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006 精霊魔法使い、トラッセの確信

チートその四、奇跡術

「酷いわね」

 それ以外に言い様が無かった。

 町全体に戦いの痕跡があり、多くの負傷者が居る。

 それでも死人が少なかったのは、実は、あたい達が間に合ったからだ。

 相手は、魔族であった。

 これといった目的を持っての襲撃には、思えない。

「たぶん、イラついてたから弱いもの虐めしたかったんだと思う」

 コプンは、自分の足元で絶命している魔族を見る。

 町民達は、こちらを見ているが近寄ってこない。

 理由は、簡単だった。

「何で人の味方をする! お前も魔族だろうが!」

 なんとか一命を取り留めていた魔族の男の追及にコプンは、普通に返す。

「あちきは、半魔だからどっちの種族の味方って訳じゃないよ。でもね、さっきもいったけど気晴らしで他人を傷つける事は、良くない事だからあちきは、止めたんだよ」

 因みに魔族に止めを刺したのは、あたいで、コプンは、魔族相手に手加減するなんて真似をしていたのでまだ生き残りは、多い。

「弱いものが踏みにじられる、それが自然の掟だ!」

 魔族の主張にあたいが淡々と尋ねる。

「詰まり、ここで死にたいって事?」

「その娘の力があるからっていい気になるなよ!」

 魔族の敵意、負け犬の遠吠えに一々応えるのも面倒になってきた。

「もう良いから、とっとと逃げな。但し、またこの町を襲おうと思ったら死ぬことになるからね」

 コプンに視線を送ると、コプンを額の眼に力を籠めて行き残った魔族に呪いを掛けた。

「他人に迷惑をかけない人生を送ってね」

「貴様、今何をした!」

 魔族が恐れと共に口するとコプンは、左手の魔王印を見せる。

「魔王印の力も使った呪いだよ。さっき言ったとおり、他人に迷惑をかけようとしたらダメージが出るからそのつもりで」

「冗談は、止めろ、半魔が魔王印を持ってるわけが無い!」

 そういってその魔族が攻撃しようとすると、全身を震わせて倒れた。

「こうなるのか、死んでないってコプンって本当に優しいね」

「そうかな?」

 コプンが首を傾げる中、魔族が逃走して魔王印を見せた事でいよいよ町民の憎悪が高まる。

「魔族が居なくなったから、治療手伝う!」

 そう宣言するコプンに目の前に居た町民が拒絶する。

「だれが魔族の仲間の治療なんて受けるか!」

 それを聞いてコプンが眉を寄せてあたいを見上げる。

「駄目だよ。どんなに良い事で押し付けたらそれは、相手の意思を無視した事になるわ。尊厳、それは、命より重い時がある。それを判断するのは、その人たちだけなんだから」

「そうかもしれないけど……」

 コプンが言葉を濁すのも解る。

 この状態でほっておくのは、どうも寝覚めが悪い。

「えーと、何度か言っているけどこの子は、魔族じゃないし、傷の治療もあたいより上手い。この子が治療すれば死ななくて済む人も居ると思うけど?」

 その言葉にも尚も敵意を向けてくる人は、居る。

 しかし、一人の女性が駆け寄ってくる。

「どうか、娘を助けてください!」

 その腕の中には、半死半生の少女が居た。

 治療を行わなければ間違いなく死ぬだろう。

「待て、お前は、町をこんな風にした魔族に助けを求めるのか!」

 周りの男達がそう叫んだ時、女性は、母親は、その数倍真剣に声を荒げる。

「黙っててよ! 偉そうに言っていたけど、結局魔族を追い返したのは、この人たちじゃない! あたしは、この子を救ってくれるんだったら、相手が何であろうが構わないわ!」

 その一言にあたいが頷くとコプンが少女の様子を見て確認してくる。

「ここまで酷いと精霊魔法の回復だと間に合わないよ」

「そ、そんな……」

 女性が悲しそうな顔をするがあたいは、コプンが何を言いたいのか理解する。

「この際、後のことは、気にせずやっていいわよ」

 その言葉にコプンが強く頷き、眼を閉じると、その背中に翼が生えた。

 周囲の人間が驚愕する中、コプンの術を行使する。

『大いなる加護の元、ここに強気癒しを与えたまえ』

 羽根が舞い、少女に降り注ぎ、傷を完治させていく。

「へー、奇跡術まで使えたんだ」

「うん、流石にこれは、色々と目立つからあちき達には、不味いんだけどね」

 コプンが心配しているのは、無論追手の事だろう。

 奇跡術を使えるとなると、追手の追及が更に激しくなる可能性も高い上、下手をすると出生がばれる可能性があるからだ。

「まあ、今回は、仕方ないわね。ところで他に治療して欲しい人居る?」

 あたいの問い掛けに奇跡を見せ付けられた人々が戸惑いながらも手をあげ声を上げる。

「どうか、御慈悲を!」

 コプンは、天を仰ぐように両手を広げ、背中の翼を大きく羽ばたかせる。

『不運に巻き込まれ、悪意の元に傷ついた者達に神の慈悲をお与え下さい』

 町中に羽根が広がり、その羽根が触れた怪我人達がどんどん治癒していくのであった。

 治療を終えて、あたいたちが町を去ろうすると町民が集まる。

「申し訳ございませんでした! 天の御使いで在られる貴女様にあのような言動、許されざる事では、ありません。どうか御裁きください」

 文句を言ってきた男にコプンが笑顔で応える。

「良いんですよ。だって貴方達を襲った魔族と同じ血が流れているのも本当です。貴方達の敵意は、当然だったんですから。それよりも、これからが大変だと思いますが、頑張ってくださいね」

 その言葉を聞いて感涙する男を尻目にあたい達は、今度こそ町を離れた。



 数日後、天使が舞い降りた町の噂を聞く。

「聞いたか、天使が舞い降りた町があるそうだぞ」

「なんだそれ?」

「何でも魔族に襲われて絶対絶命の時に天使が現れて、魔族を撃退しただけでなく、町民全員に癒しを与えたそうだ」

「絶対に嘘だろ?」

「しかしな、魔族に襲われたって言うのは、本当らしいぞ」

「それにしても天使なんて誇張もいい所だな」

 そんな会話を横で聞きコプンが頷く。

「そうだね、天使なんて居なかったよね」

 そう口にするコプンは、天使の様に可愛いけどね。

 ただ、これで確信した、コプンには、あたいと同じ冒険者をやらせられない。

 攻防に完璧すぎて、どうやっても有名になる道しか見えない。

 何か他の生活の術を探さないといけないと考えるあたいであった。



○あちき


 奇跡術、それは、天族のみが使える術。

 奇跡的な回復魔法や浄化魔法だけど、条件に天の御使いの血筋って事がある。

 あちきがこれを使えるのに気付いたのは、小さい頃だった。

 ただ、これを使える事は、トラッセさんにも言っていなかった。

 それは、天族の絶対数が少ないからだ。

 それは、詰まりあちきの出生を知る手掛かりになりかねないから極力秘密にしたかった。

 ただでさえあちきの所為で追手に負われ続けているんだ、これいじょう負担を増やしたくないので、あたいは、この力のことを秘密にしていた。

 でも、魔族に襲われた町に出くわしてしまった。

 その魔族達には、実は、見覚えがあったりするのだ。

 我欲の魔王の所属していた下っ端である。

 我欲の魔王が居ない今、気ままに動いている様でもあるが、同時にストレスを発散している様にも見えた。

 自由というのは、意外にストレスがあるみたいです。

 取敢えず殺さない程度に撃退してから呪いというか、魔王印の支配に因るをして開放した。

 問題は、そこからだった。

 町には、多くの怪我人が居た。

 治して上げたいのだが、町の人々がそれを許してくれなかった。

 気持ちは、理解できる。

 命が何よりも大切って言うのは、周りの人間の事情でしかない。

 本人にとっては、そんな条件なら生きていく訳には、いかないって事がある。

 実際に我欲の魔王は、生き残るチャンスをあの自称勇者と命懸けで戦うって屈辱を避ける為に失った。

 結局の所、死に方を選ぶのにも力が必要であり、ここであちきが無理に治療するって事は、死に方を選ぶ権利を力で蹂躙する事でしかない。

 トラッセさんに言われなくても理解してるけど、それでも目の前で人が死にいくのを見るのは、あまり気分良くない。

 そうしているとトラッセさんが声を掛けると一人の女性がやってくる。

 その人は、娘さんを守る為に必死だった。

 それをみたら絶対に治してあげたいと思った。

 でも、具合をみると、精霊魔法では、難しいのが解った。

 それを伝えるとトラッセさんは、あちきの意図に気付いてくれて許可をくれた。

 それで奇跡術を使いその娘さんを癒した。

 その後は、町の人を全員を治してあげる事を許して貰えた。

 治療も終わって町を出ようとしたらさっきあちきに怒鳴ってきた男の人が来て謝ってきた。

 そんな必要ないって伝えると何故か泣いていた。

 人の感情は、まだまだ不思議だ。



 その後、他の町であの町の噂を聞いて思ったのは、噂ってあまり真実を伝えないって事だ。

 あちきが半魔だって事は、全然伝わっていない。

 ただ、助けられたって事だけが噂されてた。

 正直、怖かった。

 良い噂ならまだ良いけど悪い噂も同じ様に流す人間の都合のいい様に伝わっていく。

 もしもあちきが冒険者になったら、色々噂になるだろう。

 それが本当に怖かった。

ここら辺でコプンが冒険者になるって線がなくなります。

何かとランクが低いが凄い冒険者とか多いですが、コプンは、冒険者をやらせません。

次回は、8歳、魔族登場と遂にメインのあのアイテムが出てきます

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