作らないぞ」

「だったら、良い鯛を手に入るまで待ちます!」

 あちきの言葉にお店の大将は、少し考えてから言う。

「もう直ぐ隣国の襲撃があるが、もし夜までマタイに襲撃が無ければ用意してやる」

「本当ですか! ありがとうございます!」

 お礼をいうあちきに大将が憂鬱そうな顔を見せる。

「もしそうなったとしたら隣国の奴等が惨敗してるって事だがな」

「何でそんな顔をしているんですか?」

 あちきの問い掛けに大将は、口にする。

「国なんて正直、俺には、関係ない。俺にとって大切なのは、俺の料理を真剣に食べて上手いって言ってくれる客だ。隣国の奴等にもそういった奴が多かったんだよ」

 過去形になってしまっているのが悲しかった。

「戦争が起こらなければまた食べに来られますね。大将は、その方が良いですか?」

「ああ、できるんだったらそうなってくれればな嬉しいさ」

「解りましたあちきにお任せ下さい」

 そう大見得きってあちきは、海に向かった。

 今回の大切なのは、戦争を終わらせる事。

 ただ戦って両軍を打ち倒したのでは、駄目なのだ。

 あちきは、海の精霊さんにお願いして、海面を滑りながら目的の場所に向かう。



 戦争の火蓋が切られるだろう場所、その中央にあちきは、立っていた。

 この距離だとまだどちらからも気付かれないだろう。

 でもあちき忠告してから海の精霊さんに船の周りの水を止めて貰った。

 こうなれば最早船は、動かない。

 そうすると当然の様に矢が射掛けられるのだが、そんな物は、当たらない。

 ある程度距離がある上、コースが見えている矢を育牙で叩き落すなんて朝飯前である。

 それを続けていると矢が止まった。

 きっと矢が尽きたのだろう。

 これで終わりになるかもとも思ったが、矢も安くない事を思い出した。こんなに無駄遣いしたらきっと怒られてしまうだろう。

 それは、可哀想なのでまた海の精霊さんにお願いして矢を戻してもらった。

 その際、人に当たったら危険なのでちゃんと甲板に置いて貰う様にお願いした。

 再び矢が飛んでくるけど同じ様に矢を防ぐとさっきより早く止んだ。

 濡れていて使えなかった矢もあったからかもと思って今度は、乾かすのも忘れていない。

 そうこうしているうちに暗くなってしまった。

 こうなるとあちきが見えなくて大変だろうから月光の精霊さん達にお願いして明るくして貰った。

 すると両方とも引き返していった。

「やっぱりみんな戦争なんてしたくなかったからあっさり引き返したんですね」

 あちきは、そう納得して大将のお店に急ぐ。



「本当に襲撃が無かったみたいだな」

 大将は、驚きながら立派な黄金鯛を見せてくれる。

「それってどうしたんですか?」

「逃げていくって奴の店から買い取ったんだ。俺は、何があってもこの店を開け続けるつもりだったからな」

 大将の粋にな言葉にあちきは、嬉しくなる。

「それじゃあ早速お願いします」

「任せておけ、最高の黄金鯛の船盛りを用意してやるよ」

 そして出てきた黄金鯛の船盛りは、本当に美味しかった。

 少し食べてガイドブックにチェックマークが出たのを確認してから時空魔法で時間停止した亜空間にしまってからトラッセさんの所に帰りました。

 大将の黄金鯛の船盛りは、トラッセさんも大絶賛していましたのでとても良いフラグゲットだと思いました。

この前半シリアスなゲストキャラのとんでも無い状況を、コプンのチートで解決。

コプン側からの何処までもお気楽な展開がこの物語の基本形です。

しかし、もう少しチートの山盛り作業が入ります。

次回は、10歳、竜との遭遇です

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