とりあえず散髪、謁見、幼女と戦闘。
メールで送ったら文字化けしまくって
めちゃくちゃ困った(笑)
9話 とりあえず勇者になる為の戦いをする
……。
「な、なぁ黒さん」
「なんだ?」
「城、超でかくね?」
時々馬車内から見えていた城。その白は某遊園地のど真ん中にある城を更に大きくし、その周りに十メートルくらいの外壁。そして今、前方に七メートル程の鉄の門。馬車を降りて見上げるにも首が痛い。
「フォルト城はかの勇者ハルトレイと勇者一行の魔法使い、ユリエルが作り出した城なのだ」
「この城をたった二人でか!?」
「あぁ。素晴らしいだろう」
「すげぇな、そりゃあ」
「とりあえず、歩きながら話そう」
「わかった」
富士山ばりにでけぇ。は言い過ぎだが、幅二百メートルの外壁に囲まれてる時点ででけぇよ。
ん?つか可笑しいな。ここは元々何だったんだ?三千年前に、戦争するために建国したのか?
「なぁ黒さん」
「なんだ?」
「ここって戦争始まる前はどんなとこだったんだ?城を作ったのが勇者一行だとして。その前は何だったんだ?」
「あぁ。ここは人間の小さな村が合併され、作られた街だった。ある時その街を襲うようになった者達がいた。それが魔王だ」
「は?魔王ってそんなショボいことしてたのかよ」
「当時の魔王は、それはもう酷かった。らしい。人を見れば斬りつけ、人里見つけては燃やし尽くし、街を見れば殲滅にかかっていた」
「それを見兼ねて勇者が出たと」
「そういうことだ。だが私にもわからないことはある。あの勇者一行はどこから現れたのか、だ」
「あ?」
「勇者一行、ユリエルの他、戦士シャドウ、賢者ロクト、そして僧侶アイルズ。皆出生地がわからなかったのだ」
……。
「それで?」
「文献によるとだ、彼らの出生地はニホンという国らしい」
「なんだと!!?」
「知っているのか?」
「さ、さぁな」
素直に言えばいいものを、何故か否定してしまった。
「そうか」
「んぅ……」
「コイツ、寝顔可愛いなムカつく」
「……」
城に着いてからも、ずっと気絶したままのアルトレア。黒さんに背負われているのだが、その寝顔が、もう可愛いのだ。男の癖に。やめろ、俺をそっちの道に誘わないでくれ。
「さて。そろそろ城へ入る。今までは良かったが、起きてもらおう。念のため、ジンは離れていろ」
「おう」
「アルトレア=カリバン。起きろ」
パシンッと思いっきり頬を叩く黒さん。相手が女なら俺が許さないが、アルトレアなら許す。
「あぐっ……ひ、貴様!何をする!」
アルトレアが飛び起きて、黒さんに対して構える。
「入城する。起きろ」
「くっ……わかった」
「行くぞ」
「おう!」
入城して、すぐに謁見するのかと思いきや、客室で待たされる事に。確かにアポなしだと流石に厳しいよな。うん。
「謁見まで時間がまだあるから、貴様の髪を整えるとしよう。仁」
「黒さん?!いつの間に名前で呼ぶように!?」
「今からだ」
「名前は良いからさ、髪はやめてくれよ、オールバック好きなんだよ」
「知らん。その後ろ髪も鬱陶しい」
ひでぇ!!にじり寄ってくるな!!
逃げようとしていると、いつの間にか現れたメイドに両腕をガッツリ掴まれる。
いてぇ!いてぇよ!俺防御力そこそこ高い筈なのに痛みがあるってどういう、助け、助けてくれ!誰か!ハル!エル!!神様ァー!!
『それは無理だ』
「う、裏切り者おおおおおお」
数分後、後ろ髪はばっさり切られ、前髪は下ろされて項垂れる俺がいた。
「う、うぅ汚されちまった。俺の変わらぬポリシーが、汚されちまった」
「髪型くらいでうるさい男だな」
「アルトレア゛ア゛ア゛!!てめぇの髪バリカンで全部剃り上げてやろうか!?あ゛ぁ゛!?」
「や、やめろ。私は専属のメイドに、思うがままにやらせているから、そいつに悲しまれる」
「クソがァ!!」
首元がスースーする。落ちつかねぇ。学ランは凄く着心地良いから、それでノーカンにしてやろう。
「ハァーハァー」
「時間だ」
元凶が帰ってきた。憤怒の視線を送るも、あっさりとスルーされる。悲しい。
同じ様な風景で、構成される城内を進んでいき、謁見の間の入り口に到達した。
「……」
「随分静かじゃねぇか」
アルトレアはそれはもう、ガッチガチに緊張していた。声を掛けた俺に悪態をつけないくらいガッチガチだ。
「黒さん、こいつやべぇんじゃねぇの」
「……大丈夫。大丈夫だ」
「ふむ。気をしっかり持ってください。あまりにも緊張していると、持ってかれますよ」
持ってかれる??
疑問を解消するよりも早く、謁見の間の扉が開かれた瞬間、俺は凄まじいプレッシャーに押し潰されそうになり、思わず膝を着いた。
「我が王よ。ただいま戻りました」
なんで黒さんは平然としていられるんだよ。アルトレアなんて両膝ついて、顔真っ青でガクガク震えてるぞ。
この凄まじいプレッシャー、黒角狼の比じゃねぇ。この世のものとは思えねえよ。
「主らが今回の勇者候補か」
気圧されたままじゃ、いらんねぇ。
俺は震える身体を、気合で制御して黒さんの横に並ぶ。
「俺は金屋仁……です」
流石に敬語くらいは使うぞ、俺だって。ちょっと怪しいけど。
「そうか。よろしく頼むぞ。ジン。そこの者は何だ?」
「わ、私はアルっ、アルトレア=カリバン、でござい、ます」
「そうか。カリバン家の者か」
「は、はい!今回こそは、フォルト王のお役にたって見せます!」
「……期待はせぬ」
「は、はい」
アルトレアが凄いしょんぼりしてるざまぁみろとか思ったりしたけど、プレッシャーが重過ぎて、もう……。
「我が王よ。お戯れが過ぎます」
「そ、そうか?すまぬ」
黒さんに言われた瞬間、重くのしかかっていた重圧感が無くなり、アルトレアも元気になっていた。
「まぁ、余も固いのは嫌いなので、これから先は気楽に話しかけるがよい。王という肩書きだけで、媚びを売りおって」
「なんつーか、大変なんだな、王様」
「プレッシャーが解けた瞬間、その、口調に戻るなど、我が王よ」
「それで良いぞ」
「はぁ……」
黒さんが頭を抱えて嘆息する。
「なぁ、王様」
「何だ?」
「頼みがある。二週間以内に、俺を勇者にしてくれ」
「なに?」
王様から再びプレッシャーが放たれる。さっきより強い。
「お主は、勇者になることが出来ると思うのか?」
「俺に不可能はない。どんなことでもやってやるよ」
俺も負けじと王様を睨んでみる。
「ならば問おう。お主はなんの為に勇者になるというのだ」
「俺は……邪神なんかのせいで、小さな村に閉じ込められている少女を助けるために勇者になる」
「ほう……」
「我が王よ。いかがいたしますか?」
「……影」
「はっ」
「此奴を勇者育成所で闘わせろ」
「御意。仁。行くぞ。そこで伸びているアルトレア=カリバンを背負え」
「え?俺がぁ?!」
ただでさえさっきから殺されそうなのに、触ったりなんかしたら……。
「次攻撃されたら、倒しても良い」
「了解しました!」
よし。よしよし。大義名分をえたぞう!!
とりあえずアルトレアを背負う。
軽いな。男たぁ思えねえ。だが背負った感じじゃ胸はない。やはり男なのだろう。
「飛ぶぞ」
「は?」
俺は黒さんに手を掴まれた。と思ったら、一瞬にして世界が変わった。
「おわぁ?!」
「着いたぞ」
俺は広い、ひろーいコロシアムみたいな場所にいた。
「ここは勇者育成所の、闘技場だ。君には今日から、睡眠、食事以外はここであらゆる勇者候補と闘ってもらう」
「殺さない程度にボコりゃ良いんだよな?」
「それが出来るならな。では今日の相手を連れてこよう」
「楽しみにしてるぞー」
俺は黒さんを、見送り、アルトレアを壁に寄りかからせる。
「さて、どんなんが来るかね?」
……アルトレアの寝顔が男とは思えなさすぎるのは気のせいだろうか。
ちょっと……確かめて……。
「戻ったぞ」
「うおう!?」
「何をしているんだ君は?」
黒さんが凄い変な目で俺を見ている。風景としては俺が壁に寄りかかっているアルトレアを屈んで触ろうとしていたところだ。
「あ、これはな」
「君が気絶しているアルトレア=カリバンを壁に寄りかからせた、というのが妥当か」
「そうだよ」
すいません嘘です黒さん。
「で、相手は?」
「この子だ」
黒さんの後ろから顔を半分だけ覗かせている、色白且つ、白髪の少女がいた。
「ふぅん。っておい!こんな餓鬼が相手かよ!」
「むぅー」
「彼女はルチア=ソルティ。まだまだ小さいが、勇者になるための要素は多く、何より、強い」
「これがか?」
「ジン。彼女をあまり舐めない方が良い。下手をすれば大怪我をするぞ」
「こんな餓鬼にやられるかよ」
「そうか。では双方装備を整えよ」
「問題なし……です」
「鎧はあるけど、剣がねぇんだけど!?」
「装備が不十分な状態で戦うこともあろう。では、始め!!」
「うっそだろ!?」
「プリズムショット!」
「危ねえ!」
容赦なく始められる試合開始の合図と共に放たれたキラキラ光る石ころを避けるが、
「ホーリィレイ!」
立て続けに真っ白な杖から光線を放って来た。だがそれは俺から大きく外れて、後ろに飛んでった石ころにぶつかり!?
「心眼ッ!」
心眼で光線が来るところを予測し、致命傷になりそうなとこだけを避ける。
身体のあちこちを光の線が焼いていく。鎧全然意味ねぇ!
「くっそ、がぁ!」
あの石ころでホーリィレイを乱反射させて、俺に当てたようだ。
「ラ・キュア!」
俺は即座に、ホーリィレイに焼かれた傷を塞いだ。
それを見たルチアが目を見開き、ぼそっと「なんで無詠唱で……」と驚いている。俺のが驚きだよ。無詠唱でいきなり魔法撃って来やがってよ。
「ったく。お前、ちっと痛くしても、怒んなよ?」
俺の怒気を含んだ声を聞き、顔を強張らせるルチア。
「ま、負けないもん!!」
「加減はしてやるよ」
俺は全力で地を蹴り、ルチアに向かって跳んだ。
「ミラージュワールド!」
ルチアが叫び、強い光が放たれるが、もう遅い。俺はルチアの顔に思いっきりデコピンをしてやった。
「ん?」
ルチアは動かない。リアクションも何にもなし。
索敵スキルでは……。
「後ろか!」
そう言って俺が垂直に跳躍した瞬間、あのホーリィレイが通り過ぎて行った。
ったく。だがお前にできることが、俺に出来ない訳がねぇ。
「ホーリィレイ!」
指先に魔力を込め、ホーリィレイを放つ。ホーリィレイは真っ直ぐにルチアを撃ち……抜かなかった。むしろ反射してきたのだ。
「やっべ」
まして俺は空中。避けられる筈もなく……。鎧は当然、俺の脇腹を貫いていった。
「っ!!」
俺は辛うじて着地には成功し、周りを見る。
「なに……!?」
多重影分身だと……!
「お兄さん、降参して。そしたら痛いことしない、よ?」
「やぁなこった。面倒だ。使わせてもらうぞ黒さん!」
ずっとコロシアムの客席で座って見ている黒さんに言い放つと、笑った。全身黒装束で、顔も隠してるけど。雰囲気的に。それを俺は肯定と受け取り、ルチアを見回して叫んだ。
「栄光之剣!」
全ルチアが驚愕した。そして同時に、ホーリィレイを全員で放ってきた。対応はえーな。まぁ俺がこれを出した時点でお前の負けは決まってる!
「食らえやぁ!シャイニングスラッシュ!」
光の斬撃がホーリィレイを全て打ち落とした。
「もう一発!」
シャイニングスラッシュを放ち、ルチアの分身共を一番奥にいたルチア本体を残して消し飛ばした。
「そん、な……」
「終わりだ」
絶望しているルチアに近付き一発。ちょんとデコピンをしてやった。
「はぅ……」
「しかしいってぇな……ラ・キュア!!」
血が流れている脇腹の傷を塞ぐ。
「多分ねぇと思うが、怪我とかねぇよな?」
「あ、うん」
「じゃあいい。さて黒さん次行こうぜ。まだまだ余裕でいける」
「そうか。だが今日は終わりだ。この闘いを元に、カリキュラムを組む。今日は……ルチア。案内を頼む」
「は、はい!」
「よし。何かわからないことがあれば、その子に聞くと良い」
「りょーかい」
「……行こ。お兄さん」
「ん。行くか」
俺は白髪の少女に手を引かれ、闘技場の外へと連れ出された。
「そういや……」
アルトレアの存在を忘れてたわ。
「ま、いっか」
俺はアルトレアを頭の押し入れにいれといて、手を引く少女と話すことにした。
読んでくれてありがとーございます