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003 精霊魔法使い、トラッセの旅立ち

ヒロインのチートの発動その一です

「昨日までは、英雄の一人だったのにね」

 苦笑しながらあたいは、自分の手の中で眠る赤子を見る。

 無邪気そうな顔、でもその額には、魔族の血を引く証があった。

「こんな物が無ければ貴女も普通に生きられたのにね」

 あたいは、追手の気配を探りながら塔から離れていく。

 状況は、あまり良くない。

 この赤子は、よくいる魔族に犯されて生まれた半魔とは、違う。

 犯した魔族は、我欲の魔王なのだ。

 最悪な事に、この赤子の手には、その魔王印がある。

 誰もが我欲の魔王の転生として殺そうとするだろう。

 まだ何も罪を犯していない赤子を殺す。

 それを彼女、この赤子の母親は、出来なかった。

 それでも、聖女であり、一国の王女である彼女が自ら育てる事も不可能だった。

 だからあたいがこの子を育てるのをかってでた。

 無論、もしもこの赤子が本当に魔王の転生で、人に害を成す存在だったら殺すつもりだ。

 それが、この赤子を救うって人族への裏切りとも思える行為に対する代償なのだから。



 我欲の魔王の転生かもしれない赤子、コプンを預かって半年が過ぎた。

 自分が生まれたグローリー王国があるリュウズ大陸からも脱出した。

 リュウシュ大陸まで逃げて、追手も少なくなり、あたいにも油断があった。

 手持ちの金額も乏しくなっていたので、宿にコプンを残して冒険者として簡単な仕事をし、宿に戻ると騒がしかった。

「何かあったの?」

 尋ねると宿の主人が困惑した面持ちで答える。

「それが、どうにもよく解らないんだ?」

 その視線の先には、追っ手と思われる男達が居たが、全員無言だった。

 確かに無言だったのだが、大きく口を開けてなにか叫んでいる様にも見えた。

 あたいは、不思議に思いながら部屋に戻ると精霊にお守りを頼んでいたコプンがこっちを見て喋りだした。

「ダメージを与えないで撃退した後、喋れない呪いをかけたんだけどどうしよう?」

 生後半年で人は、喋れるのであろうか?

 多分喋れない筈だと思う。

 大体、聞き捨てなれない事を口にしてなかったか。

「下のは、貴女がやったの?」

 あたいの問い掛けにコプンは、あっさり頷いた。

「そう、別段、こんな体でも魔力があるからあの程度の追手を蹴散らすなんて簡単だったよ」

 苦々しい思いであたいは、確認する。

「詰まり、貴女は、我欲の魔王なのね?」

 それに対してコプンは、首を横に振る。

「それ違う。我欲の魔王は、確かに滅んだよ。あちきは、ただ魔王印からその知識、記憶を継承しただけ」

 聞いた事がある。

 魔王印は、継承と共に過去の魔王の知識を受け継げると。

「詰まり、貴女は、魔王として知識があるのね」

 コプンが首を傾げる。

「魔王の知識は、受け継いだけど魔王のつもりは、ないけど、そうなるのかな?」

「魔王のつもりは、無いってどういうこと?」

 あたいが追求するとコプンがあっけらかんと告げる。

「だって魔王なんてやってても意味がなさそうなんだもん」

「はい?」

 流石に今の発言は、理解できないでいると続けてくる。

「魔王として出来そうな事は、大抵やった記憶があるから、魔王になる必要性がないの。逆に魔王って地位は、邪魔かな」

「邪魔って何に邪魔なの? もしかして勇者への復讐の?」

 復讐を企んでるとしたら、ここで止めないといけない。

「まさか、あんな小物をあいてに何かするなんて考えたことすらないよ」

「小物って人類最強で、我欲の魔王を倒した勇者よ!」

 あたいが思わず大声をだすが、コプンは、呆れた顔をする。

「我欲の魔王に止めを刺した時に自分の女を犯されたって嫉妬と怒りで自分の限界まで力を引き出す志が低いの勇者なんかをまともに相手するのは、あちきは、嫌だよ」

「何よそれ?」

 思わず聞き返したあたいにコプンは、我欲の魔王が滅ぼされた時の状況を細かく説明してきた。

「それって貴女の勘違いって可能性は、無い」

 コプンは、鼻で笑う。

「我欲の魔王は、何人もの真っ当な勇者と対峙してきたんだよ、中には、自分が死んでも仲間を逃がす時間を作ろうとした奴も居た。そんな時の感情のオーラーと全然違う。あれを勇者と同列扱いするなんて他の勇者に失礼だと思うね」

 酷い言われ様だが、全く心当たりが無いわけでもない。

 あの戦いの後、ユシャンは、何かにつけては、怒って居たし、赤子の事も最後まで堕胎させようとしていた。

「とにかく、貴女は、魔王になるつもりは、無いのね?」

 あたいの確認にコプンは、あっさり頷く。

「そう、そんであちきとしては、酔狂な真似をしている貴女、トラッセさん、年上だからさん付けね。トラッセさんの行動を見てて考えたの。この世の一番の贅沢ってなんだろうかって」

「あたいの行動と贅沢がどう結びつくの?」

 全く接点の無いとあたいは、おもうのだが、コプンは、続ける。

「贅沢、極論すれば無駄。トラッセさんの行動は、自分の不利益になって利益を全く生まない。ただ自分のポリシーだけを満たすだけの無駄な行為よね?」

「否定は、出来ないわね。ただ言わせてもらえば人として赤子を殺すのは、どんなに有益だろうと行っていけない外道だと思う。あたいは、どんなに不利益だろうと正道を歩きたいの」

 あたいの主張にコプンは、頷く。

「そうそれ、正道って事は、善良であるって事。でもさ、善良であるって難しいよね?」

 綺麗事は、幾らでも言えるだけど確かに善良である事は、難しい事である。

「生きていくには、善良である事は、不利益しか生まない。詰まり、善良であれるって事は、贅沢なことなんだよ」

 何か根本的におかしい気もするが、理論的には、あってる気がする。

「だからあちきは、善良に生きていくことにしたの。無駄や不利益だと言って他人を排除していくより、ずっと贅沢な事だから」

「贅沢だから善良で生きるか?」

 口に出してみるとやはり違和感があるが、それでもはっきりした事がある。

「だから、殺さなかったのね?」

 この状態でも魔法を使えるならば、追手に対する対応がやけに甘かったのが納得できる。

「そう、トラッセさんへの追手でもあるし、対処は、トラッセさんが決めて良いよ」

 これは、確かに助かる。

「このまま放置、帰ってありのままを伝えて貰いましょう」

「問題に成らない?」

 聞き返してくるコプンにあたいは、肩をすくめる。

「何をどう言ったって納得するわけもも無いし、構わないわ。話せる様になったんなら色々と話しましょうか」

「はーい」

 あたいは、こうしてコプンと話しこれからの事を決めるのであった。




○あちき


 精霊魔法使いの手の中で我、うーん、この一人称は、我欲の魔王を連想させる。

 確りと差別化して、引きずられない様にする為に変えよう。

 一応性別は、女なのだから、この女みたいにあたいにするかのも良いが、どうもしっくり来ない。

 少し特徴がある方がいいかもしれない。

 そうそうあちきというのが良いかもしれない。

 改めてあちきは、自分に向けられる苦笑と同情に対する感想は、一つ。

 ほぼ無関係の赤子を救って英雄の地位を捨てるお前程じゃないだった。

 どう考えても、あちきを助ける理由もないだろうに。

 酔狂にも程があるが、そんなに嫌いでは、無い。

 我欲の魔王は、そういう無駄な事をする事が少なかった。

 配下への労い、子供達への愛情、それら全てが無駄だとして切り捨てて居た。

 無駄だからしない、シンプルで明確な理由だったが、よくよく考えてみると無駄だからと言ってしない理由が無かった。

 力も時間も余る程あったのだから、幾らでもしてやれば良かったのでは、なかったのか。

 これは、考慮に値する事だ。

 どうせ、今は、ろくにしゃべる事も出来ないのだゆっくりと思考を廻らせよう。



 生後半年も過ぎると、魔法もかなり使えるようになった。

 旅から旅の旅ガラスをやっている所為でお金も少なくなったいたのでトラッセさんは、冒険者のお仕事に行っている間、あちきは、宿屋で大人しく待っていた。

 周囲には、精霊さん達が屯っているので、テレパシーで話をしていると、敵意在る思念が近づいてくる。

 扉を開くとそこには、深くフードを被った男達が居た。

 追手だろう。

「あんな赤子を殺すのか?」

 一人が躊躇するが大半の者が気にせず部屋に進入してくる。

「あの精霊魔法使いが居ない絶好のチャンス逃すわけには、行かないだろう」

 近づいてきてナイフを振り上げてくる。

 あちきは、額の眼で見てやる。

 それだけで男達は、動けなくなる。

 そのまま魔眼発動、男達を喋れなくする呪いをかけてから開放。

 男達は、戸惑い何か言い合おうとしてから喋れない事に気付き、恐怖に顔を歪めて部屋から逃げ出していく。

 暫くするとトラッセさんが帰ってきた。

 いきなり喋ると驚いた顔をしたが、直ぐに落ち着いて、あちきが我欲の魔王の転生じゃないかと疑ってくるので、説明する。

 中々信じて貰えなかったが、取敢えず害意がない事は、了解して貰えたので、今後の事を話すのであった。 なんだかんだ言って、トラッセさんは、良い度胸をしている。

 あちきがこの瞬間、自分を即死させる事も出来るって理解した上でこっちに殺意の一つも向けてこない。

 警戒をしてないわけじゃない、それでもあちきと話そうとしているトラッセさんの事をあちきは、凄く好きだったりする。

実は、一話で色々やろうとしましたが、分割する事にしました。

次回は、三歳、精霊魔法編です。

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