Case1:ニコル・ジャービスの場合1
初めての投稿です
至らない点が多いでしょうがご容赦ください
眼前が唐突に赤みを帯びニコルは目を瞬いた。数秒の後に朝日で目を覚ましたと言う事に気が付いた彼は、毎日する様にベットの中で大きく伸びをした。ベッドから出ると朝の寒さが身にしみたのかブルリと身体が震える。何と無しに窓を見るとほんのりと霜が降りていた。
寝間着から作業着へ着替えつつ、何かを忘れているような気がし、ニコルは壁に掛けてあるカレンダーを見る。
「………」
少し考えたニコルはまぁいいかと、呟くと自室のドアを開け廊下に出た。
年季の入った軋む階段を降りると、宿泊者であろう人達が、既に点々と酒場であるファニ亭で朝食を取っている。
「おう、ニコル起きたのか」
名前を呼ばれ、まだ眠たい目を擦りつつ、声のする方に顔をむけると。祖父であるファン・ジャービスが鍋でスープを煮込んでいるところだった。
「今日はずいぶんと遅かったの、昨日は眠れんかったか?」
眼を擦りふらふらと歩くニコルにファンは言う。
「……?」
呆れたように話を続け、ファンは鍋の蓋を閉める。
「お前さん、まだ寝ぼけてるのか?今日はクザンカが来る、と言って昨日おおはしゃぎしとったじゃないか」
「……!?」
それを聞いたニコルは一瞬固まると、昨日の事を思い出したのか、笑みをこぼした。
そうだ、今日はクザン兄が来る日だった。
何でそんな大切なことを忘れてたんだろうか。
「いまどのくらい?」
「さっき朝の鐘が鳴った頃だな」
「もうそんな時間なの?」
楽しみにしていた為、昨日の晩はなかなか寝付けなかった。
その結果今朝は、普段より起きるのが遅れてしまったようだ。
「じいちゃん、ご飯頂戴」
「今焦ってもクザンカの船が着くのは昼過ぎじゃろ?急ぐ事はあるまいよ」
「いいから早く!」
と言いつつ朝食を受け取ろうとニコルは奪うようにカウンターに向かって手を伸ばす。
ファンはせっかちな奴めと、呟きながら鍋からスープをようとパンと共にニコルに渡す。ニコルは空いている席に座ると、大急ぎで朝飯を食べ始めた。
ーーーークザン兄ことダークエルフのクザンカ・ウォルキンドは、ダルアダーリ大陸西側を主とするアバルキン商業組合の商人である。南方から北の大都市への航路は航海中どこかへ寄らなければ水や食糧が足りなくなってしまう。そのため物資の補給を行う経由地点として作られているのがチェッラ村である。そのため海路を行く商人は必ずチェッラ村を通るのだ。
ニコルはチェッラ村の比較的奥地にある、フィニ亭を切り盛りするファンの孫であり、小さい頃から港の荷運びや宿の手伝いをしてきた。
その最中に商人であるクザンカと出会ったのだ。
約1年周期で毎年ヒメスの時期にチェッラ村を訪れるクザンカは、まだ幼いニコルに色々と物を教えてくれた。
時にはお土産と言い各国の珍しい物をくれたり、話を聞かせてくれたりしたのだ。
前回来た時には魔法を教えて貰い、最近では漸くその魔法の一つが使えるようになった。
ニコルはそれをはやくクザンカに見せたいのであった。ーーーー
ニコルは食べ終わると「行ってきます」とだけ言いファニ亭を出た。
高ぶる気持ちを抑え、午前の仕事に汗を流していると、昼の鐘が鳴った。
そこからしばらく経ち一息つき、真上にあった太陽が幾分か傾いたのが分る頃、港の方からカンカンと船が桟橋に着いたのを知らせる鐘の音が聞こえた。
ニコルは今持っている荷物を大急ぎで倉庫にしまい、監督者に「昼休みにする!」と言い放つと返事も聞かず桟橋に走って行った。
桟橋にはキスロヴォツク国の国旗を掲げ、横合いにフランペン号と書かれた、全長50フラールもあろうか言う巨大なガレオン船が這入ってくるところであった。
桟橋で動き回る1.8フラールはあろうかと言う屈強な水夫達がまるで小さく見える。
そのまま幾ばくか待つと、桟橋に橋がかけられ中から続々と人が出て来た。
次々と出て来る人と共に、巨大な箱や檻などが港の倉庫に運ばれていく。
ニコルは船から出てくる人や物の群れを見渡すと、ニヤニヤとこちらを見る耳の尖った浅黒い顔を見つけた。
「クザン兄!!」
ニコルはクザンカに駆け寄って飛び付いた。
「よぅ、ニコル、相変わらず小せえな、少しは背のびたのか?」
クザンカはニコルの頭をワシャワシャと掻き乱すとそう言った。
「久しぶりだねクザン兄!」
「おう、少し待ってろ。荷解きだけしたら時間作ってやっからな」
と言い船に戻ろうとする。
そこで思い出したかのように振り返り
「今日は凄いもんが有るぞ。楽しみにしとけ」
と言ってニヤリと笑った。
ニコルも船から荷物を倉庫に移すのを昼休みいっぱい手伝い、その後仕事場に戻った。そのまま仕事を終わらせ、一息つく頃には日も沈みかけもう幾ばくかすると夕刻の鐘が鳴るという頃になり、その後ニコルは船で作業を終えたクザンカと合流した。
フィニ亭に帰り扉を開けけると丁度夕食時と言う事もあり村の数少ない酒場はごった返していた。
二人は席を取ると
「とりあえず先に飯にするか、ファン爺さんの飯久しぶりなんだよなぁ。ニコルまだ晩飯食ってないだろ?」
と言うクザンカの言葉にニコルは頷きカウンターに向かって
「爺ちゃん、二人前!」と叫んだ。
幾分か待つと食事を持ってきたファンが二人を一瞥し、忙しいのか
「おう、クザンカ久しぶりだな」
とだけ言いい食事をテーブルに置いた。
「ファン爺さんも元気そうで何よりです」
忙しいのを察したのかクザンカは一言だけそう言うと食事の方を向き、仕事で腹の減っていた二人は一心不乱にシチューを食べると一息つきニコルはクザンカに話を振った。
「で、凄いもんって何さ?クザン兄」
ニコルはたまらずに身をクザンカの方に乗り出して聞く。
「まぁ、焦るな、少年」
楊枝で歯を掃除しつつクザンカは返す。
「その前に、前に来た時に出した宿題はどうした? 出来るようになったか?」
忘れていたのか思い出したニコルは
「そうだ!それも有ったんだよ!ほら、見てよ!」
とニコルは言うと 二人の間に右腕を出し人差し指を立てる。
立てた指先を凝視しニコルは
『火よ』
と絞り出すような声で呟いた。
するとニコルの指先にポッっとロウソク大の大きさの火が灯り、数秒間揺らめくとフッと火は消えてしまった。
ゼイゼイと肩で息をするニコルを笑いながらクザンカは
「火は灯るようになったのか、意外と早かったな。火が灯るのは次の航海の頃だと思ったんだが…」
と言いキセルを出すと煙草を詰めた後、咥え『火よ』ととなえキセルの先端部分に火を付ける。
ふぅー、と煙を吐き出すと
「まぁ、最初にしては上々だな。後は魔力効率とか、付けた火を意識的に消す事が出来るようになれば実用的になるかな…」
と続けた。
漸く落ち着いたのか、ニコルはクザンカの方に向き直ると
「次は何を教えてくれるの?」
と聞いた。
「ほら、そう言うと思ってな」
クザンカは麻縄で端を括られた紙の束を無造作に鞄から取り出すとニコルに渡した。
表紙には『基礎魔法』とだけ殴り書かれている。
「それを読め まぁ書いてある通りに練習したら多少はバリエーションも増えるだろう」
クザンカが言うと
「これが・・・凄い物?」
と嬉しそうな半面少しがっかりしたような顔でニコルは聞くと
「いやいや、それはただのお土産だ 凄いもんはまだ船に積んで有るはずだから今から見に行くさ」
と言い、クザンカは煙草の火を消した。
外に出ると日は沈み辺りはすっかり暗くなっていた。
夜になるとやはり寒く二人の吐く吐息は白くなる
「やっぱり、この時期のチェッラ村の夜は相も変わらず冷えるな…」
寒い手を擦り合わせつつクザンカがぼそりと呟く
クザンカはランタンをファンから借りたようで、徐に中に火を付けると、かじかむ手を温めつつ桟橋の方に向かって歩き出した。
フランペン号に着くと、人は疎らになり数られる程度しか居なかった。
クザンカは丁度フランペン号から出てこちらに歩いてくる、横幅の広い男に向かって
「船長、例の物をこの子に見してやりたいんですが」
とニコルの頭をポンポンと叩きながら話しかけた。
男はこちらを振り返ると
「クザンカか。まぁ、構わんが刺激はしないようにな。その子にもしっかり言い含めておくんだぞ?後、もう少ししたら船への掛け橋をおろすから、それまでには村に戻って来こいよ」
とだけ言い放つとニコル達が来た方向へ歩いて行った。
その男が見えなくなるとニコルは
「今のが今回の航海の船長?」
とクザンカニ聞いた。
「そうだ、今のがこのフランペン号のニアリー・イーゴール船長だ」
とクザンカは言うと
「さぁ、こっちだ」
と船倉の奥の方にランタンを掲げ進んで行き、ニコルはその後ろを追った。
船倉の奥にもう一つ部屋が有り、その扉の前でクザンカはこちらを振り向くと、言い含めるように言った。
「さっき船長も言ってたが・・・、今から見る物を刺激するんじゃないぞ?驚いても大きな声は上げるなよ、急な動きも極力避けろ?いいな?」
ニコルは真剣にコクコクと頷いた。
「じゃあ開けるぞ」
クザンカはランタンを持ち直し扉を押し開けた。
ニコルが中に入ると、思っていたより広い空間が顔をのぞかせた。
かなりカビ臭い事から使われなくなって久しいのだろう、と言う事を感じさせる部屋だった。
その部屋の真ん中に2フラール四方ほどの物体が有る。
正確には布の被せてある、直方体の物体だ。
クザンカはもう一度ニコルの方に振り替えると、人差し指を口にあて、もう一度静かにするようにと指示した。
そうして忍び足でそれに近ずくとクザンカは布を取った。
ニコルが一歩踏み出して見ると、布の下にあったのは檻の様だった。
クザンカが檻に向かってランタンをそっと差し出す。
照らされた光が眩しかったのか、中に居た生物の低く唸る声が聞こえる。
その生物は灰色の鱗で全身を覆われ爪を持ち背中には小さく畳まれた翼が有るのが分かる。
以前にクザンカに貰った本や祖父から聞いた話からニコルは直感した。
これが、竜なのだと。
ニコルが言葉を失って茫然と竜を見ていると、クザンカは「珍しいだろう?竜種だよ。まだ子供だけどな」
と竜の方を警戒しつつニコルに向かって言う。
「アバルキン…キスロヴォツクの首都だが…そこでハンターが捕まえてきたんだよ。今度のインジェノス帝国の競りにかけるとかで今運んでるんだが一体幾らの値がつくことやら………」
「これが竜…………」
ニコルが呟くと
「ああ、今のところブレスは確認されてはいないし、まだ空が飛べるのかどうかも判明していない。まぁ翼が有るのだから飛べるんだろうな…。ブレスは吹き方を知らないのか、そもそも吹けない種類なのか分からんがな。竜自体の専門家がダルアダーリ大陸には居ないからなんとも言えないんだよ」
それの研究も含めての輸送だな、とクザンカは言う。
竜は突然の来訪者に気分を害したのか、低く唸りながら交互に二人を見る。
ニコルが物珍しさに竜に向かって歩き出すが
「因みに その子竜を捕まえる段階で2人、輸送の段階で3人が死亡あるいは手の一部を欠損している。子供と言えど竜だ 迂闊に近づくなよ?」
というクザンカの言葉で足をとめた。
「………檻は安全なの?」
それを聞いて心配になったのかニコルはクザンカに恐る恐る尋ねる。
「なんでもミスリルを鋳溶かして作った檻らしいぞ。成長した個体ならいざ知らず子供の竜なら大丈夫だろうよ」
とクザンカは返す。
「まぁ万一と言う事も有るからな。極力近づくなよ」
「分かった」
竜を眺めつつニコルは返事をした。
「とは言え、伝承に出てくる竜もこうやって人が捕まえれるようになったんだ。案外大した事無かったのかもしれないがな。そもそも数が少なく物珍しいから伝承になったのか…」
とクザンカは、後半一人言のような説明をニコルにする。
「まぁ、人を殺すくらいなら大抵の魔獣になら出来るからな。集団で来る白妖狼のほうがよっぽど怖いさ。見た人間が過剰に言ったのだろう。噂は重なる毎に尾ヒレが付くものだからな」
自己完結したのかクザンカはひとしきりブツブツ言うと、ニコルに向かい
「そろそろ帰るぞ。いつまで見てても仕方ないだろう」
と言い竜に向かって布をかけた。竜は布をかけられると少しの間低く唸ると静かになった。
フィニ亭に戻ると、感動と驚きからか、呆然として何も言えないニコルの頭をクザンカが叩くと
「おい、大丈夫か?」
とクザンカは言った。
目の焦点をクザンカに合わせ、あっちの世界から帰って来たのか、ニコルはハッとするとクザンカに
「何食べるの?火は吹くの?空飛ぶの?魔法は使うの?そもそも…」
と矢継ぎ早に質問を重ね始めた。
クザンカは苦笑すると
「さっき船倉で説明しただろう 何にも聞いてなかったのか?お前は」
とため息をつきつつも
「餌は牛の生肉をやってるよ。中々餌代がバカにならないよって船長がぼやいてたさ、火…と言う言い方は少し古いな。ブレスは今の所あの子竜は吹いてはいない。さっきも言ったが吹かないのか吹けないのかは分からん。まだ子供だからな…」
とニコルの質問に答え出した。
その後、ニコルが落ち着くまでしばらく時間がかかった。
月が空の頂上に到達し傾き始めた頃、うす暗く皆が寝静まったフィニ亭の中に向かい合ってグラスを傾ける老人と太った男の姿が有った。
「とりあえず頼まれていた薬と魚や肉各種です」
とニアリー・イーゴールは向かいに座っているファン老人に荷物を渡していく、それを横目に見つつファンはミゼリ銅貨を数枚渡し言う。
「んで、なんじゃ?儂に聞きたい事とは?」
それを言われニアリーは神妙な顔でファンの方へ向き直り
「ええ、昔船乗りだったと言うファン爺さんに聞きたい事が有るんですよ。今回の航海中に少し…いえかなりおかしな事が有りましてね…」
と話し始める。
「今回私たちはアバルキンを出てダルアダーリ大陸北部のグリエフスクを経由して、ほぼ直線距離で障害も無くいつも通りにチェッラ村に向かったんですが、あれは…ヒメスの時期に入って10日目だったから…このチェッラ村に着く35日前でしたかね…目の前に巨大な霧の塊が現れたんですよ。それ事態なら特に珍しい事じゃないんですけど、その中を突っ切って行くと唐突に島が現れたんです。おおよそ4キロフラール程のね。この航路を何度も行き来してる身としては、そんな所にある島を見つけた事は初めてなんですよ。それで少しの間上陸したんですよ」
そこで区切りニアリーはグラスを傾ける。
「それでですね。ここからが何と言うか…少し形容しがたいんですが…、上陸してしばらく経つと何と言っていいのか分かりませんが ここに居てはいけない と言う気持ちになりましてね。後で上陸した水夫や商人の人達に聞いても彼らも同じ焦燥に駆られたようです」
「幽霊島」
唐突に黙って酒を飲んでいたファンが一言言葉を発した
「は?」
ニアリーはいきなりの事に聞き返すと
「幽霊島 といったんじゃ。居てはいけない と言うのは根拠が無く漠然と、でも全員がはっきりとそう思ったんじゃろう?」
とファンは言った。
「………ええ ご存知なんですか…?」
「儂も昔に一度上陸した事が有る。昔の船乗りの間では少し有名な話だった
。最近は聞かんがのう…今まで見た事無良い場所に島が現れる。そしてその後訪れても二度とその場所には無い幻の島として船乗りの間では有名じゃった」
グラスを傾け中が空な事に気がついたのか、ボトルから酒を注ぐとファンは続ける。
「儂自身、その島に上陸したのはプリマイブ大陸西側…つまり今回お主等が上陸した場所とはまるで離れた場所じゃの」
「そんな馬鹿な事が…」
「集団幻覚と言う奴もいた。だが実際にその島は有る。そこの物を持ちかえった奴もいた。まぁ、事故が起こらなかったのならそれで良かった」
とファンは言った。
「…………」
それを聞いたニアリーは考え込むようにして酒を煽った。
「ところで」
ファンは静寂を破りニアリーに話しかける。
「ところでなにやら竜の子供を輸送しているそうじゃな?」
「ええ…、なんでもインジェノス帝国で競りにかけるとかで…。私が輸送するのは海路までですので、カリーダズ王国のクリーファまでですが。」
と唐突に話題を変えられ、動揺しつつニアリーは答える。
酒を一口飲み
「気を付けろよ」
とファンは言った。
「分かってますよ。竜種なんてかなり貴重ですからね…。噂を聞くと海賊が来そうですしね」
「………そういう事ではない」
「え?」
「お前さん、その捕まえた子竜の親はどうしてると思う?」
ファンはニアリーの目を見て尋ねた。
「………子供を捕まえて追って来ないと言う事はもう死んだか、何かしらの事情で動けないんではないんでしょうか?」
ファンの言わんとすることを察したのか、少し考えるとニアリーは返す。
「…………」
ファンは無言で酒を煽る。
「なんにせよ、クリーファに着けばそこからは陸路ですし私達には関係ない事ですし、竜種も海路の上までは追って来れないでしょう?」
「………そうだと良いな」
ファンは一言そう言った。黙って何かを考えている様子だった。
夜は更けていく。
明朝、目を覚ましたニコルはベッドからと飛び起きるとすぐさま、階下に降り、辺りを見渡した。
既に朝ご飯を食べ始めたクザンカを見つけると、カウンターへ行きファンに朝食をよそって貰い、クザンカの向かいの席に腰を下ろした。
「おはよう、眠れたか?」
クザンカにそう聞かれ寝惚け眼を擦りつつ
「まぁまぁね」と返す。
朝食を食べ終わり二人は港へ向かう。
新しくクリーファ行きの荷物をフランペン号に積み込み、それが終わり次第クザンカ達は出港となる。
クザンカが行ってしまうのが惜しくニコルはわざとゆっくり詰み込んだ。
そんな事をしてもクザンカと過ごせる時間が増える訳ではないのだが……
そうこうしている内に昼の鐘が鳴る頃には全ての積み荷を積み終わっていた。
水夫が次々と乗り込んで行くのを尻目にニコルはクザンカを探した。
桟橋で待つこと少し、クザンカがこちらに歩いてくるのが見えた。
ニコルが待っていると
「んじゃ今度会えるのはまた1年後かな?まぁ詳しい日時はファン爺に教えてあるから後で聞いてくれ。」
とクザンカが笑いながら言う
「後、基礎魔法は本渡したんだからしっかりやっておけよ?意外とあれ高かったんだからな?」
と続けるていると頭上のフランペン号の甲板より
「おーい、クザンカ、早く来い!置いて行くぞ!」
とクザンカの仲間の商人であろう声がする。
「おう、今行くぜー」
クザンカは上に向かってそう叫び返すと、ニコルの頭を叩き
「じゃあな、また1年後」
と言い残し船に乗り込んで行った。
桟橋から掛け橋が下され、船が出港する合図である鐘の音を聞きながら、ニコルはフランペン号に向かって、見えなくなるまで手を振った。
フィニ亭に帰るとファンは
「お前はいっつもクザンカが出港すると不機嫌になるのう」
と言われ何か返そうと思ったが、言い返す言葉は出てこなかった。
変わりに出てきたのは
「次、クザン兄が返ってくのはいつ?」
だった。
その数日後、チェッラ村の上空を大きな影が覆った。
名前:ニコル・ジャービス
人種:人間科ヒト属白人種
年齢:13歳
身長:1.5フラール
仕事:チェッラ村の手伝い
TRPGで使う世界観のNPCキャラ視点の話です
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