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010 精霊魔法使い、トラッセの最後

トラッセの死

「暫くのお別れね」

 あたいの言葉に寂しそうな顔をするコプンを見ると別れるのが辛くなる。

 この別れは、仕方ない事だと思った。

「勉強が終わったら、また一緒に旅したいです」

 コンプの言葉にあたいは、当然の様に頷く。

「当たり前でしょう。あたいは、貴女の保護者なんだから、死ぬまで一緒に居てあげるわ」

 そういって頭をがしがしする。

 すると、珍しくコプンの頭の上に居なかったチビ竜がテレパシーを送ってくる。

『別れたくないんだったら、仕事なんて休めば良い。お金なんて僕の溜め込んだ財宝があれば十分だろう』

 苦笑するあたい。

「そういう問題じゃないんだよ。コプンは、冒険者のあたいと違う道を行くんだ、その為の修行をするのに、あたいは、必要ない。傍に居ちゃ駄目なんだよ」

 前々から考えていた事だ。

 コプンがガイドブックコンプリートの旅する上で必要な職業。

 冒険者のあたいと同じ道は、進めない。

 出来るだけ力に頼らない職業という事で、あれこれと悩んだ挙句、護符、お守り、アミュレットを作って、自分で売るって仕事をコプンが選んだ。

 一つの所に留まらないって制限がある為、半魔ってハンデがあるコプンは、接客業全般が駄目。

 製造業に関しても販路がないので厳しい。

 製造と販売を一緒にして売れないイコール損失が発生しない状態にする事にしたらしい。

 材料採取と自分の生活費は、あたいが教え込んだ知識と技術でなんとでもなる。

 後は、売れるまで頑張るっという気長というか、随分と待ち要素が高い商売になりそうだ。

 唯一の問題の製造技術の習得だったが、世捨て人のその道の伝説的人物と偶然知り合って、教えを受ける事になった。

「修行が終わった頃には、少しは、胸とか成長しているかな?」

 あたいは、少し茶化すと溜息を吐くコプン。

「肉体的成長は、絶望的です」

 そう、コプンは、ここ一年ほど背も胸も大きくなっていない。

 チビ竜とも確認しあった結果、どうも成長が止まったらしい。

 まだまだ子供に見える外見でと不思議に思ったものだ。

『肉体が強い地族の女があまり大きくならないのと一緒だ。コプンは、その状態で負ける要素が全く無い。肉体を大きくしても維持コストが高くなるだけで意味が無いからな。まあ、恋愛でもしたら変わるかも知れないがどうだろうか』

「恋愛か、コプンは、どんな男がタイプなんだ?」

 聞いてみるがコプンは、首を傾げる。

「えーと、恋人同士で行くスポットもあるから考えないと駄目かも?」

「観光優先って時点だ駄目駄目だな」

 あたいが苦笑し、最後に抱きしめる。

「頑張れ。多分、あんたは、あたいより凄く長生きになるんだ。だから自分独りで旅出来る準備は、必要だよ」

「解ってる。でもあちきは、一人になっても独りじゃないよ。こうやって抱きしめてくれるトラッセさんが居るから」

 キューと痛いくらいに抱きついてくるコプン。

 力加減が得意のコプンがそれを誤る相手なんてあたいくらいだろう。

 そしてコプンを残してあたいは、冒険者の仕事に向かった。



 今回の仕事は、極々簡単な小さな町の護衛だった。

 時々現れるモンスターを退治するだけの簡単なお仕事の筈だった。

「ギャラは、安いが名物の河豚が食べ放題で決めたような仕事だからな」

 あたいは、河豚刺しを食べながら呟く中、その報告が来た。

「冒険者様! 大変ですじゃ!」

 声の方を振り向くとそこには、町長が居た。

「どうしたんですか? またモンスターですか?」

「確かにモンスターが出たんじゃが、モンスターじゃないのじゃ!」

「まあ、落ち着いてこれでも飲んで」

 パニックを起こしている町長に飲み物を差し出すがアワアワしてそれどころじゃないらしい。

 後から来た町民が青褪めた顔をして口にする。

「邪竜がこっちに向かっているんです」

 慌てる訳だ。

 あたいは、ゆっくり立ち上がる。

「避難は、始めている?」

 町民が頷くのを確認すると背筋を伸ばして告げる。

「それじゃあ、お仕事だし時間稼ぎは、あたいがするから安心しな」

「時間稼ぎが出来るんですか?」

 町民の言葉にあたいは、頷く。

「任せておいてよ」

 あたいは、そうして邪竜と戦うことになったのだ。



 邪竜とは、何か。

 竜族が一般的にプラド様の眷属であり、この世界に管理する絶対者である。

 しかし、中には、その役目を忘れて暴走する者が現れる。

 それが邪竜である。

 邪竜の存在は、一種の災害と同じである。

 人がどうにか出来る物じゃないと言われている。

 あたいもほぼ同意だ。

 まだまだ遠いのに肉眼でそのシルエットがはっきり解るんだから嫌になる。

 あたいは、周囲の風と水の精霊にお願いして、霧を生み出す。

「これで少しは、時間稼ぎになれば……」

 言葉の途中で霧がドラゴンブレスで吹き飛ばされた。

「さてさて、それじゃあ、こっちも本気でやりますか」

 腕を振り上げて、風の精霊の収束してしていく。

 振り下ろすと同時に収束した風の精霊が一気に解き放つ。

 真空の刃、カマイタチが邪竜の羽を切り裂く。

 一気に高度を落とした邪竜が地面に降り立った時、それだけで地面が揺れた。

「ハァー、ただ地面に降りただけで地震が起こる相手と戦わないといけないのか」

 ある意味絶望的だった。

 しかしまるで手が無いわけでも無かった。

「これ使えば勝てるかもね」

 そういって取り出したのは、四つの短剣。

 それぞれに炎、水、風、土の精霊の力を十年掛けて籠め続けている。

 何でこんな物を持っているかといえば理由は、単純だった。

 もしもコプンが魔王になった時に倒す為だった。

「でも、ここ最近は、力籠めて無かったんだよな」

 理由は、二つ。

 あたいの最強の攻撃だが、あっさり防がれそうだっていうのが一つ、もう一つは、絶対に魔王にならないと確信しているから。

 自分を傷つけた相手、あたいに憎悪の視線を向けてくる邪竜の口の中で炎が踊った。

 次の瞬間、ドラゴンブレスが放たれた。

「風の精霊よその力を解き放て!」

 あたいは、短剣の一つの力を解放してドラゴンブレスを受け流す。

 力負けしている。

 だが、対抗できる。

 あたいは、地面に短剣を突き刺す。

「土の精霊よその力を解き放て!」

 邪竜の足元の地面が崩れ、そこに短剣を投げつける。

「水の精霊よその力を解き放て!」

 大量の水が邪竜の動きを封じた。

 そしてあたいは、邪竜に肉薄し、最後の短剣を突き立てた。

「炎の精霊よその力を解き放て!」

 短剣の先から火炎が解き放たれた。

 これで終わらなければあたいは、負けだ。

 短剣に籠めた力が無くなり、火が消えた後、あたいは、顔を上げた。

 そして気付く邪竜と目があってしまったという事実に。

「いやはや、人生って儚いね」

 冒険者をやっているんだ、何時かは、こんな日が来ると思っていた。

 ただ最後は、コプンと一緒が良かったと思える自分に笑った。

「あの子は、直ぐに殺す事になるって思っていた。だから好意なんて持たないようにしようとさえ思ってたのに。すっかり本当の娘みたいに思ってたよ」

 コプンが居るだろう方向を向いてあたいが叫ぶ。

「コプン、自分の思った様に生きるんだよ!」

 これがあたいの最後の言葉になるだろう。



○あちき



『何でそんなに悩んでいるんだよ?』

 頭の上のシーストップが聞いてくるのであちきは、ガイドブックを見せる。

「名物料理とか食べるのには、やっぱりお金が必要だなって思って」

『金くらい、僕の遺産を使えば良いし。だいたい、コプンがその気になれば幾らでも稼げるじゃん』

「そういうお金じゃ駄目なの。やっぱり普通に働いて稼ぎたいけどね」

 あちきは、額の眼を見て嫌悪の視線を見せてくる人達の反応に眉を寄せる。

「これだから中々普通の仕事が出来ないんだよ」

『隠せばいいじゃん』

 シーストップの指摘にあちきは、首を横に振る。

「それって騙すって事だよ。もしも騙されたって気付いたらその人は、気分を悪くするよ」

『そこまで拘るのかよ。まあ、良いけど、そんでどうするんだよ』

 シーストップの質問にあちきは、肩をすくめる。

「それが解らないから困ってるんだよ」

『魔族の中でも最高の英知とも言われた我欲の魔王の英知をもっても解らない問い掛けってか』

 シーストップが軽く笑う中、あちきは、不思議な物を見た。

 路上に無造作に広げられたゴザに置かれたアミュレット、どれも高い魔法が籠められている。

『ゴザで売られているレベルじゃないな?』

 シーストップも不思議そうにする中、ゴザで横になっていた老人に服に着られた様な男の人達が話しかける。

「おっさん、こんな安物に効果あるのかよ?」

 明らかに馬鹿にしているのが解る。

「さあな、神のみぞ知るって奴だ」

 適当な老人の応えは、男の人達の予想と違ったのか不機嫌そうな顔をする。

「それがお客様にする態度かよ!」

「まだ何も買っていない人間は、客でも何でもないな」

 老人の正論に男の人達は、切れた。

「大人しくしてれば、少し世間って奴を教えてやる!」

 殴り掛かる男の人達だったが、あちきは、心配しない。

 男の人達の攻撃は、当たる前に老人が装備したアミュレットによって弾かれてしまっている。

 あちきは、そんな状況を無視して、ゴザに並んだアミュレットを見て気付き、老人の正体に気付く。

 老人は、ムーミトン、王侯貴族に絶大な信頼を持たれるアミュレット職人だ。

 アミュレットと言うのは、どうも中途半端な装備である。

 基本、自分が使える魔法を加工した木や石、貴金属に彫り込むのだが、どうしたって直接掛けた方が効果が高い。

 しかし、装備しているだけで何かしらの効果が得られるのだから着けておいて損は、無い。

 世間一般のそれは、その程度の認識だが、ムーミトンのアミュレットは、一線を引く。

 魔族の攻撃を防いだとか、竜退治に活躍したとか、そういう逸話に事欠かさない。

 普通ならこんな路上販売している人でも物でも無い。

 それでも何となく理由が解った。

「おじいさん、これってお金って稼げる?」

 あちきの質問にそれまで横になって居た老人、ムーミトンさんが座りなおして聞いてくる。

「日銭稼ぐのも難しいな」

「日銭ぐらいは、稼げるんだ」

 あちきの応えにムーミトンさんは、怪訝そうに顔をする。

「お嬢ちゃん、金儲けしたいんじゃないのか?」

 あちきは、首を横に振る。

「あちきがしたいのは、金儲けじゃなくってお金を稼ぎたいの。それも旅をしながら名物料理を食べれるくらいの額だけ。ああ、生活費と材料費は、自分でなんとかするから純粋に名物料理を食べるお金だけで良いんだ」

「面白いことを言うお嬢ちゃんだな。お金は、有って困るもんじゃないだろう?」

 ムーミトンさんの疑問にあちきは、疑問で返す。

「現在進行形で困っていませんか?」

 ムーミトンさんが笑い始めた。

「その通りだな。ああ、困ってるかな。正確に言えば、有名になりすぎたって事だけどな。だけどなんで解ったんだ?」

 あちきは、アミュレットの一つを手にとって説明する。

「ここに売られているアミュレットは、全部、明確な目的をもって作られている。普通のアミュレットみたいに役に立てばいいかもじゃなくて、役に立つアミュレットを身に着けて行くって感じ。だから不特定多数に売りたいんじゃないのに名前だけで欲しがる人が出てきたんでしょ?」

「ビンゴだな。他人のアミュレットは、どうだか知らないが、わしのアミュレットは、目的によって使い分ける物だって言うのに、わしの名前をありがたって、効果も無い奴を着ける馬鹿相手に辟易して、こんな所で商売してるんだ。そういうお嬢ちゃんは、その若さで世捨て人を気取るのかい?」

 あちきは、自信たっぷり応える。

「あちきは、凄い贅沢したくって金を持たない様にしようと考えているんだよ」

「贅沢する為に金を持たない? 正直、理解できないな」

 ムーミトンさんが肩をすくめる。

 そんな中、攻撃を続けていた男の人達がこっちを向く。

「訳解らない事言ってるんじゃねえ!」

 殴りかかって来たので、受け流しからの投げを決めながら、優しく地面に降ろす。

 続けて何人か来るが全員そうした。

「やるねえ、冒険者としてやってけそうなお嬢ちゃんの言う贅沢ってなんだ?」

 ムーミトンさんの質問にあちきが答える。

「善良に生きるって事。お金や名誉、権力の為に共や家族、良心を売らず、苦労と手間を惜しまず自分の目的を達成する。誰もが理想とするけど、普通に出来ない。それをやるのって凄く無駄が多い。ギリギリの人生を送っていたら出来ない、つまり贅沢って事だって思うんだよ」

 それを聞いたムーミトンさんが爆笑する。

「確かにそれは、贅沢だな。いやーわしは、今まで本当に貧乏人ばかり相手にしていたな」

「商売をしているんだったら、相手が貧乏人でも構わないと思うけど?」

 あちきの指摘にムーミトンさんが頷く。

「まあ、商売するんだったらな。わしも贅沢が好きなんだよ。自分のアミュレットに合った客相手だけに商売する事にしているのさ」

「それってお金を稼げる?」

 あちきは、最初の質問に戻る。

「日銭稼ぐ方法くらい教えてやるよ」

 こうしてムーミトンさんがあちきにアミュレットの作り方や露天での売り方を教えてくれる事になった。

 ただ、その短くない間、トラッセさんと別れる事になったのだ。



 数ヵ月後。

「一通りは、教えてやった。後は、旅をしながらゆっくりと頑張りな」

 そういう、ムーミトンさん、お師様にあちきは、頭を下げる。

「ありがとうございました。お師様の教えを守って鍛えていきます」

 あちきは、トラッセさんが仕事をしている筈の町に向かった。

 そしてあちきは、知る。

 トラッセさんの死を。



 トラッセさんのお墓の前であちきは、祈りを捧げていた。

 飛んで来てシーストップが言う。

『あの邪竜は、以前の僕と一緒だよ。この世界での死を望んでいた。だから致命傷を負って逃げなかったんだ』

 あちきが天を仰ぐと何体もの竜族が邪竜の解体された肉の一部を口に世界中に散らばっていくのを見て哀悼の祈りを捧げる。

「その肉体は、プラド様の一部となり、魂は、新たなる世界に至る事を」

『恨んでないのか?』

 シーストップの言葉にあちきは、トラッセさんのお墓を見る。

「恨んでないって言えば嘘になるし、一緒に居たらとも後悔もある。でも、トラッセさんは、自分の命に責任をもっていた。例えどんな死に方をしようとそれは、自分の判断の上の事。その原因を他人に押し付けるのは、トラッセさんの誇りを傷つける事になるから、それだけは、しちゃいけないんだって」

 あちきは、それでも零れてくる涙を拭う。

 大きなため息を吐きシーストップ。

『それにしても、邪竜に自分の死を与えた者として最後に見られる様な人間がその後の祝賀会で調子にのって、今だったらいけるって竜河豚を食べて死ぬんだから世の中解らないな』

 竜河豚、特殊な河豚で、とにかく絶品らしいが、どんなに上手く捌いても死亡率五割と言われている。

「前々から自分が死ぬ前に絶対、竜河豚を食べるんだって言ってたからな。でも他の死に方、他人に殺されたんじゃなかったのが不幸中の幸いだったよ」

『コプンらしくない言い方ジャン』

 シーストップの指摘にあちきが苦笑する。

「だって、そうじゃなかったら、トラッセさんの誇り傷つけると解っていても、その人を恨んじゃいそうだったんだもん」

 短い沈黙の後、シーストップは、トラッセさんのお墓を見る。

『本気に大した奴だったな。もしかしたら、この世界を本当の意味に救ったのは、トラッセになるかもな』

 あちきは、トラッセさんのお墓に誓う。

「あちきは、あちきの生き方を絶対に守るよ。だから安心して新しい世界に逝ってね」

 こうしてあちきの旅は、始まったのかもしれない。

トラッセの死は、初期設定から決まっていました。

トラッセは、前に少し言ってましたが、コプンにとっての逆鱗であり、弱点だったからです。

まあ、今回の取得した技術を生かす為にも保護者の存在って邪魔って言うのもありました。

ここからが本当の開始かもしれません。

次回は、12歳、素材の定期取得権利のゲット

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