とりあえず負けたのはわかる。
…………。周囲は闇に包まれている。俺は、何をしていたんだ?
何かの気配……。人間とも動物とも思えない。神、でもない。
何だ。
『ジン。貴様が我の後釜か。黒角狼をレベル1の状態で倒す力。素晴らしい』
お前は、なんだ?
『それはまだ、言えぬ。だが必ず、会うことになるだろう』
何を言っている?
『現実で会えることを楽しみに待っているぞ、次代魔王よ』
次代魔王だと?
『ではな』
おい
「待て!それ自分魔王って言ってるようなもんっ!?」
「きゃあ!」
ゴヅッと何かにぶつかった。
「いっ……でぇ……」
「ジン!起きたのね?!」
ぶつかったのはエルだったようだ。赤くなったデコを涙目でさすりながら立ち上がり、近づいて来るエル。
「あ、あぁ」
つか、近すぎ。顔超近い……。照れるわ。
なんか良い匂いがする。女の子って感じの、かいでて辛くならない匂い。自然に出てくる匂いっつかなんつーか。とにかく、心地良い匂いだ。
「ジン、ジ〜ン〜? 聞いてるの?怠いとか辛いとかない?」
「ん……あんまねぇな」
ベッドから出て軽く身体を動かしてみる。
「っし。大丈夫だ。問題ねぇ」
「ジン、回復力も凄いのね……」
「そんなすげぇのか?」
「それに角狼まで倒しちゃったし」
つか、ステータスどうなった?ステータスっと。
金屋仁
16歳
Lv13
攻撃力50
防御力50
魔力100
魔防御力50
成長P120
スキル
鑑定 詠唱破棄 経験値三倍 ステータス三倍 索敵範囲拡大 耐寒二倍 耐熱二倍 心眼 金運上昇 アイテムボックス 闇耐性 光耐性 闇属性強化 光属性強化
ジョブ
神の使い
勇者候補
魔王候補
おぉー!なんかポイントやべぇし、色々スキル増えてるし、ジョブが、え?勇者と魔王両方入ってんだけどそれってアリなの?
鑑定。
勇者候補
光属性、闇耐性が上がる。また、栄光之剣を使用、強化できる。
魔王候補
闇属性、光耐性が上がる。また、低級の魔物を操れるようになる。
なんか、すげぇな。
とりあえず、成長Pを割り振るか。
攻撃力はあんま問題ねぇな。栄光之剣あるし、一応魔剣ア・リュードもあるし。つか影薄いんだよなコイツ。さっきだって、杖だったし。大剣を使う心得なんてねぇからなぁ。
とりあえず、栄光之剣保つにゃ魔力が高くないとダメっぽいからな。魔力に……50いくか。魔防御力は30、防御力にも30。残り10を攻撃力に割り振っとくか。
よし、完了っと。
「うわっ!」
一瞬身体ピリッとしたわ。身体軽っ。マジか!ヤバい今俺めっちゃ元気!
「じ、ジン?」
「どした?」
「さっきからいきなり黙ったり声あげたりして、大丈夫?もしかして頭に異常が……」
「お前可愛い顔してひでぇこと言ってるぞ!?」
「か、可愛い……?ちょ、ちょっとなんてこと言うのよ!」
パシンッと軽く頭を叩いて、部屋をかなりの速度で出て行くエル。
「な、なんか悪いことしたか?俺」
しばらくして、再びクーリッヒ緊急会議に呼ばれた。
「ジン、君には王都に行ってもらおう。君は勇者の資質がある。事実、栄光之剣を扱える人間だからな」
「王都行って何すんだ?」
「王に会ってもらい、その後勇者育成所に入ってもらう」
「あ?」
「栄光之剣を使える者や、光魔法を使え、尚且つ凄まじい実力を持つ者は大概入れられる」
「お断りだ」
「え?」
「なんだと?」
何で俺がそんなとこ入らにゃならんのだ。ぜってぇ入らんぞ。異世界来てまで学校なんぞ。
「嫌だって言ってんだよ。俺は自由だ。だから俺はそんなところに入る気はない」
「ジン。君が何を言おうと、もう決定事項なのだ」
「何を勝手に……」
後ろに何かがきた。俺は席から飛び退いて、後ろにいた奴を見据える。
「全身真っ黒とか、ある意味わかりやす過ぎるカッコだな」
全身黒装束に包まれている相手は手元に針のような物を持っている。
「俺の気配を、察することが出来るとはな。さすが勇者の資質を持つ者だな」
「はっ。クソが」
「言葉遣いは相応しくないな」
「後ろから襲ってくるような奴に言われたかないね」
「さて、話はこれくらいにして。眠ってもらおう」
黒装束の姿が、ブレた。
心眼ッ!
辛うじて視界の中に黒装束が見える。心眼を持ってしても黒装束の動きは早く、読みきれない。ガイン村長の家だからな、あまり壊さないように……!
「フッ!」
黒装束を上回る速度で振り向き、右かかと落としを当てる。
だがそれを黒装束は僅かに身を逸らして避け、拳を腹部に突き出した。
「ぐぅ!」
俺はその手を寸でで掴み、思いっきり黒装束を投げた。黒装束は家の壁に着地して、更に加速して跳んだ。俺はそのうちに村長の家から出て、広場まで全力疾走。
「村の中に人はなし、か。予想してやがったな、この展開を!」
走る俺を追い抜かし、見定めるようにして、俺を見る黒装束に怒鳴る。
「念のためだよ。私が失敗し、逃げられた時に、一気に捕まえるために」
「なっ!?」
黒装束の人間が次々と俺を取り囲むように現れる。
「大人していろ。そうすれば痛みを伴うことはない」
俺一人に対して二十人程の黒装束。これは分が悪いか。だが。
「栄光之剣!」
俺は栄光之剣を召喚し、構える。
「俺は諦めが悪いんだよ」
「そうか。残念だ。……やれ!」
一斉に黒装束が飛びかかってくる。
「ジン!」
視界の端にエルが映り込む。
涙を隠そうともせず、手を伸ばすエルを、押さえつけるガイン村長。
俺はエルに言った。と言えど声は出ていない。必ず、解放しに来る、と。そこで俺の意識は途切れた。
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