とりあえず拐われた。
ガタガタと揺れる暗い馬車の中で俺は目を覚ましていた。
「クッソ……身体中がズッキズキしやがる」
全身にギリギリ耐えられるくらいの痛みがあり、更に身体を雁字搦めにされ、転がされていた。
「起きたか」
「ふん!」
「あれだけ痛い目を見ても、態度を変えないとはな」
「俺は本気なんざ出しちゃいねぇ。つか俺の魔剣どこだ?」
嘘です。結構本気且つ必死でした。
「あれは勇者に相応しくない。クーリッヒに残してきた」
「てめっ……」
人のモン勝手に何してんだよ。
「その口調も我が王の前では慎んで頂きたいな」
「るっせぇ」
周りにはもう一人黒装束でない人間がいる。全身を焦げ茶のマントとフードで包み、腕を組んでいる。
「おい、コイツも勇者候補か」
「あぁ。この方は」
「私はアルトレア=カリバン。カリバン家の当主だ」
焦げ茶……アルトレアはフードを脱ぎ、寒気のするレベルの眼光を放って来る。
つかイケメンだな。暗闇の中だとかなり目立つ、長くて質の良さそうな銀髪と、女性のような顔立ち。目は金色で、雰囲気もどこか人間離れしている。
「俺は金屋じ」
「貴様のような下賤な者に興味はない。どうしてこのような者が、勇者候補になったのか、参考までにお聞きしたい」
アルトレアが俺の言葉を遮って、黒装束に話を聞いた。ムカつく野郎だ。
「この男は、栄光之剣を召喚したのです」
「なに……?」
アルトレアの俺を見る目が変わった。多分、物凄く悪い方に。
「この馬車を止めろ」
「それは駄目です」
「私はこの男を試したいのだ」
「せめて王都の勇者育成所で行って頂きたい」
「私の言うことを聞けないのか?」
アルトレアが凄まじい殺気を出して黒装束を見る。だが黒装束も態度を変えずに言った。
「あまり我儘を仰ると、勇者の資格、剥奪しますよ?」
「……!」
アルトレアの表情が固まる。
「それに彼も彼で、実力は確かです。影である私の気配を察知し、あろうことか、一体一の戦いを避けられてしまった。これはどの勇者でも、あまり前例のないことです」
「ほう。だが結局はこの様だ」
「それは私が用意した影に襲われたからですよ。彼が万全の状態で、私が一人だけの場合、負ける可能性もありました」
「……」
黒装束の俺語りについにアルトレアが黙る。褒めてくれるのは良いが、本当実際何も出来ずに転がされてるからな。敵無しと思ってたらこれだよ。ったく。
「何せ私が本気で迫った筈なのに、生きてますからね」
「殺す気だったのかよ!」
「それくらいじゃないと無理だと思いましたので。それに無理でしたし」
「と、そろそろ着きますよ」
「王都か」
「ええ。君は二日くらい寝ていたから、大分早く感じるだろう」
「ちょ、待て、二日ぁ!?」
「あぁ」
「そんなに寝てたのかよ……」
「そういう術式を施したからな」
「へぇ」
と、まぁ敵意バリバリの状態で話していると、でけぇ門が見えてきた。周りは石の壁で囲まれ、生半可な物では壊せないって感じだ。壊す必要もないだろうが。
「ここが……」
「そう。我が王国、フォルトだ」
ガタゴトと揺られながら着いたのは、
服屋だった。
俺はロープを外され、解放されたが、逃げないようにと念を押されまくった。
まぁどうせ、逃げられねぇし?索敵スキルだと俺を潰したやつらが点々といやがるからな。
「今の流れ、普通は城じゃねぇ?」
「貴様、そのような汚い姿で我が王に謁見する気か」
「いや、まず大前提にする気もないというか」
「貴様……我が王を愚弄する気か?」
黒装束からうっすらと殺意が放たれる。
「はいはい。すんませんでしたぁ」
つか愚弄はしていない。
「ふん。……ユリエはいるか?」
「はーい影さんいらっしゃいまーせぇ」
二十代後半くらいの、頭の緩そうな美人が姿を現した。
「この者に出来るだけ良い服を金貨五枚分で見繕ってくれ」
「はぁ〜い」
「それからマグラにもいつもの装備を用意しておくよう、伝えてくれ。二人分だ」
「かしこまりました〜」
ユリエは金貨をもらい、店の奥に消えていく。
「暇だー。腹減ったー」
「黙れ。俺はマグラのところへ行くから、戻るまで静かにしていろ」
「チッ」
そして先程からだんまりのアルトレアはというと。
「……」
ジッと俺のこと見てんだよなぁ。
「なぁアルトレア」
「私を気やすく呼ぶな。愚民が」
「そういうなよアルトレア」
「次私の名を呼んでみろ?次は」
「ア〜ルト〜レア〜♪」
「殺す!」
アルトレアが剣を……抜かずに何かを唱え始めた。余りにも短気。大丈夫かコイツ。カルシウム足りてっか?
「我と盟約を交わし、友となると約束せし光の精よ。我の呼び掛けに応じ、仇成す者を聖なる力を用いてうち滅ぼせ!」
と、アルトレアが叫んだ瞬間、光り輝く炎の妖精みたいなものが出現し、
「「フォトン!」」
一人と妖精が同時に叫んだ瞬間光が俺を包んで爆発した。
「あいってぇ!」
俺は転がりながら爆風で壁に打ち付けられた。あれくらいでキレるとか最悪だな。
「まだ生きているのか。ならこれで終わらせてっ……」
「貴女も少しは感情の起伏を抑えたらどうですか?」
黒装束が音もなく現れ、アルトレアを気絶させる。
「お、サンキュー。助かった。流石に腕がんじがらめにされてるとなんもできねぇからな!!しかし、すげぇなあんた。他人がやられてるとこ見ると、改めてやべぇって思うわ」
もうプロだね。プロ!
「私としては、フォトンが直撃してピンピンしてる君の方がよっぽど凄いと思うがな」
「あんなん大した攻撃じゃねぇよ。あんたらの方が全然ヤバかったし」
と言うと、何故か嘆息し、アルトレアを店の椅子に座らせて、部屋の奥に戻っていった。
「なんか俺化け物みたいじゃねぇか」
しばらく店の中で立っていると、黒装束が帰ってきた。
「これを着ろ」
黒装束が持ってきたのは、
「学ラン?」
「ガクラン……?貴族の子息が着ていておかしくない礼装だ。出来る限り汚すな」
「ちょっと豪華な学ランにしか見えねえ。まぁいいや、努力するわ」
「それと、これだ」
「はいよにいちゃん。しっかり持ちな」
「なんぞこの箱?」
渡されたのは金色で縁取りをされた、紫色の箱。革製っぽい。紫色の革?
「これは異次元ボックス。箱の中に次元魔法が付与してあって、見た目以上に物が入る。中身はこれだ」
と、取り出されたのは、俺と同じぐらいの背丈のフルプレートアーマー一式。マネキンごとかよ。
「これは勇者育成所で使われる一般装備だ」
「一般装備つってもにいちゃん!それは俺が王国に売ってる、最高級の騎士装備に影さんが王族御用達の加護を与えた物だからな」
「うぇっ?なんでそんな高そうなもん」
「君達は人類の希望で、いずれ来るであろう戦いの日において、王族の次に大切にされるべき人材だ。それ故に装備も、扱いも相応の物にする事が定められている」
「へー」
「だけども、影さんが自分で付与する事なんてまずないからな!!お前さんはきっと特別だぞ!!」
「マジかおっちゃん!黒さん最初の印象くっそ悪いけど、割と良い人だな!?」
「く、黒さん?」
「だっはっはっ!影さんあんま変わんねぇから大丈夫だよ!にいちゃん、影さんはぶっきら棒で、無愛想で、いつも怒ってる風だが、俺が知ってる中でも断トツに優しい男だよ!」
バシバシと、防具屋のおっさんが黒さんの背を叩く。
「マグラ、痛いからやめてくれ」
「おっと。すまん影さん」
「さて。時間も遅くなると、マズいからな。行くぞ」
「ラジャー!」
「む……」
というわけで俺は意気揚々と馬車に乗り込んだ。
発車する直前。アルトレアを店に忘れていたのを思い出した黒さんが、走っていくのを見て笑ったのは秘密。
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