005 精霊魔法使い、トラッセの発見
チートその三、成長する武器です
「今日は、野宿だな」
深い森の中をあたいとコプンは、進んでいた。
「そだね、無理に町に行かないほうが色々楽だしね」
「近くに町があるのか?」
あたいが尋ねると近くに居る精霊に確認するコプン。
「うん、少し離れた所に防壁がある街があるって」
あたいも精霊魔法使いなので多少の意思疎通は、可能なのだが、そこまではっきりとしたやり取りは、無理だな。
「町じゃなくって街か、確かに野宿の方が楽かもな」
あたいは、町と街を区別している。
区別の基準は、さっきコプンも言った防壁。
これがあるのが街としている。
防壁があるとないとでは、治安や安全度等が全然違う。
当然、入る手間も大変になるのであたいとしては、特に用事がなければ野宿でも構わない。
少し前までは、小さいから少し無理してでも宿に泊まる様にしたが、五歳になったコプンは、野宿も普通になれている。
この頃は、夜の食材集めも得意である。
「今夜は、草食動物の肉が食べたいから頑張るように」
「了解しました隊長」
あたいの指示に敬礼したコプンは、精霊と会話しながら獲物を探しに行く。
善良さを心掛けているコプンだが、動物を狩る事自体には、それ程忌避感は、無い。
ただし、お金にする為に余分にとるのは、あまり好まないらしい。
冒険者の仕事としては、ありだが、そういうのは、狩人の仕事だと思うのであたいも本気でピンチの時にしかしないようにしている。
あたいは、野宿に適した場所探しと薪の準備を始める。
探すと木の根が良い様に這っていて、地面から少し浮いた状態になれる場所を見つけたのでそこを中心に薪を集めた。
暫くするとコプンが自分の体より大きな鹿を背負ってやって来た。
見掛けは、年相応なのだが、本人曰く、魔族の血の特性で肉体的には、人族を大幅に超えているらしい。
少し前の町の酒場で筋肉男と腕相撲して完勝していたな。
「このくらいだったら食べきれるよね?」
「勿論、なんだったらもう一頭居ても平気だぞ」
そう答えるあたいにコプンが呆れた顔をする。
「暴食は、大罪ですよ」
「はいはい、剥ぎ取りするから貸しな」
あたいは、コプンから鹿を受け取り、革を剥ぐなか、血抜きがされていて、その跡が明らかに刃物である事に気付いた。
「コプン、あんた刃物なんて持っていたの?」
コプンは、少し前に買ってあげたデフォルメライオンのリックから一本の短剣を取り出す。
「これを継承したの」
買ったでも貰ったでもなく、継承と言ったということは、ただの短剣じゃないのだろう。
「遺物なの?」
コプンが頷く。
「そう、育牙だよ」
「育牙ってユシャンが持っていた奴!」
思わず声を上げるあたい。
「そ、結局、我欲の魔王を倒したのが限界だったみたいで、あそこで別れたみたい」
「なにそれ?」
首を傾げるあたいにコプンが魔王印を見せながら説明してくる。
「我欲の魔王って自分が知らない事があるのが嫌だったんで遺物についても色々と調べてたの。何度と無く戦った育牙もね。それで解ったんだけど、育牙って所有者の成長が限界に達した所でその状態の自分と新たな主の為の成長開始前の状態の自分に分けるんだよ。これは、その成長開始前の育牙だよ」
「そんな話は、ユシャンやホーリスにも聞いた事無いわよ」
「知らなかったみたいだよ。あちきの知る限り、いまあの勇者気取りが持っている育牙って数代前から限界までいってないうちに継承されたみたいだから」
コプンは、何気にユシャンの事は、好きじゃないらしく名前を口にする事も無い。
まあ、正直、ホーリスの事が好き過ぎて、他は、どうでも良いって感じがあった奴だからあたいもそんなに仲は、良くなかったけどね。
「でも、それでなんで新しい育牙をコプンの手にあるの?」
コプンは、育牙をしまいながら答える。
「数年かかってこの状態になった後、その時に資格あるもの、グローリー王国の王家の血をひくものの中で限界値が一番高い使い手に継承されるんだよ」
「そういえば、貴女って事としだいじゃお姫様だったのよね」
半魔って事ですっかり忘れていた。
「別にお姫様には、憧れないから良いけど。半魔だけど不老長寿だろうあたいがこれを継承していると、グローリー王国は、不十分な育牙を継承していくことになるかもしれないよ」
「それは、少し不味いかもね」
なんだかんだ言って自分が生まれた国で、そこの精神的主柱である育牙が不完全というのは、あまり宜しくない。
「何かの切欠があったらこれを渡しておくよ」
気楽に言うコプンだけど、普通は、遺物を継承したら他人になんか渡さない。
力に対する拘りって言うのがないみたいだ。
まあ、そんな物に頼らなくても十分強いって言うのが前提にあるんだろうけど。
その夜は、コプンの狩った鹿を二人で食べきるのであった。
○あちき
夜の帳の降りる中、あちきは、眼を覚ます。
空間に揺れがあった。
暫く、その揺れに神経を集中していると、それが空間を裂いて現れる。
短剣サイズの育牙だった。
あちきの手の中に納まったそれをあちきは、不思議な感覚で見ていた。
魔王印の記憶の中で幾度と無くその刃に切られた事がある。
どの時もそれなりに成長しているグローリー王国の守り刀。
実際、剣の形も多いが、槍であったり斧であったりする事がある。
形は、不定なのだ。
今は、殆ど力が無いから短剣の形になっている。
「それにしてもあちきを選びますか……」
正直、困った。
グローリー王国にとっては、大切な遺物である。
グローリー王国がリュウズ大陸で有数の王国であるのには、育牙の働きが不可欠なのだから。
現在、あちきは、秘密裏に狙われているが、一応は、母方の一族が治めている国だし、なんだかんだいってトラッセさんも気にしている。
あちきとしては、あまり不利益になる事は、したくない。
かといってこれを今すぐに他の王族に渡すわけにも行かない。
そんな事をしにいったら、折角逃げていたのに大変なことになる。
「まあ、暫くは、良いか」
暫くは、このまま持ち主になっておく事に決めて、あちきは、トラッセさんに買って貰ったライオン型のリュックサックに入れる。
その後、チョコチョコと雑用に使いながら成長させるのであった。
トラッセさんに報告を忘れていたのは、まあ、必要性が低い所為だろうな。
森での野宿する事になったが、実は、これは、半分以上あちきの所為だったりする。
半魔であるあちきが街に入るには、色々と障害が多いのだ。
それでも何も言わずに野宿を選んでくれるトラッセさんって本当に優しいと思う。
そんなトラッセさんにいっぱい食べて貰う為に確り草食動物を狩らないと。
「鹿さん発見、追跡します」
忍び寄り、手早く育牙で喉を薙ぐ。
倒れて血が抜けて死んでいく鹿さんに手を合わせる。
「確りと食べさせて貰います」
そしてあちきは、鹿を背負ってトラッセさんの下に戻るのであった。
育牙ゲットしてました。
身体能力的には、大の大人を超えています。
次回は、7歳、奇跡術発動です