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紅の闇  作者: 水無神
第一章 ゼフィーア王国
19/90

幕間/蒼天の決意

※一人称です


 爽やかな風が流れる青空の下、ほてほてと歩を進めるのはあたし、お金とお宝をこよなく愛する女盗賊ミシリー。

 二歩ほど前を歩くのは絶世の美男子――と思わせて凛々しい美女だったことが先日判明したセインさん。でもってセインさんとあたしの中間辺りをせっせと歩いているのが、賢く礼儀正しいちびっこルド君。


 二人が王都クラルテを出たところで強引に道連れになって十六日にしゅうかん、あたしたちは順調にメルス王国との国境に向かっている。

 あと数日で国境を越えるというところまで来て、あたしはふと思いついて小さな背中に声をかけた。


「ルド君はゼフィーアの他はどこ行ったことあるの?」


 あたしはゼフィーア王国を出るのが生まれて初めてだけどね! とセインさんより豊かな胸を張りつつ訊くと、ルド君は律儀に左手で指折り数え、右手で地図を描くような仕草をしながら答えてくれた。


「えぇっとぉ……僕の生まれたところがクラフィクター公国の端っこで、そこでセインと会って、南隣のアバス王国に行って、またクラフィクターを通って北上して大陸東端のスカリア王国から西に回ってゼフィーア王国、そこから南西に下って今から初入国のメルス王国……で、合ってる? セイン」


 経路と国名を挙げきったルド君が、答え合わせをとばかりにセインさんを見上げると、セインさんはやや呆れたような表情をしてルド君を見ていた。


「よく覚えてんな。ちなみに最初にクラフィクターからアバスに抜ける時に一瞬メルス国土を踏んでるから、厳密には初入国ではないけどな」

「――それって、森か山の中をぐるぐるしてる内に国境をまたいじゃった、てことだよね? 入国したって言わなくない?」


 セインさんが細かい修正をすると、今度はルド君が呆れ顔になった。


 うん、でもその前にちょっといいかなぁ? 森や山の中をぐるぐるってなんでしょ??


 あたしの呟きを拾って、ルド君がこれまでの旅の日常を語ってくれた。

 ……うん、ちょっと待とうかお二人さん。頭を抱えて呻きたくなる。


「えっらく逞しい旅の仕方してたのね……。基本野宿で食事は狩猟採集上等の移動生活って……古代人かよぅ……」

「うっさい。金もなかったんだ。これまで何とかなってたんだからいいだろ」


 さめざめと嘆くあたしの言葉に、セインさんはにべもない。

 あー、路銀は大問題だよねぇ。安全安価の宿を知っていても先立つものが無けりゃ泊まれないものね。あたしも独り立ち当初は大変苦労いたしましたとも。


 ちなみに路銀の収入源はと問えば森や山で採集した薬草や香草で、そのまま売り払うこともあれば、一手間かけて加工することもあるって? 一番良い値がつくのはルド君が法術で精製する香油!? ちょ、ルド君、その香油とやら、あたしも欲しい!


 あたしの目が明らかに光ったのだと思う、ルド君が今度作る時はあたし用に調合してくれると笑って約束してくれた。ありがとう!!


「まあ、それはそれとして。セインさんもルド君も、あたしという道連れを得たこの機会に色々改めましょうか」


 怪訝な顔をするお二人さん、言っちゃあなんですが色々規格外すぎるんですよ。


「まずセインさん。ルド君にも頼まれましたが女の子教育をいたします。えぇ、まずは身だしなみですね。男物を着ていても女だと主張することはできますから。それが出来れば湯屋で堂々と女湯に入れますから。悲鳴と怒声で追い出されるのはもうゴメンです。

 言葉遣いとか立ち居振る舞いは身に染みついてて簡単には変えられないでしょうから追い追いで」


 つい先日の苦い苦い事件を教訓に、これだけは徹底する! 意地でもやる!!

 でも、あたしの決意漲る言葉に、セインさんはやっぱり胡乱な顔をしたままだった。


「私は行かないって言うのをお前が引き摺ってまで連れ込もうとしたからだろ……」


 いやいや、銭湯にくらいフツーに行きましょうよ。お金がなかったときなら川での水浴びで我慢でしょうけど、今は懐暖かいんでしょ。ゼフィーアから資金提供受けたんでしょ。使いましょうよ、ちょっとくらい。


 嫌そうな顔で距離を取るセインさんを一先ず置いて、お次はルド君だ。


「ルド君は年の割に随分と落ち着いているし法術士としても立派に振る舞えるみたいだから問題ないっちゃないけど、むしろ子供っぽさが足りてない。無邪気にお姉さんに甘えるくらいしよーよー。お風呂とか添い寝とか身支度とか食事とか全部自分でこなしちゃうんだもんなー」


 つまんなーい、と唇を尖らせて見せると、ルド君はぎこちない微笑みを浮かべる。

 ん? こめかみを伝うソレは汗ですか? そんなに暑いかなぁ、今日?


「ミシリーさん、僕そんなに子供じゃないです。自分のことは自分でできます。自分でしなきゃダメなんです。自分でやらせてください」


 で、ぎこちない笑顔のままそんなこと言うかー。

 うーん。でもまぁ、確かにルド君のは無理に直す必要のない欠点ではあるか。あたしがつまんないだけで、実質的な害はないもんねー。


 実質的な害といえば、むしろセインさんのは深刻だしな。


「……そうだねー。セインさんの女の子教育のが急を要するしね!」

「本っ気でいらない、そんな教育施される必要を感じない」

「まぁまぁ、知ってて損はないですって~」

「そうだよー、セインにとってもいい機会だと思うよー」


 こら、ルド君。とっても素敵に棒読みだよ。実は言うほどセインさんの男前っぷりを問題視していないのかね?

 まあ、あたしは非常に重大な問題だと思ってますからね!


 うだうだと言いながらあたしから距離を取ろうとするセインさんを捕獲するべく、あたしは大地を蹴ったのだった――――。



まだゼフィーア国内、ということで第一章のオマケ的な感じで。

蛇足とも言う。


「蒼天」はお天気がいい日というのと、ミシリーの瞳とをかけています。


ミシリーがいると、会話部分だけを先にダーッと書き、

後から合間に地の文を書き足すというおかしな作り方になります。

そしてミシリーがやたらと本筋から脱線した会話を展開しようとするので、

軌道修正に時間がかかります。

そんな脱線話を小ネタとして置いてみることにしました。


セインとは違う意味で我が道を行く彼女です……。

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