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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
五章 帰還
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 村に週1回来る飛脚を見送った関小玉は、背伸びをした。


 よし終わった!


 出した手紙のことは、基本的に忘れることにしている関小玉は、今回出した手紙もすぐ忘れた。

 なんたって送った手紙は、届くまでに時間がかかるし、返事が帰ってくるのには更に時間がかかる。考えているだけ損だと思う。


 そして、考えるだけ損なもう一つの存在・元許婚も、楊清喜が本当に撃退してくれているので、結構清々しい日々をおくれている。

 いや、あいつ本当に優秀だわと感心する関小玉は、彼がどうやって撃退しているのかまでは知らない。とくに聞きたいとも思わないので。そういうわけで、彼女は心おきなく農作業に従事していた。


 ……が。

「お父さんと結婚してください」

 さすがにこれは楊清喜も撃退しきれなかったらしい。無理もない。関小玉も全然これは予想していなかった。


 えー……。


 思わず顔を見合わせる関一家……と楊清喜。それにすがるような目を向ける……元許婚の子どもたち。

 どうしてこうなった。

「お、お父さんは、ずっとあなたのことが好きで……だから」

 元許婚の子どもたちが後押ししてくれる……再婚にはこの上ない理想的な状態である。しかし、関小玉はこの時、自分史上最高に無理だと思った。




 ここで、関小玉と元許婚のおさらいをしよう。今から9年前の話である。



 笑えることに、この話は悲恋として語り継がれているのだとか。


 一人の少年が一人の少女と将来を誓い、そして結婚する日が近づいてきた。そんなある日、地主の娘が少年に恋をし、自分と結婚しろと迫ってきた。下手をすると少女に危害を加えそうだったので、少年はやむなく地主の娘と結婚した。そして、少年はずっと少女を捨てたことを後悔し続けていたのだとか。


 要約としては、けっこう良い線行っている。


 だが、実際はかなり違う上にいろいろ足りないことを、当事者中の当事者といえる関小玉はよく知っている。

 まず、危害云々の件については、最近故郷に戻ってから初めて知ったことである。もしかしたら実際に地主の娘は関小玉に危害を加えようとしていたかもしれないが、それならそうと元許婚は忠告なりそうだんなりするべきだった。

 つぎに「やむなく」というあたりは豪快に違う。元許婚が金に目がくらんだわけではないとは思うのだが……なんというか、彼、苛々していたのでのである。

 結婚が迫るに連れて、元許婚は神経を尖らせるようになり、それと地主の娘の恋が変にむすびついたのである。つまり、

「どうせお前は俺のこと好きじゃないのに結婚するんだろう!」

 と絶叫されて、ぽかんとしているうちに破談という流れである。


 当時は傷ついたし、悩みもした。だが、自分で働いたり、人生経験を積むようになって、わかったことがある。

 結婚前の情緒不安定って、普通花嫁に起こるものだよね。

 もうそれだけでなんだかなあ……という感じだった。

 ちなみに、関小玉は結婚前、そんな気弱さを一切持たなかった。それが元許婚の情緒不安定をさらに招いたらしいが、知るかそんなこと。


 さらに、関小玉は子どもにこんなことを言わせるということが許せなかった。

 元許婚が子どもに言い含めてこんなことを言わせていたら最低だし、そうでなかったとしても自発的にこんなことをいう子に育ててしまったこと自体腹立たしい。察するに後者だろう。

 夫婦仲は悪くなかったと聞いていた。だが、子どもたちがこんなことを言うということは、きっと、幸せな夫婦生活ではなかったのだろう。


 それは、無責任だと思った。


 世の中、仲の悪い夫婦はいくらでもいる。だからこれは甘っちょろい考えだということはわかるし、無理なら諦めることも一つの選択だろうが、結婚したからには「琴瑟相和きんしつそうわ」を目標に掲げるのが夫婦というものではないか。

 しかも、理由や精神状態がどうであれ、自分の意思で結婚したのだからなおさらだ。子どもの前では特にそうだ。特にこの夫婦の場合、子どもに責任が一切ない。


 今からあいつを殴りにいこうか。


 腕組みして物騒なことを考える関小玉。だが、家族と楊清喜は彼女の思考が別のところにあると考えたようであった。そのことにこの時関小玉は気づかなかったが、その晩、楊清喜に深刻な表情で話しかけられたのだった。

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