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007 魔族、ディスゥの歓喜

遂にメインタイトルのアイテム登場

 我欲の魔王様の死を私が知ったのは、かなり経ってからであった。

 それには、理由がある。

 我欲の魔王様から最優先と命令されていた例のアイテムの確保であった。

 それは、苦難の連続であったが、全ては、我欲の魔王様の為、私は、それを成し遂げた。

 そして戻った時に見たのは、朽ち果てた我欲の魔王様の死体。

 その顔には、無念そうな顔がはっきりと出ていた。

 死体を改めて確信した、これは、正面から倒されたのでは、ない。

 卑怯な手を使って我欲の魔王様を討ったのだと。

 悔しさがこみ上げて来る。

 何故その場に私が居なかったのかと。

 命令を受けていたなど理由にならない。

 どんな状況であれ、我欲の魔王様の露払いをするのが我々配下の仕事。

 不意打ちをする様な弱小な奴など、我欲の魔王様が直接相手する価値すらないのだから。

 私は、その場に残り、我欲の魔王様の残した遺産、その欠片を奪い合っていた者達を皆殺しにしてから、旅立った。

 最初に思いついたのは、我欲の魔王を倒したという勇者を殺す事。

 しかし、それは、直ぐに思い留めた。

 それは、我欲の魔王様本人が成される事であるからだ。

 確かに我欲の魔王様は、討たれた。

 しかし、魔王印によってその記憶と支配は、継承される。

 私の新たな主こそ、それをする資格があるのだと。

 そう思い、新たな我欲の魔王の名乗りを待った。

 だが、それは、数年経っても起こらなかった。

 これは、奇異な事であったが、可能性が無いわけでは、ない。

 魔王印を継承してもその時点で力も全て継承する訳では、ない。

 十分な力を得てから名乗りを行う可能性もあった。

 そうなれば私は、それまでの間に何をすべきなのかを悩んだ。

 私が戻ってくるまでに四散した遺産の回収とも思ったが、我欲の魔王様は、何かに執着するという事も無かった。

 無ければなくても良いとさえ考えていた節がある。

 直接的な仇を討つのも出来ず、何も出来ないと考えていた時、一つの情報が入ってきた。

 我欲の魔王様を滅ぼした勇者の一行に居た精霊魔法使いを見たという元魔族が出たのだ。

 直接的な仇では、無いが、勇者の一行の一人ならば殺すのにも、勇者にプレッシャーを与えるにもいいだろうと考え捜索を開始した。

 そしてその努力が実った。

 一つの森で野宿しているその者、精霊魔法使いのトラッセの前に私が舞い降りた。

「お前が我欲の魔王様を不意打ちした勇者の仲間だな!」

 それを聞いてその女、トラッセは、複雑そんな顔をする。

「不意打ちね、まあ、そう言われても仕方ないやり方だったらしいね。そうだよ、勇者の仲間だった精霊魔法使いのトラッセって言えばあたいだよ」

 立ち上がり、闘志を纏うその女だったが、その傍に居た少女が駆け寄る。

「トラッセさん、その魔族は、とっても強いよ、だから……」

 言葉の途中で女は、首を振る。

「これは、あたいの戦いだよ。他人の戦いに首を突っ込んじゃ駄目だよ」

 不満そうな顔をする少女を女が促すと離れていく。

「待ってくれてありがとよ。それじゃあ、やろうか!」

 その言葉と共に多くの精霊が襲ってくるが、私は、魔法で生み出した闇で弾き飛ばす。

「その程度の魔法が通じると思うな!」

「解ってるさ!」

 その女の声は、直ぐ傍で聞こえた。

 私は、咄嗟に大きく飛びのくと私がいた所に炎の刃が通り過ぎた。

 それは、私を倒すのに、十分な威力があった。

「流石は、我欲の魔王様を討った勇者の仲間だけは、あるな」

 私がそう言った時、離れていた少女が怒鳴る。

「さっきからトラッセさんをあんな自称勇者の仲間、仲間って言って! トラッセさんをあんな下種と一緒にしないで!」

 その少女は、本気で怒っていた。

 そして気付く、そのまだ八歳くらいだろう少女の額には、我欲の魔王様と同じ帝紅眼がある事に。

「コプン、さっきも言ったけど人の戦いに口を挟まない!」

 女が強い口調で注意するが少女が不服そうに頬を膨らませる。

「でも、あんなのとトラッセさんを一緒にされたくないもん!」

 涙目になる少女に女は、頭をかく。

「あのな、世間一般や魔族の中では、あたいの立場は、あの勇者の仲間って事になってるんだ、諦めろ」

「それでも嫌な物は、嫌なの」

 我侭を口にする少女に私が問う。

「その女と勇者とどう違うと言うのだ!」

「全然違う! 我欲の魔王を最後に討った時に私怨をもったあの下種と自分の不利益を知りながらあちきを育ててくれるトラッセさんは、全然違うの!」

 少女の主張に気になる言葉があった。

「私怨、お前は、何を知っているんだ?」

「コプン、何度も言わせないこれは、あたいの戦いだ。邪魔をするな」

 女の言葉を私が否定する。

「お前を殺す事など我欲の魔王様の最後を知る事に比べればどうでもいい事だ。さあ話せ!」

 私の追及に少女が何かを話そうとすると女がきつい視線になる。

「それをいう事で貴女の運命は、大きく変わる。それを覚悟して言うんだよ」

 少女は、頷き左手の手袋を外して、そこにあった物を見せ付けて来た。

「そ、それは……」

 それは、私がずっと探し続けていた物だった。

「あちきは、我欲の魔王の魔王印を継承しているだから、死んだ時の記憶もあるよ」

 完全に想定外の状況であった、まさか我欲の魔王様の魔王印がこんな少女に継承されている事もその少女を仇である勇者の仲間が育てている事も。

 そして語られた我欲の魔王様の討伐の経緯とその後経緯に私がようやく腑に落ちた。

「なんとも皮肉な話だ。我欲の魔王様は、その誇り高さ故に死を選ばれたのか」

 どんな状況だろうと負ける訳が無いと思っていた我欲の魔王様を滅ぼしたのが、相手の下種さだったのだ。

「確かに我欲の魔王様ならそんなちんけな勇者と命懸けの戦いなど死んでも成されないだろうな」

 それだけにその場に自分が居なかった事が悔やまれる。

 我欲の魔王様にとっては、歯牙にかけるのも恥ずかしい相手、それを排除するのが私の仕事だったのだから。

「最初にいっておくけど、あちきは、魔王になるつもりは、無いよ」

 その少女、我欲の魔王様の魔王印の継承者の言葉に私が答える。

「魔王になるつもりがないと言われましても、その魔王印がある時点で貴女様は、魔王でございます」

「そんなのあちきに関係ないよ」

 そう断言するその姿を見ているだけで喜びがこみ上げて来る。

「されど、私は、貴女の配下でございます。なんなりとご命令を」

 頭を垂れる私に継承者が告げる。

「何度も言わせないで欲しいな。あちきは、魔王になるつもりは、ない。だから貴方の主になるつもりは、無いよ」

「私が貴女様のお役に立てないというのですか?」

 私にとって、それが一番の問題だった。

 少し考えてから継承者が口にする。

「そういえば、あれは、見つかったの?」

 あれが何を意味するかは、直ぐに解った。

「我欲の魔王様からの命、私が達成しないわけがございません」

 私は、あれを差し出す。

 それを受け取り継承者が嬉しそうな顔をする。

「やっぱり実在していたんだ」

「それは、なに?」

 女が問いかけると継承者は、満面の笑みで応える。

「完全観光案内、一応遺物って事になってるけど、あちきというか我欲の魔王は、違うと踏んでいたよ」

「これが遺物に近い物、物凄い力を秘めているの?」

 緊張する女に対して継承者は、苦笑する。

「確かに籠められた力は、とんでもないし、それを成す為の術は、正に神業だよ。でもね、その力は、この世界の観光スポットをリアルタイムで表示する事なんだよ」

 長い沈黙の後、女が口にする。

「なにそれ? なんの意味があるの?」

 私が幾度と無く疑問に思った事だった。

「さあ、でもこれが実在するのを知った時、我欲の魔王は、これを望んだ。少なくともこれには、自分の知らない知識があると考えて」

 継承者のいうとおり我欲の魔王様は、新たな知識に飢えて居た。

 それを手にとって捲る中、継承者は、語る。

「トラッセさん、あちき、これをコンプリートしたい。ルールを護り、時間を掛けて、真っ当な手段で!」

「そんな貴女様なら、簡単に成せる事です! 配下の魔族も使えば、そこに乗っている名物を一つ残らず回収する事だって可能です!」

 私の進言に継承者は、笑った。

「どうしてそんな詰まらない事をしないと駄目なの? あちきには、時間が幾らでもあるし、最高の状態のそれを誰でも出来る状態で手にしてこそ、得る価値があるだよ」

 絶対上位者の自覚が言わせる言葉。

 やり方が正反対だろうとこのお方は、間違いなく同じ存在だと確信した。

 そして、私がやる事も思いついた。

「それでしたら、私は、貴女様の邪魔をしましょう」

「それって妨害工作で諦めさせて、魔王にしようという思惑」

 女の矮小な考えを私は、鼻で笑う。

「愚かな、このお方が私等の妨害で諦める訳がありません。いうならば達成をより楽しむ為のトッピングの様な物ですよ。それでは、そういう事で失礼します」

 私は、再び頭を垂れてからその場を離れた。

 そして一人呟く。

「この御戯れも終わった頃には、魔王と成られる事だろう。その為にも色々と確認しておかなければいけなからな」

 一番確認しなければいけない事、それは、逆鱗の位置。

 それを知らずに馬鹿な魔族が我欲の魔王の逆鱗に触れた時は、酷かった。

 あの時は、当時その場に居た配下の半数以上が滅んだ程だ。

「忙しくなりそうだ」

 そう言いながら歓喜する自分が居た。



○あちき


 強い魔族が近づいてきているのが解った。

 それが降り立ったとき直ぐにディスゥさんだと判別出来た。

 その視線と殺意からトラッセさんの殺そうとしている事も。

 だからトラッセさんを援護する為に傍に行こうとするが、止められてしまう。

 トラッセさんは、誇り高い人だ。

 例え敵が自分より強く、あちきがその敵を圧勝できると知っていても、その敵が自分の行いから敵対して来たのなら、それを相手するのは、自分ひとりだと決めています。

 傍目から見て、勝ち目は、五分五分。

 トラッセさんは、確かに人類では、屈指の精霊魔法使いで戦いなれをしているが、ディスゥさんは、魔族の中でもよりぬきの存在。

 魔力が高く、頭が切れ、経験地も高い、間違いなく我欲の魔王の懐刀だった。

 だからこそ遺物と言われるが、その実、神が創った神器でないかと思われた、完全観光案内の捜索を任せていたのだ。

 完全観光案内、それは、見聞録的文献に時々あがる名前で、我欲の魔王が調べた資料の中には、嘘か誠か、卵料理好きの神が卵料理を効率良く手に入れる為に作ったという資料まである。

 その効果は、リアルタイムでの観光スポット表示。

 一見馬鹿らしい効果だが、とんでもない技術の集大成だ。

 少なくとも、全世界をサーチ、記録する能力がある、それだけでも凄い物だと解る。

 我欲の魔王自身、色々と手を回して探りようやく信憑性が高い情報を元に捜索させていた所だった。

 そんな中、あの自称勇者の襲撃があった。

 我欲の魔王の唯一の心残り、それも気になるが、今は、目の前の戦いだ。

 トラッセさんが一方的に攻撃しているようだが、その実、魔力を全開で消費している為、そう続けられない。

 それが止まったら、ディスゥさんが攻撃してくる筈であり、それを防ぐ有効な手段が無い筈だ。

 トラッセさんの一撃を避けた後、ディスゥさんがトラッセさんを自称勇者の仲間呼ばわりする。

 それが無性に腹が立ったのでクレームを上げた。

 そして説明しようとした時、トラッセさんが釘をさしてくる。

 解っている、ディスゥさんに我欲の魔王の魔王印を継承した事を伝えるのは、いい判断じゃない。

 それでも、トラッセさんと自称勇者を一緒にして欲しくなかった。

 説明すると、何処か納得した顔をする。

 そして当然の様にあちきを魔王扱いした。

 魔王になる気が無い事を告げると困惑した顔をするディスゥさんに完全観光案内の事を尋ねると現物を差し出してきた。

 あちきは、受け取って中を開いて驚く。

 そこには、本当に観光情報が書かれていた。

 それもお勧め名産品やその値段までだ。

 どう考えても普通じゃない。

 これは、遺物なんて物越えているのは、間違いない。

 同時に思ったのは、これだけの力をここまで無駄遣い出来るそれが神なのだと。

 あちきは、我欲の魔王の記憶を辿る。

 魔族から讃えられ、人族からは、災厄と恐れられたその生き方は、常に王道であり、無駄な物など一切ないものだった。

 それが強者なのだと我欲の魔王は、考えたが、これを見てあちきは、確信した。

 本当に強者は、無駄の事を無駄に出来る物だと。

 だからこそあちきは、自分の夢を語った。

 それを聞いたディスゥさんが何を思ったのか勝手に納得して去っていった。

「あれは、何を考えているのかしら?」

 強敵と思い心配するトラッセさんにあちきが微笑む。

「大丈夫、ディスゥさんが言った通り、あちきの妨害をするだけだから、それできっと逆鱗を知りたいんだと思う」

「逆鱗ね、あたいも知りたいわ」

 トラッセさんは、気付いていない、今一番のあちきの逆鱗がトラッセさんだって事に。

 とにかく、あちきに目的が出来た。

 何の意味も無いけど、この完全観光案内、ガイドブックを全部回る事。

 何十年も掛かるだろうけど、それでも良いと思った。

 だってそれが今のあちきが一番したくて、一番無駄で贅沢な事なのだから。

完全観光案内、これからは、ただガイドブックって表記します。

これが出るまでが意外と長かったな。

とにかく、次回からは、このガイドブックの観光スポット中心に話が進んでいきます。

ディスゥは、今後、観光スポット廻りの邪魔役として暗躍する為、時々出てきます。

次回は、9歳、黄金鯛の船盛り

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