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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
五章 帰還
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「え?」

「あっ」

「あら!」

「は?」

 同時に響いた声である。


 疑問形になっていない声は関小玉と楊清喜の、疑問形になっている声は来客の……周文林と張明慧の声である。

 なんで二人がここにいるのか。

 そんなことよりも関小玉と楊清喜が同時に思ったことがある。二人は目を見交わし、お互いが同じことを思っていることを認識し、そして行動に移った。

 すなわち、

「会いたかった!」

 関小玉が、馬から飛び降り、叫んで抱きついたのである。


 もちろん、張明慧に。


 二人が思ったこと。それは、張明慧を関小玉の恋人に仕立て、この場を乗り切ることだった。

 周文林を恋人にしたてる? そんな信憑性のない嘘、つくことすら考えられない。


 もちろん、全く打ち合わせはしていない。


 突発的な事態なのは、周文林たちも同様のはずだった。いきなり訪ねてきた相手(しかも相手は関小玉である)に抱きつかれたら、普通は動転するところだ。

 ところが、ここがこの人の大人物たるゆえんだが、さすが張明慧は動じなかった。「はっはっはっ、いきなりどうしたんだい」と磊落に笑い、関小玉を抱きしめ返した。

「……」

 張明慧の隣にいる周文林は一見無表情、だがわかる人間には動転しきっていることがわかる表情で言葉も発さない。だが、それはそれでいい。

「話合わせて、話合わせて」

 彼の方に向かってささやく。聞こえないだろうが、唇の形でなんとなく意味をよみとったらしい彼の表情が少しかわる。耳元で囁かれたため、こちらは直に聞き取った張明慧の腕に少し力がこもる。

 さすが、話が早い。関小玉はにんまりと笑った。その表情は隠さない。嬉しそうに見せることが今は必要だから。

 その表情のまま、振り返って言い放った。


「この人、あたしの恋人なの」

 張明慧が白い歯をキラリと光らせて笑った。


 さて、ここで張明慧の外見をおさらいしてみよう。

 おそらく、関小玉の腰回りくらいはある腕といい、筋骨隆々とした肉体は、大抵の男性兵士よりも鍛え抜かれている。武威衛最強と言われているのが、見た目だけで納得できる人物だ。



 しかも、女性である以上、胸はあるが、それは乳房というより、大胸筋と言った方が正しい。それほど筋骨粒々としている。

 そんな彼女は「武威衛どころか軍内ぶっちぎりで嫁に行けそうにない女」部門において1位を常に所持しており、同時に「武威衛どころか軍内ぶっちぎりの好漢」部門も常に1位を記録している人物である。

 もう、見た目とか雰囲気とかからもうかがえるほど、色々な意味で元許婚がかなう相手ではない。



 かくして、こうなった。

 元許婚は、周囲のものがぽんと肩に手を置き、あきらめろと説得。それでもごねる元許婚は数人の男に抱きかかえられ、どこかにつれていかれた。


 関小玉は関小玉で何故か村長に「出て行け!」と怒鳴られ、言われなくても出て行くわと言わんばかりにこれ幸いと村を後にした。もちろん周文林も一緒に。彼らは事情もわからないままに、来たばっかりの村を去ることになった。




 余談だが、ここで関小玉を追い出した形になってしまったため、この村は、関小玉が皇后となった後、皇后生誕の地としての様々な恩典(租税免除等)を受けられなくなる。

 そのせいで村長たちはやたらと肩身の狭い思いをするが、それはまた別の話である。

 さらに、皇后を追い出してしまったことを恥として、そのことを隠し続けた挙句、3代後にはその事実がすっかり忘れ去られて、武威皇后の出生地は永久に不明となってしまい、神秘性を増したのはいいものの、歴史学者が頭を抱え続けることになるのもまた別の話だったりする。



「ところであんたたち何しに来たの」

「お前迎えに来たんだよ!」

 周文林たちが乗ってきた馬を合わせると合計4頭。それぞれの馬に荷物を分散させたおかげで、関小玉と甥、楊清喜と義姉という組み合わせで騎乗することができた。

 関小玉が自分の馬を周文林の馬に近づけて問いかけると、周文林はなんだか苛立たしげな目を向けてくる。自分は何かしただろうか。

 ……心当たりが多すぎた。

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