幕間/術士の師匠
※本編ではありません
ストック切れの自転車更新がとうとうコケました…。
小話すらまともに作れず駄文アップですorz
会話文のみですので、どれが誰の科白か推測しつつどうぞ――。
※2014.06.07 大幅改稿しました。
・エピソードをひとつ削除(やや下品ネタだった分)
・野郎二人合流後のどこかの風景を小話に(誰の科白かの回答編・笑)
・オマケの設定ネタを後書きに移動、もともとの後書き(言い訳)は削除
ガキィン、と派手な音と共に細身の長剣が宙を舞った。
街道脇の木立の中、僅かな草地に立っているのはカイルとセイン、両手に構えた双剣をひとつ鞘に収めつつにやりと口元を緩めたカイルの声が爽やかな夏の風に乗った。
「はい、俺の勝ち~。いやぁ、セイン善戦善戦~」
「――っくそ、余裕かましやがって!」
剣を弾き飛ばされたセインが膝に手を突いて悪態を零す。汗が流れ息が上がっているのはセインばかりで、対峙していたカイルは、暑いので汗こそ浮いているがセイン程ではなく、呼吸に至っては軽く弾んでいる程度で乱れてはいない。
状態の差を認識すると同時に実力の隔たりも再認識させられたセインはもう一度悪態を吐くと、剣を拾いに足を踏み出した。
「セインさぁん、野郎に勝てなくたっていいじゃないですかぁ」
「そーそー。まぁ、十代の女がこんだけ戦えるってとんでもないって」
ミシリーが投げる慰めの言葉に、カイルが追い打ちのような言葉を足してくる。唇は引き結んだままカイルを睨みつけて剣を拾ったセインに、アレイクの半ば感心、半ば呆れ、といった声が届いた。
「確かにそこらの破落戸なんぞ目じゃない腕前だが……それでも、ルドもいるのによく今まで無事だったな」
一瞬、言われた意味が解らない、という表情を覗かせたあと、セインは視線を彷徨わせて応じた。
「あー、むしろルドがいるから無事だったと言うか」
「ん?」
アレイクが小首を傾げるのに説明を省いてセインは提案を持ち出す。
「……アレイク、ルドと組んで手合せ願っても?」
「はぁ!?」
「えー、巻き込むのー?」
「どうやって生き抜いてきたか証明しろって言われたらそうなるなぁ」
「いや、口頭説明だけでいい。法術で戦闘はできないだろう、どういう意味だ?」
非難の声を上げたルドを軽く流すセインに、アレイクが制止を掛けた。
肩を竦めてセインが言うに、
「法術で戦闘を支援することはできるよ。私の防御を補って剣の強化をして、結界で敵の足元掬ってみたり捕縛してみたり」
より正確を期すなら、防御の補助や剣の強化も結界系の術の応用である。
剣や、剣を持っていない方の腕に極小の超局地結界を瞬間的に発動、剣が折れるのを防ぎ、腕を盾代わりに使えるよう補助する。基本的に結界は球状――中心点が床や地面などに設定されれば半球状――で構築されるので立ち回りに不便と判断すれば消去、状況に応じて再発動の繰り返しである。
ルドは結界系の法術の習熟度が特に高い。旅をする上で、野宿時の安全確保と夜露や暑さ寒さ対策、戦闘時の安全確保と補助、とほぼ万能で、自然使用頻度が高かったからだ。次いで治癒系、これもまた旅暮らしの中で必要とされたため覚えが早かった部類の術だ。
ざっくりと説明すれば、カイルとミシリーは生温い表情でセインを見詰め、唖然としたアレイクが辛うじて言葉にして反応した。
「…………すごい、んだな」
「まともな法術士が聞いたらぶっ倒れるだろうけどな。ルドは規格外だから」
「うわー、人のせいにしないでー。そんなトンデモ法術ばっかり僕に仕込んだのはセインだからね?」
「セインが?」
神殿で重視される術は浄化系が最上位、次いで治癒系、結界系……と続く。ルドは浄化系の術は基本的な術式以外ほとんど覚えていない。セインが、自分が使えない術から教えていった結果である。
香油の精製のような技術系の法術は神殿においてはほとんど無視されている。神殿の教本では隅っこにでも載っていればいい方だろう。生活への実用性は高いが、『神殿』という、神聖性を表に押し出す機関においては重要ではない。
「使えないけど使い方は知ってる。まだ満足に言葉も喋れないくらい小さい頃からべったり教えられてきたからな」
なお、結界系の術式は固定発動が原則で、ルドのように動く対象に展開させたりそれを消したり、のうような変則的な使い方は神殿の教本には載っていないと断言できる。ルドが言うところの『トンデモ法術』は、セインが実家の書庫で読みふけった術本にあったもので、それらは遠い時代に淘汰され姿を消したものも多く含まれる。
「……お前の『力』が解放された場合が怖いな……」
消えた理由は様々だ。ユークリッドの桁外れの魔力であれば問題なく扱える術式であっても、一般の法術士には複雑怪奇で安定使用に難があるだとか、汎用性や実用性に欠けるだとか、だ。任意の局地展開を行う極小結界は前者の意味で消えたとセインは記憶している。ルドが、法力の顕現が聖寵の者〈ディ・エンファ〉より強い、小さき者〈エラス・ソルア〉であるからこそ教え込めたとも言える。
「一朝一夕で実戦に応用できるかよ。そうなったらしばらくはルドに弟子入りだ」
剣を収めた鞘を腰から外して、セインはルドの隣に座り込む。いつかのようにセインたちが仕合をしている間に、ルドとミシリーは昼食を仕立てていた。干し肉といくつかの香草で仕上げた汁物の器をセインに渡しながら、ルドがにっこりと笑った。
「そうなったらお師匠様と呼ばせてあげるね、セイン」
「あー、よろしくチビ師匠」
「こらぁ!!」
胸を張って言い放ったルドに、にやりと笑って返せば一喝して膨れっ面を見せたが、本気の怒りではなかったのだろう、すぐに食事を始めてにこにこしていた。
「そういやセインさんって誰に剣を習ったんですか?」
食事の後始末まで済ませ、では出発、と腰を上げたところでミシリーが問いかけてきた。アレイクも同感だ、とセインに視線を寄越す。
「俺も気になっていたな。粗削りだが基本はしっかりしているようだから」
「あー、基本は領地の兵……というか自警団程度の集まりだけど、彼らから。ほとんどは退役軍人で、王国軍で正規訓練を経験している人達だから実力はあったし」
「ん? ということは、子供のころからか?」
なんということも無しにセインは頷いた。無意識に腰の剣の柄尻に左手を乗せて答える。
「代々、教育の一環で護身術は男女問わず習わせていたらしい。私の場合は『力』がまともに使えなかったから、より注力して指導されたな」
故郷で過ごした幼い日々、午前中は義兄と共に術関連の勉強、昼食後は貴族としての礼儀や知識を得るための講義を受け、午後のお茶の後にセインは剣の、クロッセは剣と術の訓練を半々というのが日課だった。
軽く握り込んだ剣は三本目、十年以上流れ者をしている身にとってこの買い替え回数は多いのか少ないのか。
義兄と共に旅をしている頃は危険に遭遇すること自体がほとんどなかった。基本的に神殿伝いに移動していたのだ、転移陣が無い場合や使うと目的地を通り越してしまうからと徒歩移動する場合でも、野宿することはまずなかった。
最初の剣を捨てたのは彼を斬ったとき。人に切っ先を向けたことは何度かあったが、実際に命の遣り取りをしたのはあれが初めてだった。
そうして、血濡れた剣をクロッセと共に湖に沈めて逃げ出した。
「それでやたらと強いんですねー……」
「まともに師事したのは七つまでだぞ? そのあとはほとんど我流だ」
しみじみと頷いているミシリーに苦笑すると、アレイクが、ああ、と納得したように笑った。
「実践あるのみで鍛えられたか」
二本目の剣を破棄したのは、ルドと一緒になって一年にならない頃のことだったか。
小さな町で出くわした破落戸を蹴散らし、鞘に収めようとしたところで刃の中程からばっきり折れた。当時、ルドはまだ自身を守る結界を展開するのが精一杯で、セインの戦闘には一切手出しできずにいたが、セインの剣が折れるのを目の当たりにして自分にできる戦い方を模索し出した。
ルドが積極的にセインに術講義をねだるようになったのはこの頃からだ。
「そんな感じだ」
「どうせなら淑女教育に注力されておくべきだったと思うー」
「うっさい」
かつての殊勝さはどこへやら、すっかり遠慮のなくなった小さな姿の連れの言葉に、セインは舌打ちしたい気分で応じたのだった。
◆暦とか誕生日とかの設定ネタ
紺月(春の初めの月で一年の始まりでもある:イメージ的には3月)
以下、青・藍・赤・紅・緋・黄・白・灰・緑・黒・碧(冬の終わりの月:2月)
セインさんは紅月(7月)十八日生まれ、ルドは黒月(1月)十四日生まれ。
アレイクは藍月、カイル紺月、ミシリー白月。この三人は日にち決めていません。
アレイクは生まれてすぐにちゃんと戸籍登録されているのではっきりしている。
カイルはお頭に拾われた日を誕生日と称して通してきている。
ミシリーは裏稼業の女たちの集団の中で生まれているので誕生日ははっきりしている。
カイルとミシリーは身分証発行のためにゼフィーア王国に戸籍登録された。それまでは戸籍無し。
カイルはお頭の姓(オルヴァ)を名乗っているが、ミシリーは姓無し。
本編現在(紅月下旬)で、セイン十八歳、ルド十三歳、アレイク二十三、カイル二十一、ミシリー十五。
……生まれ年で数えれば最年長と最年少の年齢差はギリギリ一桁(笑)。
ただし、傍から見ると親子くらいには年齢差があるように見える(爆)。




