とりあえず助けたった
神に言われるがまま、森に入ったのだが行けども行けどもあるのは木ばかり。時々動物か、いわゆる魔物っぽい物を見掛けるが、特に襲われる事もない。
「あーなんか、ムカつくわ」
なんかいないかねぇ……いる?索敵スキルかこれ……ひぃふぅみぃ……六個くらい、反応あるな。ちと行ってみるか?
ひとっ走りして、隠れやすそうな茂みへ、そそっと隠れて覗き見をすると、ガタイの良いおっさん三人と犬っころが二匹と、ブロンド髪のきっれーぇな女の子が一人……。あ、これ結構ヤバいやつか?
「おい嬢ちゃん、大人しくしてりゃあ悪いようにゃしねぇぜ?」
「ひっ……や、やだ、近付かないで……」
下卑た笑みを浮かべて、小さな女の子にジリジリと近付くおっさん。
「連れねぇなぁ。俺たちはただ君を自由にするためにいるんだぜ?」
「そんなこと、頼んでなんか……」
「ガルルゥ」
犬っころの一匹が俺を見て唸りやがった。やっべ。
「誰かいるのか?」
「いけっ」
犬っころ二匹が俺に向かって走り始めた。ヤバいヤバいヤバいヤバい!目血走ってるがな!めっちゃ早いし!明らかにただの犬じゃねぇ!
そんな思考してるうちに犬っころが目の前に来て飛び上がった瞬間……。世界が再び静止した。
いや静止じゃないな、ほんの少しずつ動いている。ただ、俺の身体も、ゆっくりになってるから、動体視力が上がる能力みたいなもんか!?でも、このスローモーションだからこそ、飛び上がった犬っころの腹部が露わに見える。
「おっらぁ!!」
犬っころのわき腹を思いっきり蹴り飛ばした––––。だけのはずが、上半身と下半身に千切れて飛んだ。と同時に血飛沫が俺にかかる。
「うげっ、マジか、殺す気は無かったんだが」
もう一匹の方が殺られた方に近付き泣いている。
「そのまま戦意喪失してくれればいいんだがな」
「ガルゥッ」
「おっと」
最初こそビビったが、所詮ただの犬。飛び付いて噛むことしかないようだ。俺は同様に犬を蹴り飛ばした。だが、死なない様に出来る限り手加減して。
「キャウンッ!」
ぼんっと木に当たってその場に伏せる犬。
「こんなもんか。つかこの血ベタベタしてくせぇな」
顔に付いた血だけ、とりあえず服で拭い、おっさん方の前に出てみた。
「大の大人が子供相手によってたかって恥ずかしくねぇのかよ」
少しだけキョトンとするおっさん達。しかしすぐに、にやにやとしながら近付いて来た。
「おい兄ちゃん、犬二匹殺ったくらいでヒーロー気取りか?」
「あん?」
「兄ちゃんが思ってるほど世界は甘くないぜ?」
「はぁ」
「そんなわけだから、大人しく殺されぶげふっ!」
正面から軽く顔面に蹴りをいれ、おっさんAを吹っ飛ばした。おっさんAは後頭部を地面へ勢いよくぶつけて、白目を剥いた。
「わりぃ、手加減してんだが、相手になんねぇわ」
「テンッメェ!」
おっさんBが鬼の形相をして殴りかかってきた。ま、顔こえーだけでド素人の典型的なテレフォンパンチだし、これなら昔の俺でも余裕でかわせるって!
「うろちょろとめんどくせぇ!」
おっさんBが懐からナイフを取り出して、俺に向かって投擲した。
「おせぇよ」
「なっ……⁈」
俺はナイフを人差し指と中指で挟み、そのまま投げ返した。
ナイフはおっさんBの膝に突き刺さり、痛みに耐えきれず、思いっきり転んだ。
「ガダル!」
「ゾグル!俺に構うな!殺れ!」
「わあってる!魔剣ア・リュード!」
魔剣?背中に背負ってるデカイやつか。でけぇな。
「兄ちゃん、残念だったなぁ。これがなければ、俺たちもヤバかったが、俺たちにはこの魔剣がある!」
「魔剣か……なんかいいな魔剣!」
「お前はその魔剣の錆になるんだよ!行くぞ!」
俺はゾグルと呼ばれたおっさんCが動く前に近付き、手刀で首を叩く。
「ガッ」
今なんかゴキッて言ったな……。なんかよく見る格闘漫画の真似したんだが、今やっちたったかな。
「ぞ、ゾグ……」
俺はゾグルの手から魔剣を取り、ガダルと呼ばれたおっさんに投げ付けた。
「あ、ぐぁあああぁ……」
ガダルのわき腹に突き刺さり、そのまま背後の木へ、奴が縫い止められる。
「なんだこれ……」
ガダルから血が全く出ていない。変わりに白い魔剣の刀身が赤黒い色に染まっていく。
血を吸ってやがんのか。ガダルはあっという間に蒼白になり、動かなくなった。
魔剣……欲しいな。よくわからんけど。
「抜いとくか。よいっしょぅっ!あの女の子はーと」
周りを見回す。あ、見回す必要ねぇじゃん。索敵スキルあるし。
「お、おい、大丈夫か?」
茂みにちょこんと隠れている少女に出来るだけ優しく声をかける。
「いや、助け、うわぁあああん!」
「えええええ⁈」
なんか顔見た瞬間号泣されてんだけど⁈
「だ、大丈夫だ。俺は味方だ、助けに来たんだよ」
「う、嘘よ、あんな簡単に人を殺す人間が、人助けなんてするわけないじゃない!」
「いや嘘じゃねぇよ!むしろ殺っとかないと俺がヤバいって!」
つか、俺、人を殺したのか。今気付いたわ。殴るのは慣れてるけど、殺すなんて、初めてだ。いや、気付かなかったってのもどうなんだ?……今更ながら震えてきたわ。どうしようか……。
「ど、どうしたんですか?顔色がどんどん悪くなってますよ?」
「あ、いや、うん」
よくよく考えたら、俺は殺るか殺られるかだったんだな、喧嘩じゃねぇんだ。
「……大丈夫、ですか?」
「あぁ。ちょっと待ってくれ」
「あの、全然大丈夫に見えないんですけど。手震えてますし」
……あ。
「大丈夫ですよ」
暖かくて、小さな手が、俺の震える手を包むようにして、握っていた。
「血が付くぞ」
「あなたが、私の為に動いてくれたっていうことはわかりましたし。……怖がってしまって申し訳ありません。ありがとうございます」
「当然のことをしただけだ」
「それでも、ありがとうございます」
少女は天使のような笑みで、笑いかけてくれた。
「も、大丈夫だ。とりあえず村まで行くとしようか」
「はい!」
十分程で手の震えが無くなったので、再び行動することにし、自己紹介などをした。
少女の名前はエル=ジェン。ストレートでロングのブロンドヘアーで碧眼。真っ白なワンピースを着ている。背丈は百四十くらいで、すっげぇ可愛い。……俺はロリコンじゃねぇよ。
つかこの世界にこんなワンピースあんのな。他にもちゃんとした服あったりすんなら嬉しいな。血みどろになったし。
「村までの道はわかるか?」
「全然大丈夫ですよ!」
「おっし。つかさ、お前なんで襲われてたの?」
と聞くと、エルは苦虫を噛み潰したかのように顔を歪ませた。
「あ、言いたくなかったら言わなくても良いんだぞ?」
エルは首を小さく横に振り、上目遣いに語り始めた。
か、かわええ。かつてここまで目線だけで俺の心を震わせる人間がいたであろうか、いや、いない。
「私、外の世界に行きたかったんです」
「外に?」
「村に時々来る冒険者の方々が外の世界のお話を聞かせてくれるんです。それで外の世界は危険だけど、凄く楽しいんだって知って」
「村を抜け出したと」
「はい」
「んでどうしてあぁなった?」
「村を出た直後、冒険者だってあの人達が来て……」
「着いてっちゃったか」
子供か!あ、子供か。
「なんか失礼なこと考えてない?」
「いやいや全然全く持って考えてないよ」
「逆に怪しいわよ」
「いや。可愛いなと思っただけで別になんとも思ってないよ」
「はぅ……」
エルの頬が赤くなった。一々可愛いなぁコイツ。
「あ、見えたよ!」
「おっ……」
なんか凄いゴツい人達が凄い顔しているんだけど。もしかして俺すげぇ……ヤバい?
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